メルセデス・ベンツE200カブリオレ スポーツ(FR/9AT)
普通で特別 2018.04.20 試乗記 新型「メルセデス・ベンツEクラス カブリオレ」に試乗した。“先代よりも大きく広くなった”とはいえ、セダンと比べると実用性では大きく劣るのがオープントップモデルの宿命。過去に3台のオープンモデルを乗り継いできたリポーターは、どこに価値を見いだした?有用性ではなく気持ちよさ
朝クルマを受け取り、箱根や秩父、房総半島などに向かう。高速道路やワインディングロードを走り、夕方には帰ってきてクルマを返却。ようやくクルマに慣れ、親しみが湧いてきたところでお別れしなければならない。試乗では、いつものことだ。後ろ髪を引かれる思いでドライバーズシートから降りるわけだが、その時の気持ちは毎回同じではない。今回は、いつにも増して名残惜しかった。試乗中ずっとEクラス カブリオレを所有する暮らしについて、思いを巡らせていたからだ。
どんなクルマに乗るかでライフスタイルは変わる。逆に、ライフスタイルに合わせてクルマを選ぶこともできる。アウトドア好きならSUVがぴったりで、走り屋にはスポーツカーがふさわしい。子育て中で家族を第一に考えているのであれば、ミニバンの高い実用性が最大の価値となるだろう。オープンカーはどんなライフスタイルに合うのかというと、ちょっと答えに窮する。オープンカーの有用性というのはなかなか思い浮かばない。屋根を開け放って風に身をさらしながら走る気持ちよさだけが、オープンカーを選ぶ動機となる。
Eクラス カブリオレは、4人乗りのオープンカーである。「Eクラス」の一員なのだから、基本性能がしっかりしているのはいうまでもない。正直にいって、セダンに比べれば実用性や利便性で劣る部分はあるだろう。ドアは2枚しかないし、大量の荷物を積むのは無理だ。不便を覚悟しなければならない上に、セダンより値が張る。それでも、あえて普通のクルマとして選ぶには度胸がいる。
試乗したのは、2リッター直列4気筒ターボエンジンを搭載する「E200カブリオレ スポーツ」。最高出力は184psだから、とりたててハイパフォーマンスではない。日常使いで不足のないスタンダードなパワーユニットである。
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慎み深くて力強い
雨がパラついていたので、クローズドのままスタートした。雨がホロをたたく音は、まったく気にならない。オープンカーであることを意識せずに走る。ルーフがないせいで剛性に不安を感じるような場面はなかった。セダンと乗り比べれば差があるのだろうが、段差を越えてフロアがきしむような事態にはならないのだ。タフで屈強なボディーに包まれている感覚は、ほかのメルセデス・ベンツと変わらない。
発進で急ぎすぎないのは、このブランドの慎み深い気構えの表れである。つい先日乗った「S450」がモーターの力を借りて鋭いレスポンスを演出しているのがむしろ変わり種なのであり、2速で慌てず騒がずスタートするのがメルセデスらしさだ。「BlueDIRECT」と名付けられた直噴ターボは素直にパワーを供給し、悠々と加速していく。エッジを効かせた速さではなく、余裕をもった力強さである。組み合わされている9段ATのスムーズさはこの上ない。
運転支援システムの「インテリジェントドライブ」は標準装備。自動ブレーキやレーンキーピングなどに加え、歩行者を感知すると衝突を避けるためにステアリング操作をアシストする機能も付いている。メルセデスが「アクティブディスタンスアシスト・ディストロニック」と呼んでいるアダプティブクルーズコントロール(ACC)と「アクティブレーンキーピングアシスト」を使い、運転を半ばクルマに任せて走った。
最近では、前を走るクルマが一定車速でクルージングしているのを見かけることが多くなった。上りでも下りでも一定の速度を保つのは人間では難しいから、おそらくACCを使っているのだろう。特にスバルのクルマはACC使用率が高いような気がする。装備が普及していくと、速度と車間距離を固定してコンボイ走行するのが普通の光景になっていくのかもしれない。E200カブリオレには「アクティブレーンチェンジングアシスト」も装備されているから、ウインカーを出すだけで勝手に車線変更もしてくれる。最新のクルマに乗っていると実感する。
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あの手この手で風から守る
雨がおさまったので、いよいよホロを下ろす。操作はワンタッチで、開けるのにも閉めるのにも、要する時間はわずか20秒だ。試乗日はまだ春の陽気が訪れておらず、肌寒さが残っていた。それでも、オープンカーに乗る者は気丈に振る舞う義務がある。寒そうに見えてしまうのはもってのほかだ。もちろんガマンには限界があるので、寒気に立ち向かう装備をフル活用する。シートヒーターの効きは強力で、お尻まわりと背中は温かい。冬のさなかでも十分に機能してくれそうだ。
ウインドスクリーンは頭の上まで来ているから、室内への風の巻き込みは少ない。街なかならば、ドライバーと助手席の乗員は快適だ。万全な防御を望むなら、「エアキャップ」を作動させればいい。前後の風よけデバイスが電動で立ち上がり、空気の流れを整えてくれる。どちらもメッシュ状になっているのだが、気になったのはフロントにある装備の形状である。風を包み込むように受け止めるので、網の部分に当たったものをキャッチしてしまうのだ。走行後に見てみたら、虫が何匹か引っかかっていた。夏の夕方に田舎道を走ると、後始末が面倒かもしれない。
ウインドプロテクションを使っても、冷たい空気をシャットアウトするのは不可能だ。エアコンを全開にすれば、キャビン内には暖かな空気が滞留する。高速道路をオープンで走ることも可能なのだが、さすがに風の巻き込みで暖気は失われる。足元は平気でも、上半身は寒気にさらされてしまう。でも、大丈夫。「エアスカーフ」という強い味方がある。ヘッドレスト下部に設けられた送風口から、暖気を直接首に当てる仕掛けだ。空気の膜を作るので、冷気をさえぎることができる。ただし、街なかの信号待ちなどで停車している時などは熱すぎる。強さは3段階で調節できるので、面倒でも手動で調整するしかない。
ホロを収納する都合上、トランクの容量は制限される。ホロを上げれば少しだけ荷室の高さが増すが、焼け石に水。トランクスルーの機構が用意されているので、後席を倒して容量をアップすることはできる。ただ、オープンカーでそういう悪あがきをするのは野暮(やぼ)というものだ。
実用性重視のオープンカー
大量の荷物を運びたい時は、あまり役に立たないクルマだ。逆にいえば、困るのはそれくらいである。日常生活では、このクルマでは困るという場面は少ないだろう。2シーターオープンは完全に非日常の乗り物だが、4シーターオープンは実用性が重視されているのだ。
個人的な話で恐縮だが、オープンカーには3台乗った。2台は2シーターで、1台は4シーターだった。古くて小さな2シーターオープンに乗っていた頃は、「オープンカーの快楽は不便さに反比例するのだ!」と意気がっていた。今でも原理的にはそのとおりだと思う。孤高の喜びはかけがえのないものだ。ただし、4シーターオープンに乗っていた時のほうが、生活の楽しみは充実していたように記憶している。
E200カブリオレは、4シーターオープンの中でも実用性と利便性の高いモデルだ。動力性能には余裕があり、先進安全装備も最新のものが装着されている。シートは快適で、インテリアのしつらえは上品で豪華。日常生活で普通に使えて、いざという時にはオープンエアモータリングを楽しめる。普通と特別というダブルの価値があるわけで、2台持っているようなものだ。そういう考え方は貧乏くさいと昔は思っていたが、乗ってみると満ち足りた気分になる。年をとると、無駄な骨折りはしたくないのだ。
オールマイティーなクルマだが、いい気分をスポイルする点がなかったわけではない。1つはACCのコントロールスイッチがレバーを用いる旧式のもので使いにくいこと。もう1つはもっと深刻だ。アイドリングストップからエンジンが始動する時、盛大にブルッと震えて乗員に不快感を与える。メルセデスらしからぬ粗野な振る舞いだ。S450はマイルドハイブリッドシステムのISGがスターターを兼ねているので、滑らかな始動を実現していた。4気筒エンジンにも同じシステムが搭載されるのを待つしかないのだろうか。
東京・二子玉川にある高島屋の駐車場には、シルバーの「Eクラス セダン」がずらりと並んでいることが多い。買い物を済ませて戻ってくると、自分のクルマがどこにあるのかわからない奥さま方は多いはずだ。カブリオレなら、間違いなくすぐに見つけることができる。特別なクルマだからだ。屋根を開けられることにお金をかける心意気を持つ人だけが、日常の中で特別を手に入れることができる。
(文=鈴木真人/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
メルセデス・ベンツE200カブリオレ スポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4846×1860×1430mm
ホイールベース:2873mm
車重:1850kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:184ps(135kW)/5500rpm
最大トルク:300Nm(30.6kgm)/1200-4000rpm
タイヤ:(前)245/40R19 98Y XL/(後)275/35R19 100Y XL(ミシュラン・プライマシー3 ZP)※ランフラットタイヤ
燃費:--km/リッター
価格:804万円/テスト車=882万1800円
オプション装備:ボディーカラー<ダイヤモンドホワイト>(19万5000円)/レザーパッケージ(49万5000円) ※以下、販売店オプション フロアマットプレミアム(9万1800円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:641km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(9)/山岳路(0)
テスト距離:303.8km
使用燃料:38.7リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.9km/リッター(満タン法)/8.4km/リッター(車載燃費計計測値)
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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