人工知能で集客アップ!
街のタクシーはいまこうなっている
2018.05.18
デイリーコラム
異業種協力による変革
『タクシー運転手~約束は海を越えて~』の評判が上々だ。満席で立ち見が出たとも聞く。イケメンが登場しない韓国映画としては予想外のヒットとなった。
1980年の光州事件をテーマにした作品である。ソウルのタクシー運転手がドイツ人記者を光州まで乗せていく。民主化を求めるデモ隊を戒厳軍が武力で弾圧しているという情報を聞きつけ、現場を取材するために危険地帯に向かうのだ。最初はビジネスだけの関係だった運転手と記者が、次第に心を通わせていく。真実を報道するために力を合わせる展開は感動的だった。
通常は、客とタクシー運転手が深い交流を持つことはない。たまに話し好きの運転手もいるが、会話をわずらわしく感じる客もいる。早く目的地に着くことが最優先事項なのだ。運転手の側は、多くの客を乗せてなるべく長い距離を走ることを望む。
運転手と客の思惑はすれ違うが、どちらにもメリットのある関係性を築く方法がある。人工知能(AI)を利用した配車支援システムだ。2018年3月、トヨタが中心になって試験導入を開始した。JapanTaxi、KDDI、アクセンチュアが参加している。JapanTaxiは日本交通を母体とするタクシー会社で、ITに強い。KDDIは通信キャリアの大手だ。アクセンチュアはITシステムの構築や経営コンサルティングを手がけている。AI時代に対応するため、異なる業界の会社がそれぞれの強みを生かしてタッグを組んだということだろう。
JapanTaxiはもともと日本交通の給与システムなどを扱う日交データサービスという会社だったが、2011年からタクシー利用者向けのスマホアプリ開発を開始。配車アプリの「全国タクシー」を作り、マップに乗車位置を指定するだけでタクシーが迎えにきてくれるシステムを完成させた。現在ではさまざまな配車アプリがリリースされているが、先行したことで大きなシェアを得ている。2017年12月に400万ダウンロードを達成し、車両登録数は全タクシー車両の約4分の1にあたる約6万台にのぼる。このアプリで蓄積された膨大なデータを、配車支援に利用することができるのだ。
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ユーザーにとっても朗報
タクシー運行実績とスマホの位置情報を合わせ、人口動態予測や大規模施設でのイベント、天気、公共交通機関の運行状況などの情報を加えてタクシー需要を予測する。「ビッグデータ×AI」という組み合わせが、高い精度の分析を可能にした。東京都内では500mのマスに区切ったマップを作成し、その中のタクシー乗車数を30分単位で予測する。正解率は94.1%というから、ベテラン運転手のカンをしのぐ数値だろう。
実際にこのシステムを利用したドライバーは、売り上げが平均で前月の実績より20.4%増加した。ドライバー全体では9.4%増だったので、有意な差が生じたと言える。今後は通信型ドライブレコーダー「TransLog」から収集される「走行画像」の解析結果も利用し、さらに精度を向上させることを検討しているという。
現在、自家用車を活用するUberやLyftなどの配車事業が広がっており、カーシェアリングも一般化してきた。将来的には自動運転の導入も視野に入る。タクシーが旧態依然とした営業を続けていてはいずれ行き詰まるのは明白で、AIの活用を図るのは生き残りをかけた挑戦なのだ。このシステムの恩恵を受けるのは、タクシー運転手だけではない。需要の多い場所にタクシーが集まることになるので、客がすぐにタクシーを見つける可能性が高まる。待ち時間の減少にも寄与するはずだ。
AIは、SF映画では悪役になるケースが多い。『ターミネーター』が代表的で、AIは人類に敵対し支配しようとする邪悪な脅威として描かれる。権力に反逆する兆候をAIが検知し、危険分子を予備的に捕らえるという設定もよくある。想像の話ではなく、某国ではすでに運用が開始されているとも聞く。正体がよくわからないだけにAIには薄気味悪さがつきまとうが、タクシー配車支援システムはどうか。
タクシーに備えられたタブレットの地図には、予測されたタクシー乗車数とともに周辺を走る空車の台数も表示される。運転手は需要と供給のバランスを確認しながら走行プランを立てることができるのだ。完全にAIに頼りきるのではなく、人間が判断する余地が残されている。乗る側としても、機械が相手になっているという味気なさは感じない。AIによる配車システムは、人間に害を与えることはなさそうだ。
(文=鈴木真人/写真=webCG、トヨタ自動車/編集=関 顕也)
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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