ボルボV90クロスカントリーD4 AWDサマム(4WD/8AT)
眺めてよし 触れてよし 2018.08.29 試乗記 ボルボのイメージをけん引する旗艦モデル「V90クロスカントリー」に、待望のディーゼルエンジン搭載車が登場。“みちのくの夏”を満喫するドライブに連れ出してみると、ライバルとは違った上質さや走りのよさが伝わってきた。ボルボといえばステーションワゴン
あらためて紹介するまでもなく、ボルボのステーションワゴンは、ここ日本においても同ブランドにとって重要な役割を担ってきた、歴史あるラインナップである。輸入車を「ガイシャ」と呼んでいた1970年代からバブル期を経てクルマの魅力に取りつかれた多くの人(特に40代以上)にとって、「ボルボ」や「北欧のカーライフ」というキーワードから想像されるモデルの筆頭は、間違いなくステーションワゴンであるはずだ。
もっとも、最近では世界的なSUV人気に後押しされ、そのボルボといえどもSUVラインナップのほうがメジャーになっている感は否めない。特に何をせずとも注目が集まる「XC90」に始まり、「XC60」「XC40」と続いた新世代SUVがボルボの実質的なセールスをけん引しようとも、しかし、いまだに根強いボルボファンに支持され続けているのがステーションワゴンのラインナップである。
なかでもフラッグシップの「V90/V90クロスカントリー」は、メルセデスとBMWが人気を二分し、それにアウディが続くという、ドイツ勢が寡占状態にあるわが国の大型ステーションワゴン市場における唯一の対抗馬として、確実に存在感が光る。エコや自然との共存をうたう北欧ライフに憧れるユーザー(私もそのひとりだが)にとっても、ボルボは外すことのできないブランドの代表格であるはずだ。
XC90同様に新世代フォルムをまとったV90/V90クロスカントリーは、洗練されたソリッド感あふれるエクステリアデザインを持ち、誰の目にも「新しいボルボ」だと映る。クロスカントリーで言えば、先代までは(正しくは「V70」ベースだったため一概に比較はできないものの)いかにもオフロード志向という野趣あふれるデザインを採用していたが、後継モデルのV90クロスカントリーは、都会の道にも似合う知的なイメージさえ漂っている。
まだまだ存在感を放つディーゼルエンジン
日本導入時こそ、2リッターターボの「T5」、2リッターターボ+スーパーチャージャーの「T6」、そしてV90にのみ2リッターターボ+スーパーチャージャー+モーターのプラグインハイブリッドモデル「T8」という、ガソリンエンジンのみのラインナップだったV90/V90クロスカントリーだが、今年7月11日に待望ともいえる2リッターディーゼルターボの「D4」を追加。同時に行われた従来ラインナップの装備変更や新ラインナップの価格はすでにニュースでお伝えしているので割愛するが、簡単に紹介すればこのD4は、(装備系のグレード展開を無視すれば)ちょうどT5とT6の中間となる価格設定だ。
ボルボは昨年、パワートレインの電動化に関するロードマップを発表済みで、すでに4気筒を超える(つまり従来あった5気筒や6気筒の)エンジンをつくらないことと、次世代ディーゼルの開発を行わないという趣旨の発言を行っている。しかし、欧州でもここ日本でも、ディーゼルの存在価値はまだまだ失われていないのが現実だ。
たとえ予定通りすべてのボルボエンジンが何らかの電動化を果たしたとしても、その時点ですぐさまディーゼルエンジンが廃止されることはないはずだ。しばらくは現存するディーゼルエンジンも何らかの電動化の恩恵を受ける形で、引き続きラインナップされるだろう。
そうした将来のボルボのパワートレインロードマップに加え、ガソリンモデルが先行したこともあって、ディーゼルモデルの追加に“いまさら”感を持っている方もいらっしゃるだろう。しかし大型ステーションワゴンの購入を検討しているユーザーにとって、このモデルはやはり愛車の候補に挙げるべき存在である。その理由のひとつが、この追加モデルのハイライトでもある出来の良いディーゼルエンジンとトランスミッションの組み合わせにある。
乗員に優しいシフトプログラム
今回、仙台で車両を受け取り、東北自動車道を南下。伊達政宗の右腕として名をはせた片倉小十郎景綱とその子孫が260年間も居城した白石城(現在の建物は復元されたもの)をかすめながら、宮城県指定有形文化財として江戸時代の検断屋敷が残る材木岩公園(川と断崖のコントラストが見事!)を経て、七ヶ宿から蔵王を経由し仙台へと戻るという、高速~旧城下町~山岳~高速のフルコースで丸一日ボルボV90クロスカントリーD4のステアリングを握り、あらためてそう実感した。
まるでリゾートドライブを満喫するかのようなコースで行うことになるテストリポートだが、週末は家族や友人と連れだって海や山へと繰り出し、ともすればその様子をSNSでアップするような充実したライフスタイルを好むアクティブなユーザー層が、恐らくはこのクルマのメインターゲットであるはずだ。
ということで、蔵王近くの山々の間を縫って流れる川でひとときの清涼感を味わったり、途中で名物の温麺(うーめん)をおいしく頂いたりしたのも、すべては、リゾートエクスプレスとしてさまざまなバケーションシーンで活躍するはずのV90の実力と魅力に迫らんがためにあえて選んだ行為。できるだけV90系ユーザーの目線になりきるための……と、理解していただければ幸いである。
V90クロスカントリーD4に搭載される2リッターディーゼルターボは、総排気量1968ccの直4から最高出力190ps、最大トルク400Nmを生み出す。このスペックは、同エンジンを搭載したXC60(先代)と同じだが、現行の排ガス規制に対応するために、AdBlue(アドブルー=尿素水)による化学反応で排ガス中のNOxを効果的に抑制するSCR触媒コンバーターを採用している。
アイドリング+αの回転域ですでに400Nmを誇るトルクは、1.9t近いボディーの重さをさほど意識させない力強さすら感じさせる。流れに乗るためほんの少し加速したいシーンなどで右足に軽く力を込めれば、即座に望んだ分のトルクが背中を押す。その際、8段ATが無駄なシフトダウンを極力行わないのも評価できる。
もともとさほどシフトショックの大きなATではないものの、同じギアで加速がまかなえればそれだけスムーズなドライブになる。特にファミリーユースを想定しているこうしたステーションワゴンであれば、乗員にも優しいこのシフトプログラムは歓迎したい。
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乗用車とSUVのいいとこ取り
ガソリンエンジン用のものから大きな変更はないというシャシーは、ディーゼルエンジンとのマッチングも良く、(そのディーゼルのせいなのか、あるいはランニングチェンジなのか)幾分マイルドな印象だ。ベースとなったV90よりも車高は70mm高いものの(最低地上高は155mmから210mmにアップ)、やや重量級のボディーと2940mmのロングホイールベースを採用することもあって、路面に対するキャビンの動きは穏やか。常に快適な乗り心地を提供する。
タイヤはガレ場のようなあまりハードな路面でなければオフロードもそこそこイケる、低燃費系タイヤの要素も備えたミシュランの「ラティチュードスポーツ3」。高速走行時のノイズは抑え気味で、今回の長距離ドライブでの印象は良好だった(ウエット性能は未確認)。ロングライフもまたこのタイヤのウリで、納車後どうしてもマイレージが伸びそうなこうした(V90クロスカントリーのような)ステーションワゴン系には良い選択だといえるだろう。
乗り味はまさに乗用車のそれで、普段はオフロード系のアドバンテージや4WDであることをみじんも出さない。ユーザーは忘れた頃に、訪れた雪道での走行や(ただし標準装着のラティチュードスポーツ3はサマータイヤだ)、アプローチアングルのきつそうな坂の入り口、乗用車では進入するのをためらうような段差などで、「クロスカントリー」ならではの恩恵を感じることになるだろう。
ステーションワゴン(=V90)よりも車高が高く、しかしSUV(=XC90)ほどボリューミーではないという中間的なポジションは、あえてカテゴライズするならオフロード寄り、という素性ではあるのだが、オーバーフェンダーやフロントバンパー下のスキッドプレートも従来モデルに比べ控えめ。車高の高さ以外、拍子抜けするほどオフロードを感じさせないのもこのモデルの特徴だ。
ベースとなったV90に比べてアイポイントが高く、したがってSUVほどではないものの前方を行く車両の動きが比較的つかみやすい。ストレスなく丸一日ドライブを終えることができたのは、こうした独自のキャラクターのおかげもあるのだろう。いかにも(SUVのような)大きなクルマを動かしているという気構えも少なくて済む。
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ライバルに対するアドバンテージは……
家族や友人を乗せて喜ばれるであろう、ロングホイールベースがもたらす後席の広さはかなりのものだ。ステーションワゴンにありがちな、荷室を通過してキャビンに侵入するノイズも見事に抑え込まれており、リアシートの快適性は上々。インテリア全体において質感は高く、いわゆるスカンジナビアンデザインに期待するクオリティーが確保されている。これ見よがしでいかにもなラグジュアリー感ではないが、センスや出来の良さはキャビン全体から伝わってくる。
ただ、いくつかリクエストもある。たとえばインフォテインメントシステムは今どきのクルマらしくスマホライクなタッチ式のパネルを採用しているものの、操作にはやはり慣れが必要で、取説なしで直感的にコントロールできるというようなフレンドリーさには少々欠けている。もっと言えば、今どきであればホームポジションがナビ画面であってもいい。そのほうが多くのユーザーには馴染(なじ)みやすいだろう。しかもせっかく縦型デザインのモニターを採用し、地図表示には有利(進行方向の情報が多い)なのだから、それを生かさないのはもったいない。これは新世代モデル全体に共通する話でもある。
「モメンタム」と「サマム」の2グレード展開となるV90クロスカントリーD4は、ガチのライバルと目されるメルセデスの「E220d 4MATICオールテレイン」(最高出力194psの2リッター直4ディーゼルターボ搭載、861万円)とカタログ上の動力性能ほか、今や高級車には欠かせない自動運転一歩手前のADASもほぼ同等でありながら、上級グレードのサマム(824万円)であってもV90クロスカントリーD4が37万円ほどリーズナブルだ。
けれども、単に価格差だけでこのクルマを選んでほしくない。メルセデスとは違ったセンスで構築された上質さとエレガンス、そしてそこに加わったオフロード性能こそがこのクルマのアドバンテージである。しかし日本において、さらにメルセデスとの違いをボルボファンに伝えたいのなら、本国でディーゼルのトップモデルとなる同じ直4ディーゼルながら最高出力235psを誇る「D5」を持ってきたほうがいい。D4も十分なパフォーマンスを発揮するけれど、「速いボルボ」は、誰にとってもより魅力的な存在となるに違いない。
(文=櫻井健一/写真=荒川正幸/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
ボルボV90クロスカントリーD4 AWDサマム
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4940×1905×1545mm
ホイールベース:2940mm
車重:1890kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:190ps(140kW)/4250rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/1750-2500rpm
タイヤ:(前)235/50R19/(後)235/50R19(ミシュラン・ラティチュードスポーツ3)
燃費:15.9km/リッター(JC08モード)
価格:824万円/テスト車=852万9000円
オプション装備:チルトアップ機構付き電動パノラマ・ガラス・サンルーフ(20万6000円)/ボディーカラー<マッセルブルーメタリック>(8万3000円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:419km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:150km
使用燃料:14.5リッター(軽油)
参考燃費:10.3 km/リッター(満タン法)/11.3km/リッター(車載燃費計計測値)
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櫻井 健一
webCG編集。漫画『サーキットの狼』が巻き起こしたスーパーカーブームをリアルタイムで体験。『湾岸ミッドナイト』で愛車のカスタマイズにのめり込み、『頭文字D』で走りに目覚める。当時愛読していたチューニングカー雑誌の編集者を志すが、なぜか輸入車専門誌の編集者を経て、2018年よりwebCG編集部に在籍。
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