ボルボV90クロスカントリーT6 AWDサマム(4WD/8AT)
刺激はいらない 2018.02.05 試乗記 ボルボが主催した雪上試乗会に参加。「V90クロスカントリー」を駆り、信州は志賀高原でその雪上性能をチェックするとともに、先進装備をフル活用した“極楽浄土”もかくやの快適クルージングを堪能した。雪深い志賀高原を目指す
長野県長野市の善光寺。日本の仏教が各宗派に分かれる前、今から約1400年前に創建されたために無宗派で、女人禁制でもない。すがる者すべてに極楽浄土を約束してくれるという、懐の深い仏さまをまつる。
2018年1月半ば、ボルボ・カー・ジャパンがこの善光寺にほど近いホテルをベースに試乗会を開いた。他人の誘いや偶然によって物事が良い方向へ進むことを意味する「牛に引かれて善光寺参り」という言葉があるが、われわれは牛に引かれる代わりにボルボに乗って善光寺参りをした。何か物事が良い方向へ進むだろうか。
試乗したのは「V90クロスカントリーT6 AWDサマム」。「メープルブラウンメタリック」というこげ茶のボディーカラーが大人っぽい。一帯には積雪があったが、4WDだし、ブリヂストンのスタッドレスタイヤ「ブリザックDM-V2」が装着されていたので、街なかよりもさらに雪深いであろう志賀高原あたりを目指すことにした。
荒天でも使えるパイロットアシスト
善光寺にお参りして雪道での安全を祈願した後、志賀高原を目指して上信越道を北上した。この時期の雪国の高速道路には融雪剤がまかれていて、道路全体が白っぽく、車線(白線)が曖昧にしか見えないが、V90クロスカントリーに備わる「パイロットアシスト」(車線維持支援機能)は、きっちりと車線を認識し、車線の中央を維持すべく正確にステアリングアシストが作動した(140km/hまで作動する)。同時に作動する全車速追従機能付きアダプティブクルーズコントロールは、吹雪に近い降雪のなかでも先行車を認識し続け、自動的に加減速をコントロールして車間を一定に保ってくれる。過信禁物なのは言わずもがなだが、視界の悪い荒天時にこそ、こういうアシスト機能はありがたい。
一般道へ降りると、圧雪路面となって完全に車線が消えるので、車線検知が条件のアシスト機能は使えなくなる。交通量が少なく広い道路でわざとラフな操作をしてみたが、ブリザックが予想以上にがっちりとグリップしてくれるために怖さは感じない。ボルボの4WDシステムは前輪駆動(FWD)を基本とし、必要に応じて後輪にも駆動力が配分されるタイプのため、挙動はどこまでもスタビリティー重視で、リアが外へ膨らむようなことはまずない。刺激的ではないがより安全。
210mmの最低地上高が真価を発揮
道中で圧雪されていないフカフカの雪が30cmほど積もったゾーンを見つけたので、オフロードモードを選択して乗り入れてみたところ、一切むずがることなく発進することができ、そのまま走破した。電子制御によって4WDシステムが路面状況に応じて最適化されるのだが、それ以前に“なんちゃってSUV”が顔を赤くして逃げ出す210mmの最低地上高が真価を発揮する。今でこそボルボのクロスカントリーのようなリフトアップ系派生車種をどこも設定するようになったが、悪路に強いかどうかを見分けるのに4WDシステムを詳しく調べる必要はない。見るべきは200mm以上の最低地上高を確保しているかどうか。200mm未満だったら本格的な悪路へ足を踏み入れるべきではない。
車名に付く「T6」はエンジンの種類を指している。T6エンジンは2リッター直4をターボとスーパーチャージャーで二重に過給し、最高出力320ps/5700rpm、最大トルク400Nm/2200-5400rpmと、車両重量1910kgに対して十分なスペックを備える。トランスミッションは8段AT。低い回転域からの豊富なトルクを生かして積極的に高いギアを使おうとする“仕事人内閣”で、パワー不足を感じる場面は一切ないものの、4WDシステムと同様、特に刺激的な要素があるわけではない。変速を手動に切り替え、各ギアを引っ張って加速してみても、4気筒の味気ないエンジン音が高まるだけなので、変速はクルマ任せにしてフールプルーフに運転すべきクルマだ。高いギアを使いたがるわりにカタログ燃費は10.7km/リッターにとどまる。1.8tを痛痒(つうよう)なく動かすのだからこんなものか。
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もう少し足が長ければ……
スピードや路面を選ばず乗り心地がよい。20インチタイヤ&ホイールを装着するものの、不整路面でもバタつくことなく、小さな入力にも大きな入力にもしなやかに対応してくれる。大ぶりで硬すぎず柔らかすぎないレザーシートの出来も快適な乗り心地に貢献しているはずだ。帰りの上信越道を、19スピーカーのBowers & Wilkins製サウンドシステムでSpotify(ボルボと同じスウェーデン生まれの音楽配信サービス。標準装備されている)で見つけた音楽をかけ、ステアリングヒーターをオン、シートヒーターをオン、シートマッサージをオン、パイロットアシストをオンにして、コーヒーを飲みながらクルージングした。外が氷点下だろうが、ふぶいていようが関係なく、車内は快適そのものだった。クルマで望み得る最上級の極楽浄土を味わったような気がした。これが善光寺参りのご利益だろうか。
このままどこまでも疲れ知らずで走って行けそうな気がした……と締めたいのだが、実際には燃料タンク容量が60リッターと、クルーザーとして見るとやや物足りない。カタログ燃費を満額で掛けても、最大航続可能距離は642kmにとどまる。ライバルの「メルセデス・ベンツE220dオールテレイン」は同16.8km/リッター×66リッターで1108.8km、「アウディA6オールロードクワトロ」は11.9km/リッター×65リッターで773.5kmだ。V90クロスカントリー、もう少し足が長ければ文句なしだ。
(文=塩見 智/写真=峰 昌宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ボルボV90クロスカントリーT6 AWDサマム
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4940×1905×1545mm
ホイールベース:2940mm
車重:1910kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ+スーパーチャージャー
トランスミッション:8段AT
最高出力:320ps(235kW)/5700rpm
最大トルク:400Nm(40.8kgm)/2200-5400rpm
タイヤ:(前)245/45R20 103Q/(後)245/45R20 103Q(ブリヂストン・ブリザックDM-V2)
燃費:10.7km/リッター(JC08モード)
価格:829万円/テスト車=922万9000円
オプション装備:メタリックペイント<メープルブラウンメタリック>(8万3000円)/チルトアップ機構付き電動パノラマ・ガラス・サンルーフ(20万6000円)/Bowers & Wilkinsプレミアムサウンド・オーディオシステム<1400W、19スピーカー>サブウーファー付き(45万円)/電子制御式リア・エアサスペンション、ドライビングモード選択式FOUR-Cアクティブパフォーマンスシャシー(20万円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:5603km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(4)/山岳路(4)
テスト距離:126.7km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.1 km/リッター(車載燃費計計測値)

塩見 智
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