ポルシェ・パナメーラGTS(4WD/8AT)/パナメーラGTSスポーツツーリスモ(4WD/8AT)
911を諦められない人に 2018.11.21 試乗記 「ポルシェ・パナメーラ/パナメーラ スポーツツーリスモ」に追加された高性能グレード「GTS」に、中東・バーレーンで試乗。パナメーラシリーズの最新モデルは、同系統の4リッターV8ツインターボを搭載する「ターボ」とは一味違う“走り”をしていた。立ち位置は「4S」と「ターボ」の間
ポルシェのプレミアムスポーツサルーンであるパナメーラ。その最もスポーティーなバージョンとなるGTSに、バーレーン・インターナショナルサーキットとその周辺道路で昼夜にわたり試乗することができた。
バーレーン王国といえば、ご存じ中東はペルシア湾のバーレーン島を中心とした国家であり、インターナショナルサーキットは今年(2018年)のF1世界選手権で第2戦の舞台となった。かの地は「一年で一番いい季節」として紹介された10月下旬でも日中は35℃を超える暑さで、中東特有のねっとりと肌に絡みつく湿気を帯びた空気とも相まって、時間を夏に戻されたかのようだった。
そんな状況のなかでステアリングを握ったパナメーラGTSはしかし、不快指数を吹き飛ばすほどのホットな運動性能と、上質な乗り心地で筆者を迎えてくれた。
パナメーラGTSの立ち位置を説明すると、「4S」(440ps)とターボ(550ps)の中間に位置する高性能グレードにあたり、それは「911」や「カイエン」といった他のモデルと共通である。例外として、「718ボクスター/ケイマン」ではターボグレードが存在しないため、特殊な性格の「ケイマンGT4」を除けば実質トップモデルとなる。
このように、多くのモデルで「ターボのひとつ下」というポジションに位置するGTSだが、両者のキャラクターはいささか異なっている。
キモは“シャシーファスター”なハンドリング
パフォーマンスだけで言えば、ターボはパナメーラのなかでも最も速いモデルであり、デビューした2017年にはニュルブルクリンク北コースを7分38秒という「911 GT3」(タイプ997)をも上回るタイムで走り抜け、世界中の度肝を抜いた。しかし、そのハンドリングや乗り心地は常に上質感と共にあり、高いボディー剛性を基軸に可変ダンパーをねっとりと動かし、3チャンバー式の大容量エアサスペンションを使って軽やかにロールを制御していた。そして、結果的にこのロードホールディング性とエンジンパワーが、7分38秒というタイムを刻み上げたのだ。
かたやGTSは、ポルシェが本来持ち合わせる“シャシーファスター”なハンドリングを、GT3のようなモータースポーツベース車まではいかないものの、オープンロードで最も色濃く味わわせるモデルである。昨今の環境性能追求による全モデルターボ化によって、かつての「自然吸気のハイエンドモデル」というわかりやすさは失ってしまったものの、今日のGTSのポジションを筆者はそう理解している。
パナメーラGTSの具体的な中身について話を進めさせてもらうと、搭載されるエンジンは4リッターの排気量を持つV8ツインターボ。最高出力は460psに抑えられているが(最大トルクは620Nm)、いわゆる“グループユニット”であるV6ツインターボとは違い、パナメーラ ターボと同じくポルシェ由来のV8ユニットであることがひとつの自慢ポイントだ。
駆動方式は4WD。構造的にはフロントエンジン・リアドライブを基本としながら、電子制御多板クラッチによって常時フロント2輪にも駆動を配分する仕組みで、GTSの場合はそのトルク配分がより走りに先鋭化されているという。トランスミッションには、8段のPDK(デュアルクラッチ式トランスミッション)が搭載される。
筆者はこれを、4ドアセダンとワゴンタイプのスポーツツーリスモの両方で体験した。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
どのパナメーラよりも“遊び”が少ない
広大な土地の方々に油田掘削機が設置され、大地から時折炎が吹き上がるバーレーン。路面に若干の砂ぼこりはあるものの、主要道路はいずれも真っ黒なアスファルトが平らに敷き詰められており、法定速度も日本より高い120km/hとなっていた。
とはいえ、この“アウトバーンエクスプレス”であるパナメーラのハンドリングが、そんな速度域で揺らぐことはない。そしてその乗り味は、確実にシリーズで一番“ポルシェ”を意識させる仕上がりとなっていた。特に試乗車は、鍛え上げられた足まわりに午後のプログラムであるサーキット走行を見越したものだろう21インチのオプションタイヤ(標準は20インチ)を履いていたこともあり、これまでに乗ったどのパナメーラよりも身のこなしに遊びがない。
個人的には、スポーツツーリスモよりもセダンの方が、サスペンションの取り付け剛性が高くバネ下で動く大径タイヤを上手にコントロールしているように感じたが、両車の車重差は30kg程度であるし、とりわけボディー剛性に違いを感じたというわけではないので、これはブッシュのなじみの違いや個体差かもしれない。ともかくパナメーラGTSは、21インチ・35偏平のタイヤを上手に履きこなし、同時にリニアなハンドリング特性をもかなえていた。それでも後部座席の家族のことが心配だというのなら、20インチを選べば完璧だろう。
よく曲がるが、決して曲がり過ぎない
そんなパナメーラGTSの神髄に迫るべく、ポルシェはワークスドライバーがドライブする「911ターボS」先導のもと、バーレーン・インターナショナルサーキットをテストドライブさせてくれた。
ここで感心したのは、その入念に仕込まれたステアバランスと、トラクション性能の高さだ。基本的にそのハンドリングは、弱アンダーステア。しかしそれが、フロントタイヤをごりごりと削りながら出るアンダーステアではないところがポルシェの素晴らしさである。わかりやすく言えば、パナメーラGTSはこの巨体がうそのようによく曲がる。しかし一般的なドライバーが最も怖いと感じる、慣性重量による車体の滑りは巧みに抑え込まれ、曲がり過ぎないように仕立てられている。
ストレートエンドでの最高速は、先導車にコントロールされていたこともあるが230km/hほど。この程度のスピードなら、パナメーラGTSは、その車速をガッツリ落として1コーナーに進入するまでに姿勢を整えてくれる。ターンインで感心するのは、まず最大荷重を掛けてもねじれないフロントアクスルやサスペンション剛性の高さ。ここには「4Dシャシーコントロール」のうちのひとつである、電子制御式スタビライザー(PDCC Sport)の可変レートのアップが非常に効いていると思えた。
ステアリングを切り込めばクルッと旋回するのは、トルクベクタリングや電子制御デフと、リアアクスルステアが連携しているから。しかし前述したように行き過ぎた旋回性能は出さず、その制御に違和感を抱かせないのがポルシェクオリティーである。
こうしてターンができてしまうゆえ、コーナー出口からはすぐにフルパワーをかけることができ、911ターボSに引き離されない。こうした小さなコーナーでの旋回性能と脱出速度の高さは、ナイトセッションから走れるようになったインフィールドの走行でも大いに役立ってくれた。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
微妙なアンダーステアにみる見識
またアップダウンを切り返すような難しい中速コーナーでも、パナメーラのボディーコントロールは驚くほど上質だ。FRであればここからリアが流れてしまうだろうな……と予測される場面でもタイヤは地面を捉え続け、見事なバランスを保ったままコーナーを駆け抜ける。そして姿勢が完全に安定してからは、すべてのパワーを4輪にかけてV8ツインターボの快感を五感で味わうことができる。
姿勢制御は今回から「Sport+」を選んでもESC(車両安定装置)が連動しないようになった。技術者は「ESC Sport」を選べばよりダイナミックなドライブが可能だと言っていたが(ESC OFFは禁じられていた)、基本的な走りの特性は、よほど雑な運転をしない限りやはりアンダーステア基準。個人的にはもう少しニュートラルステアなバランスも好きだけれど、これこそがオープンロードを主戦場とするパナメーラの、しつけの行き届いた部分である。
走行終了後、911ターボSをドライブしていたレーシングドライバーのウォルフ・ヘンツラー氏が駆け寄ってきて少し雑談をしたが、結論としてはふたりして「パナメーラGTSには驚いたね!」という話に落ち着いた。
ターボを搭載しながらもポルシェ本来の運動性能、シャシーファスターとしての本質は忘れない。ファミリーやビジネス、さまざまな理由から911をその手にできないユーザーにとって、「GTS」というバッジはひとつの希望なのだとあらためて強く思い知らされた。
(文=山田弘樹/写真=ポルシェ/編集=堀田剛資)
![]() |
テスト車のデータ
ポルシェ・パナメーラGTS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5053×1937×1417mm
ホイールベース:2950mm
車重:1995kg(空車重量)
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:460ps(338kW)/6000-6500rpm
最大トルク:620Nm(63.2kgm)/1800-4500rpm
タイヤ:(前)275/35ZR21 103Y/(後)315/30ZR21 105Y(ピレリPゼロ)
燃費:10.3リッター/100km(約9.7km/リッター、NEDC複合モード)
価格:--万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
![]() |
ポルシェ・パナメーラGTSスポーツツーリスモ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5053×1937×1422mm
ホイールベース:2950mm
車重:2025kg(空車重量)
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:460ps(338kW)/6000-6500rpm
最大トルク:620Nm(63.2kgm)/1800-4500rpm
タイヤ:(前)275/35ZR21 103Y/(後)315/30ZR21 105Y(ピレリPゼロ)
燃費:10.6リッター/100km(約9.4km/リッター、NEDC複合モード)
価格:--万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。