ジープ・レネゲード リミテッド(FF/6AT)
スミからスミまでイタリア風味 2019.05.14 試乗記 「ラングラー」風のフロントマスクに生まれ変わった「ジープ・レネゲード」だが、今回のマイナーチェンジの主眼はパワートレインの変更だ。高速道路に山坂道にと連れ出して見えてきたのは、伏流水のように流れているイタリア車の血脈だった。デビュー以来初の大幅改良
レネゲードに目に見えるデザイン&メカニズム変更が施されるのは今回が初である。レネゲードのデビュー時期から計算すると、今回のマイナーチェンジは欧州では発売から5年目、日本を含むそれ以外の多くの地域では発売4年目の実施……となるから、いわば計画どおりのテコ入れと考えてよさそうだ。その変更内容をおおざっぱにまとめると、内外装のアップデートとエンジンの刷新である。
レネゲードはとくに欧州におけるジープの存在感を飛躍的に押し上げたヒット作だけに、内外装のアップデートはあくまで従来型のイメージを壊さない慎重なものにとどまる。
外観でいうと車体のプレスパネルには手をつけられていないようで、フロントグリルとフロントバンパー、そして前後の灯火類が新しくなっている。具体的にいうと、フロントグリルは例の「7スロット」の形状が、上下が丸い長楕円(だえん)から角ばった長方形となり、ヘッドランプ周辺もより立体的な造形となった。
また、フロントバンパーもより手の込んだ意匠となったほか、灯火類もヘッドランプが半リング形状のデイタイム照明を内蔵したLEDとなり、リアは従来のジェリカン風のデザインは維持しつつも「新型ラングラーにインスピレーションを得たアイコニックな意匠」(プレスリリースより)に変わった。このリアコンビランプを一見すると従来より赤い部分が増えて、全体には輝度が増している。
内装も基本的なデザインは従来のままのようだが、個人的にはレネゲードに大画面8.4インチのオーディオナビが備わっているのは初めて見た。ただし、これは今回のマイチェンで初採用の新機軸ではなく、それよりひと足先の昨2018年6月に標準化されていたものだ。まあ、今回はそこに地上デジタルテレビチューナーが内蔵されるようになったのが新しい。
パワーユニットが最新世代に
もっとも、自動車専門メディア的見地でいうと、今回のマイチェンの主眼はやはりエンジンがまったく新しくなったことだろう。これまでのレネゲード(の日本仕様)は、FF車には兄弟車の「フィアット500X」と同じ1.4リッター4気筒マルチエアターボ(の140ps版)が、そして4WDの「トレイルホーク」には2.4リッター4気筒自然吸気が搭載されていた。さらに、グローバルのレネゲードには、これ以外に1.4リッターマルチエアの170ps版や3機種のディーゼルもあった。
しかし、今回のマイチェンではガソリン全機種が新世代モジュラー設計の「マルチエア2」に切り替えられて、日本未導入のディーゼルも最新世代の「マルチジェット2」に集約された。
ガソリンのマルチエア2は別名「ファイアフライ」とも呼ばれる新世代ファミリーで、今回のレネゲード(と500X)から順次市場投入されるピッカピカの新型エンジンである。マルチエア2は1気筒あたり330ccのシリンダーレシオを共有するモジュラー設計なのが特徴で、現時点では1リッター(=3気筒)ターボと1.3リッター(=4気筒)ターボというバリエーションがある。おそらく既存の0.9リッター2気筒と1.4リッター4気筒に取ってかわる後継機種という位置づけだろう。
ちなみに1リッター3気筒は欧州向けレネゲードに搭載されるが、今のところ日本への導入予定は明かされていない。そして、上級1.3リッター4気筒に2種類のチューニング(今回は151psと179ps)が存在する点は従来の1.4リッターと同様である。
日本仕様のグレード構成はマイチェン前後で変更はなく、FFが「ロンジチュード」と「リミテッド」、そして前出の4WD=トレイルホークの3機種。ただ、今回のマイチェンに合わせて2.4リッターが廃止となり、トレイルホークも500Xのそれと同様に1.3リッターマルチエア2(の高出力型)を搭載することになったのは押さえるべきポイントだ。
国内では屈指のコンパクトボディー
というわけで、今回連れ出した新レネゲードはリミテッドである。マイチェン前と同じく駆動方式はFFで、エンジンはもちろん1.3リッターマルチエア2を積む。2種類あるエンジンチューンのうちで低出力型(151ps)が選ばれるのも、価格は真ん中だが装備レベルでは最上級……といったラインナップ内での位置づけも従来のリミテッドと変わりない。
リミテッドはトレイルホーク専用の高度な悪路走破性能は省かれる(といっても最低地上高は170mmだから、走破性はそれなりに高い)が、ステアリングヒーターや電動調整付きレザーシート&シートヒーター、アダプティブクルーズコントロール(ACC)などの安楽・ハイテク装備はリミテッドでしか手に入らない。
それにしても、レネゲードはじつに運転しやすいクルマである。1.8m超の全幅こそ日本ではご立派というほかないが、4.3mを大きく切る全長は世界的にも小さな部類に入る。ちなみに現役の国産SUVでレネゲードより全長が短いのは、軽自動車をのぞくと、「ジムニーシエラ」「イグニス」「クロスビー」「エスクード」というスズキの4台と「日産ジューク」くらいしかない。
レネゲードの美点は単純に全長が短いだけでなく、車両感覚がドンピシャに把握できるところだ。1695mmという全高はスモール/コンパクトSUVではもっとも背高の部類であり、本格オフローダーを思わせるアップライトなドラポジはとにかく見晴らしがいい。しかも、切り立ったAピラーと奥行きの短いダッシュボード、角ばったボンネット……で、レネゲードは車体の四隅が手に取るようにイメージできるのだ。
ここまで車両感覚が良好だと全幅もまるで気にならず、都会の喧騒(けんそう)をぬうように走り抜けるのも楽しく、乗り心地やパワートレインの“多少”の良しあしなど気にならなくなる。
乗り心地はホットハッチのようだ
正直にいうと、レネゲード リミテッドの乗り心地は“多少”という表現より、もうちょっと硬い印象なのは否定できない。今回のマイチェンではシャシーについての改良や手直しはとくに公表されておらず、純正サマータイヤのサイズや銘柄ランクにも変更はない。実際の乗り心地や操縦性においても、少なくとも前回の試乗した記憶をたどるかぎり、マイチェン前後での印象は大きく変わっていない。
そのシャシーチューンは明確な引き締まり系で、低速ではドシバタと突き上げるクセが残る。もっとも、そのぶん車体の高さや短さを感じさせない安定したフットワークであることも事実で、車体剛性は印象的なほど高く、その走りは本格SUVばりの目線の高さから想像しづらいほど活発なホットハッチ風味をただよわせる。この味わいは、よくいえば昔ながらの典型的な欧州車テイスト……といえなくもない。
ジープはいうまでもなくアメリカ発祥のブランドだが、その最小モデルたるレネゲードはまず2014年に世界に先がけて欧州で発売されて、翌2015年から販路を拡大した。現在はイタリアとブラジル、中国の3拠点で生産されるグローバル商品となったが、その世界初公開は2014年3月のジュネーブショーであり、前記のように発売も欧州が先行して、生産が立ち上がったのもイタリアが最初だった。そして、日本に輸入されるレネゲードも当初からイタリア製である。
レネゲードは2014年の発売以来、欧州市場のジープでは圧倒的なベストセラーとなり(最近は「コンパス」との二枚看板らしいが)、第2の故郷たるイタリアでは乗用車販売トップ10の常連である。ちなみに日本市場でのジープの販売は長期的にはずっとラングラーがトップだが、欧州でのラングラーの販売台数はレネゲードの約1割にすぎない。
フィアットとクライスラーの関係
知っている人も多いようにレネゲードはフィアット500Xとプラットフォームを共用する兄弟車であり、そのプラットフォームはもとはフィアットの「グランデプント」のそれを強化・拡大したうえで、サスペンションを新設計としたものだ。つまり、レネゲードはいろんな意味で欧州色、イタリア色が強い。
アメリカンの典型のようなジープをつかまえてイタリア色が強い……もないものだと自分でも思うが、フィアットと(ジープを含む)クライスラーの関係は今や独立性を保ったアライアンス関係ではなく、経営統合されて一体化している。今の「FCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)」はアメリカの会社でもイタリアの会社でもない。アライアンスだの経営統合だのといった言葉は日本でも昨年来よく使われている(笑)が、それはともかく、もはやFCAはひとつの会社であり、レネゲードはまさに統合を象徴する商品といっていい。
今回新搭載されたマルチエア2エンジンもそんなFCAの今後を支える原動力であり、1.3リッターながらも、出力、トルクのピーク性能は前身にあたる1.4リッターより間違いなく向上している。13.5km/リッターというカタログ燃費は新たにWLTCモード値となったので直接比較できないが、「同じエンジンならWLTCモードはJC08モードの約2割落ち」という相場観を当てはめると、燃費性能も確実に向上しているようだ(マイチェン前はJC08モードで14.6km/リッター)。
組み合わせられる変速機は従来と変わりない6段デュアルクラッチトランスミッション(DCT)で、各ギア比や最終減速もまったく変わっていない。また、DCTというわりには変速時間を切り詰めすぎておらず、良くも悪くもじわっとぬるめの、どちらかというとシフトショック抑制を優先した味わいなのもマイチェン前と同様である。
乗り手の気分を明るくしてくれる
ピーク性能値を見れば、1.3リッターマルチエア2の絶対性能に不足があろうはずもないことは容易に想像がつく。アクセルを遠慮なく踏み込んで、さらにシフトレバーをマニュアルスロットに倒して積極的に中~高回転域を使うと、レネゲードは小気味よく走る。
ただ、このマルチエア2は、最新過給エンジンのわりにけっこうピーキーなキャラクターなのは少し気になった。とくに低回転域の踏みはじめのトルクがちょっと物足りない。過給が立ち上がれば強力なトルクが供出されるのだが、そのトルクの出方が唐突で、過給ラグも小さいほうではない。さらに変速機が本来的にダイレクトなDCTなので、そういうエンジン特性を緩和する効果が薄く、市街地ではどうしてもギクシャクしがちなのだ。
ただ、これを小型スポーツハッチだと思って乗ると、中回転からの吹け上がりやサウンドの伸びは素直に気持ちいい。さらにクルマ自体も短く幅広く背が高い「チョロQ」のようなディメンションなのにロールは小さく、しかし回頭性は高く、コーナリングはけっこう鋭い。というわけで、しいていえば、そんなリミテッドのフットワークに、この活発なエンジン特性が似合っているともいえなくもない。
まあ、シフトパドルはないし、変速そのものもDCTとしては穏当なほうではあるのだが、シフトレバーは“引いてアップ、押してダウン”というレーシーな操作パターンであることもあり、レネゲード リミテッドは山坂道でも、それなりにその気になれるクルマではある。
今回は先行上陸となったリミテッドのみの試乗となったが、マイチェン前の印象や最新のカタログスペックから想像するかぎり、このちょっとピーキーな1.3リッターにはトレイルホークのトルコン式9段ATのほうがマッチしそうだし、市街地も含めたオールラウンドで快適なのは17インチタイヤのロンジチュードだろう。ただ、ステアリングヒーターにシートヒーター、そしてACCなど、リミテッドには今どきのSUVではキラーアイテムとなりそうな専用装備も多いのが悩みどころである。
……と書いてはみたものの、実際にレネゲードに乗っていると、そういう細かい重箱のスミがあまり気にならないのはウソでない。写真のように細部にまでシャレの効いたデザインや、見晴らしよく小回りのきくパッケージングが、乗り手の気分を明るくしてくれるからだろう。このあたりもレネゲードはイタリアっぽい。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ジープ・レネゲード リミテッド
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4255×1805×1695mm
ホイールベース:2570mm
車重:1440kg
駆動方式:FF
エンジン:1.3リッター直4 SOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:151ps(111kW)/5500rpm
最大トルク:270Nm(27.5kgm)/1850rpm
タイヤ:(前)215/60R17 96H/(後)215/60R17 96H(ブリヂストン・トランザT001)
燃費:13.5km/リッター(WLTCモード)
価格:355万円/テスト車=358万7800円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション フロアマット(3万7800円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:2519.8km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:388.2km
使用燃料:42.4リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.2km/リッター(満タン法)/11.2km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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