「第14回クラシックカーフェスティバル in 桐生」の会場から(後編)
2019.11.08 画像・写真2019年11月3日、群馬県桐生市にある群馬大学理工学部 桐生キャンパスで開かれた「第14回クラシックカーフェスティバル in 桐生」(前編はこちら)。後編では約260台のエントリー車両の中から、リポーターが特に感銘を受けた1957年「ツェンダップ・ヤヌス」と1958年「スバル360」、そして1966年「プリンス・グロリア6ワゴン」の3台をじっくりと紹介させていただこう。
(文と写真=沼田 亨)
-
1/27ほぼ前後対称で、ドアがないサイドビューを持つ1957年「ツェンダップ・ヤヌス(Zündapp Janus)」。フラットツインエンジンを積んだ軍用オートバイなどで知られる、かつて存在したドイツの二輪メーカー、ツェンダップが1957年から58年にかけての1年間のみ生産したモデルである。
-
2/27斜め前から見たところ。バブルカーあるいはマイクロカーなどと呼ばれる超小型車の世界では高名な、BMWでもライセンス生産された「イセッタ」や、「ハインケル」のように、ボディー前面が横開きドアになっていることがわかる。ボディーサイズは全長×全幅=全高=2890×1410×1400mmで、ホイールベースは1825mm。車重は425kg。
-
3/27後ろに回ると、ここにも横開きのドアが。カーゴスペース用のテールゲートか?
-
4/27前後のドアを開けたところ。「イセッタ」では乗降しやすいようにステアリングはドアと連動して動くが、これは「ハインケル」のように固定されている。
-
5/27リアドアを開けると、そこはカーゴスペースではなく、後ろ向きの2人分のベンチシートが。つまり背中合わせの4人乗りなのである。ちなみに車名の「ヤヌス」は、前後を見る2つの顔を持つ、ローマ神話の門の守護神であるヤヌスに由来するという。
-
6/27リアシートの座面はタイヤハウスで左右端が削られているが、子ども2人ならば十分なスペースがある。
-
7/27前後シートの谷間に、何やら箱か台のようなものが見えるが……。
-
8/27その箱を外すと、空冷2ストローク単気筒248ccエンジンが現れる。完全なるミドシップというわけだ。最高出力は14PS/5000rpmで、後輪を駆動するギアボックスは4段MTである。
-
9/27運転席。計器類は100km/hフルスケールのスピードメーターとオドメーターのみ。左端にシフトレバーが見えるが、オートバイのようなシーケンシャル式で、ギアポジションを示すインジケーターが速度計の上に付いている。
-
10/27スピードメーターの上にあるのがギアインジケーター。ポジションは左からR、0(ニュートラル)、1、0、2、3、4。写真では見えないが、針がポジションを指すとのこと。
-
11/27「ツェンダップ・ヤヌス」の、もうひとつの驚くべき特徴がこれ。前後シートがフルフラットになるのだ。外から丸見えで落ち着かないだろうが、やろうと思えば車中泊も可能というわけだ。
-
12/27子ども用のカバンのようにも見える愛らしいフォルムにインスパイアされたオーナー氏が、シャレで取っ手を作ってみた、という図。
-
13/27閉会後の退場パレードで、元気に走る「ツェンダップ・ヤヌス」。総生産台数は6902台だが、オーナー氏によれば現在の実働車両は世界でも20~30台で、日本国内で登録されているのはこれ1台のみという。
-
14/271958年に誕生した、時代を超越して日本が世界に誇る傑作車である「スバル360」が並んでいた。手前の“出目金(ヘッドライトがフェンダーに直接埋め込まれている初期型)”が放つ、ただならぬ雰囲気に吸い寄せられたところ、フロントバンパーが分割式であることに気づいた。これは1959年式までの特徴である。
-
15/27フロントガラス内側に貼られたエントリーシートによれば、1958年式。つまりデビュー年につくられたモデルである。スバル(メーカー)の所蔵車両を除くと58年式を見たのは初めてだったので、興奮してキョロキョロしていると、オーナー氏が話しかけてくれた。説明してくれたところによると、ボディーは何度か重ね塗りされてはいるものの、基本的にはオリジナルカラーであること。本来は黒塗装であるバンパーがメッキされていたり、これも本来は存在しないカウルベンチレーター(フロントガラスの前方にある外気取り入れ口)があったり、運転席側にフェンダーミラーが装着されていたり(当時の法規ではルームミラーだけでよかった)などの変更箇所はあるものの、正真正銘の1958年式とのことだった。
-
16/27「これが証拠です」と見せてくれた、フロントフード内のメーカーズプレート。「昭和33年6月28日」と刻印された製造年月日を知って、筆者はさらなる興奮を覚えた。「スバル360」は同年3月3日に正式発表され、5月に発売された。ただし最初に発売されたのは60台の増加試作車のうちの50台で、いわばテスト販売だった。サイドウィンドウに三角窓を加えるなどの改良を施した量産型が世に出るのは7月なので、6月28日製造のこの個体は最初期の量産型ということになる。年季の入ったスバリストであるオーナー氏も、スバルが所蔵する2台の増加試作車を除いては、1958年式はこれを含めて3台しか存在を知らないという。ということは、これは民間に現存する最古のスバル360かもしれない。しかもナンバー付きの実働車両である。これはもう、「走る工業遺産、文化遺産」と呼んでも過言ではないのではなかろうか。
-
17/27シンプルなインパネ。計器類はオドメーターを内蔵したスピードメーターだけである。ダッシュ下には、全幅にわたるトレイがある。
-
18/27左上から時計回りに。スピードメーターは指針式ではなく、目盛りの円弧に沿ってバーが出てくる(この方式は1960年7月まで)。ギアボックスは3段ノンシンクロで、シフトパターンは一般的な縦Hではなく横H式だった。1960年2月に縦H式に変更され、2、3速にシンクロが付いた。Bピラーの内側に付けられた、いかにも昭和30年代のアイテムである花瓶と造花。真空管式のAMラジオ。“SUBARU”と入っているので、純正オプション品だろうか。
-
19/27シンプルなシート。だが、“スバルクッション”と呼ばれた独特のサスペンションと相まって、乗り心地は良好。
-
20/27シートバックの裏面はアルミ製。こうした積み重ねで軽量化に腐心した結果、車重は開発初期の目標だった350kgには届かなかったものの、385kgにおさめられた。
-
21/27空冷2ストローク2気筒エンジンは、356ccから最高出力16PS/4500rpm、最大トルク3.0kgf・m/3000rpmを発生し、公称最高速度は83km/h。ちなみにエンジンフードもアルミ製である。
-
22/27元気に自走で会場を後にしようという「スバル360」。本来はフロントフードもアルミ製だが、この個体ではスチール製に替えられているとのこと。言われてみれば、フードは周囲とは色味が異なっている。
-
23/27レストアされ、新車のように美しい1966年「プリンス・グロリア6ワゴン」。1962年にデビューした2代目グロリアのワゴン……とは名乗っているものの、実は4ナンバーの商用バンである。ほかに5ナンバーの乗用ワゴンも存在し、そちらには「グロリア6エステート」という名称が付けられていたから、ややこしい。ただしこの個体を含め、残存する6ワゴンは5ナンバーで登録し直されていることが多い。それはともかく、この個体はドアサッシに本来は存在しないメッキモールを取り付けるなど、上品なドレスアップが施されている。
-
24/27その「プリンス・グロリア6ワゴン」が、ボンネットを開けて展示されていた。メルセデスを範としたと思われる、国産初となるSOHC 6気筒を採用した2リッターのG7エンジンがピカピカに磨き上げられているので、それを見せているのかと……。だが、このG7にウエーバーのツインチョークキャブレターを3連装した、型式名S54Bこと「スカイライン2000GT-B」用の真っ赤なエアクリーナーケースが装着されているのを見て、エンジンをS54B用に換装、あるいはキャブレターまわりをそっくりS54B用と入れ替えているのかと思った。
-
25/27エンジン本体は同じとはいえ、大胆なことをする人もいるもんだ……と思ってよく見たら、たしかにエアクリーナーとインテークマニホールドはS54B用だが、それらの間にあるのはウエーバーではなかった。それどころかキャブでもなく、インジェクションなのだ。オーナーいわく、往年の吸気系チューニングパーツブランドであるSKサンヨー製のスロットルボディーや汎用(はんよう)インジェクターなどを組み合わせたものとのことだが、まるでプリンス純正のような「P」マークを入れるなど、仕上がりが美しい上に芸が細かい。運転席側バルクヘッドには、本来はないバキュームサーボが見えるが、フロントブレーキをオリジナルのドラムからディスクに交換。ラジエーターには電動ファンを装着するなどして、現代の交通環境に対応。そしてこれらの改造は、すべて公認取得済みとのこと。
-
26/27室内をのぞき込んだところ、オリジナルとは異なる木目貼りのインパネやドアトリム、分厚いセパレートシートなどが目を引いた。これらは当時、3ナンバー車の自動車税が禁止税的に高額だったため、ごく少数しか売れなかった2.5リッターエンジン搭載の最高級グレード「グランド グロリア」用である。
-
27/27「プリンス・グロリア6ワゴン」の後ろ姿。こんな優美な(本来は)商用バンは、めったにないと思う。