日産名車再生クラブが「グロリア スーパー6」をレストア 今はなきプリンスのクルマづくりに迫る
2020.02.10 デイリーコラムサーキットで活躍したプリンスのフラッグシップ
2020年2月1日、日産名車再生クラブが神奈川・横浜の日産自動車本社で、「再生完了宣言式」を開催。「1964年 プリンス・グロリア スーパー6 第2回日本グランプリ T-VIレース仕様」のレストア完了を宣言した。
日産名車再生クラブは、日産自動車と関連会社の有志によるクラブ活動で、名称の通り、日産の古いクルマのレストアを行っている。活動開始は2006年のことで、おおむね1年に1台のペースでレストアを実施。これまでに14台を手がけてきた。2019年の活動は、先述したプリンス・グロリア スーパー6のレストアとし、同年5月のキックオフ式から作業をスタート。12月8日のニスモフェスティバルでのお披露目を経て、前述の再生完了宣言式をもって同年度の活動を終了することとなった。
今回レストアされたグロリア スーパー6は、彼らにとってふたつの意味で重要なクルマといえる。ひとつは、グロリア スーパー6というモデルそのものの歴史的意義だ。このクルマは、今はなきプリンス自動車の誇るフラッグシップセダンであるグロリアに、国産車では初となる直列6気筒SOHCのG7型エンジンを搭載した、プレミアムと高性能を同時に追求したモデルだった。しかもG7型エンジンは、後に「スカイラインGT(S54A-1型)」に搭載され、1964年の第2回日本グランプリで「ポルシェ904」と歴史的な闘いを演じている。日本の自動車史を語る上で欠かせない名機なのだ。
ふたつ目は、レストアする個体が、先述の第2回日本グランプリにおいてT-VIクラスで圧倒的勝利を飾ったレースカーのレプリカであること。日産名車再生クラブはすでにスカイラインGT(S54A-1型)のレストアを済ませており、「スカイラインGTとグロリア スーパー6をサーキットで一緒に走らせたい」という思いがあったのだ。
グロリア スーパー6のレストアが完了すると、彼らは2019年11月15~17日に鈴鹿サーキットで開催されたヒストリックカーイベント「サウンド・オブ・エンジン」に2台を持ち込み、第2回日本グランプリから55年の時を経て、鈴鹿での走行を実現した。もちろん、毎年恒例となるニスモフェスティバルにも同車を持参。「サーキットでは非常に大きな注目を集めることができました」とクラブの面々は語った。
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予想を上回る困難の連続だったレストア作業
こうして見事大役を果たしたグロリア スーパー6だが、そのレストア作業はどのようなものだったのか。
「最初は見た感じすごく楽そうだったんで、『今年は力を抜いて、今まで直したほかのクルマを同時にメンテナンスしていこう』と考えていたんですけれども。いやあ、そんな簡単なはずがないわけで(笑)」
そう語るのは、クラブ代表の木賀新一氏である。実はこのグロリアには10年ほど前に誰かが手を入れており、見た目はきれいになっていたものの、中身は相当にひどい状態だったというのだ。
レストア作業を行った各チームから話を聞けば、「エンジン内部はオイル焼けでひどいありさまでした」「電装のハーネスはひどい状態だったので、すべて新しく手作業でつくりました」「製造中止となっているオイルシールやブーツ類は、サプライヤーやショップの皆さんの協力で入手しました」「足まわりはボルトやナットを緩めるのに苦労しました」「マスターシリンダーはレース時と異なるシングル型だったため、タンデム型に変更しました」「ブレーキチューブはすべて新品としてつくり直しました」「ボディーもあちこち腐っていて、板金塗装をすべてやり直すことに。試作部の協力もあって、新品同様に生まれ変わりました」……と、やはり苦労の連続であったようだ。
また、今回は鈴鹿のイベントに参加することを考えていたため、例年より作業期間が1カ月ほど短かったことも、困難さを増す要因になったという。
しかし、最大の問題は別にあった。それは“実際のレース車両”と“レストアする車両”の仕様が、あまりに違っていたことだ。調べてみると、そもそも実際のレース車両は「(グロリア スーパー6ではなく)普通のグロリアにスーパー6用の部品を載せたもの」で、内外装の細かいパーツもイレギュラーなものが多かったという。それに対して、レストアする車両はレース後につくられたレプリカで、前期型と後期型の違いやグレードの違いなど、細かな部分が相当に異なっていたのだ。最終的には「見える部分は極力レース仕様に寄せる」ことになったのだが、当然のことパーツ集めの担当者は「正直、これはヤバイと思いました」という。そして車両決定を聞いたその日のうちに、関係各所に部品集めをお願いする電話をかけまくったのだ。
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最大の難所はインテリア
特に苦心したのが内装だったという。ダッシュボードもステアリングホイールも、レース車両とは違うものが付いていたのだ。適切な部品をそろえ、かつ“その部品を取り付けるための部品”を新規に製作する必要も生じた。極めつけが、当時のグロリア スーパー6ならではの豪華な西陣織のシートとドアトリム。そもそも標準車のフロントシートはベンチ式であり、レース車両に使われていたような“運転席と助手席”というセパレートシート自体が少なかった。なんとか西陣織の生地で張り替えたシートができたのは、「お披露目の直前、最後の最後だった」という。
こうして、集められるだけの資料を集めて突き合わせ、可能な限りのパーツをそろえたことにより、木賀代表が「残っている写真と見比べて、目に見える部分はほぼほぼレース車両と同じようにできました」と胸を張れるところまでレストアできたのだ。
かくして困難を極めた今回のレストアでは、過去のモデルの時とはいささか異なる学びが得られたという。「プリンスのクルマづくり」の姿勢に触れることができたのだ。
エンジン内部のコンロッドナットやカムスプロケットボルトには、量産車であるにも関わらずワイヤーロックが施されていた。サスペンション関係でも、リンクのボルト&ナットが緩まないようプレート式の“回り止め”や角度を調整するためのシムが用意されていた。
さらにボディーに目を移すと、左右のフェンダーパネルは1枚の板をプレスしたものではなく、2枚の板を溶接してつくられていた。フラットなフロントまわりのデザインを実現するための手だてで、フェンダーの角に走るモールはその溶接跡を隠すためのものだったのだ。グロリア スーパー6は、とにかくどこも、非常に手間のかかるつくり方となっていたのである。
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エンジニアリングの理想を追求したクルマ
「当時は、中島飛行機の設計基準という厚い本があって、それをそのまま使っていたんです」。そう語るのは、1960年代当時、プリンスにおいてエンジン設計を担当していた野田孝男氏。量産エンジンの担当だったものの、第2回日本グランプリに参加するためのエンジンの改良なども手がけたという。この日はゲストとしてイベントに参加しており、まさに数十年ぶりの邂逅(かいこう)といえよう。
野田氏の言うように、当時のプリンスには前身である中島飛行機や立川飛行機でのモノづくりのルールが残っていたようだ。現在の目で見ると、丁寧ではあるものの非常に手間がかかる。よそのメーカーではコストがかかりすぎるとして却下されそうな生産方式や開発が行われていたのだ。
「完全に『エンジニアリングの理想を商品にする』という感じがしますよね。ワイヤーロックもそうですけれど、エンジンの構造も車体も非常に複雑ですし、手間をかけてつくっています。お客さまが喜ぶことを考え、品質とかはとにかく手抜きなし。こういうクルマのつくり方をして、かつそれがお客さまに伝わっていたから、高い値段で売れたんでしょうね」とクラブ代表の木賀氏は語る。
レストアされたプリンス・グロリア スーパー6は、しばらくは横浜の日産本社ギャラリーに展示され、その後は座間のヘリテージコレクションに移されるという。ヘリテージコレクションの見学は予約制なのだが、いろいろな意味で貴重なクルマであるだけに、興味がある人はぜひ足を運んでみてほしい。
(文=鈴木ケンイチ/写真=鈴木ケンイチ、日産名車再生クラブ/編集=堀田剛資)
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鈴木 ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。
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