第216回:不要不急の外出自粛中は家でDVDを観よう!
2020.04.12 読んでますカー、観てますカーあの名作クルマ映画とは無関係
新作映画の公開延期が相次いでいる。本来ならば今回は『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』を紹介するはずだったのだが、公開日は11月20日に変更されてしまった。来月公開予定だった『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』に至っては、来年にならなければ観ることができない。緊急事態宣言が出された地域では、映画館の営業自体が不可能になってしまった。開館していても、密閉空間に2時間こもるのは怖いという人も多いだろう。
こんな時こそ、家でDVDを楽しみたい。今回紹介するのは、いずれも通常の劇場公開はされていない作品である。いわゆる“DVDスルー”というやつだ。劇場で封切られなかったのは、採算面に不安があったからだろう。広い範囲の観客に受け入れられそうにないからだと推察される。観てみるとその判断は正しかったと思わされることが多いが、中にはクルマ映画としては楽しめる掘り出し物もある。
まずは、『バニシング‘72』。このタイトルから連想されるのはアメリカン・ニューシネマの名作『バニシング・ポイント』だろう。しかし、まったく関係ない。原題は『Finding Steve McQueen』なのだ。自らをスティーブ・マックィーンに投影している男の犯罪ざんげ映画である。ジャケットには「ポンティアックGTO」がパトカーに追われている写真が使われているが、このシーンは前半のごく短いシークエンス。カーチェイスはすぐ終わってしまう。
主人公はカッコいい犯罪者に憧れていて、カリフォルニア銀行襲撃計画に参加する。ボスはそこにニクソン大統領再選運動のための秘密資金が隠されていると考えていたのだ。金曜日の休業後に侵入し、土日を通じて金庫の中をあさるという牧歌的な計画だ。この映画が実話ベースだというから驚く。
全体を通じて70年代テイストが充満している。画面のトーンやカメラアングルに、はっきりと意図が感じられるのだ。監督のマーク・スティーブン・ジョンソンはニコラス・ケイジ主演の怪作『ゴーストライダー』などを撮っていて、B級映画の職人監督らしい。バカ映画に飽きてちょっとオシャレなものを作りたいと考えたのだろう。
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ライドシェアドライバーのアイデンティティー
『デンジャラス・ドライバー 暴走開始』も、日本用に作り込まれたタイトルである。原題は『END TRIP』。目的地に到着したことを示す言葉だ。主人公はURYDEのドライバーである。ウーバー的なライドシェアサービスなのだろう。乗っているのが「キャデラックXT5」というSUVなのが今っぽい。
冒頭のシーンは、以前この欄で紹介した2015年の映画『オン・ザ・ハイウェイその夜、86分』を思わせる。車内映像だけで夜の道を描き出す。後席の客と運転手の会話の合間に、ドライバーのプライベートを見せていく手法だ。オシャレ感があると思っていると、次第に様相が変わってくる。
深夜に乗せたジャドという男は、いかにも怪しげだ。しかし、客からの評価を高めるため、ドライバーは常に笑顔でなければならない。お互いにガールフレンドのことを話しているうちに、個人情報がやり取りされる。彼らは、相手に合わせて自分を変えることがある、という点で意見が一致した。
後半はテーマがアイデンティティーをめぐる話に変化する。家で待つ女性のもとに、見知らぬ男がパートナーだと言って帰ってきたらどうするのか。容貌が似ていないからといっても、本人だと主張する男にそうではないと指摘するのは困難である。一体、「俺は俺だ」と言う場合に根拠などあるのだろうか……。
という哲学的な話にはならない。これはB級スリラー映画なのだ。このテーマをもっと深めたいのなら、上質な文学作品がある。高山羽根子の『如何様』を読むことをオススメしたい。
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暴走するレッカー運転手
『怒りのチェイサー』の舞台は、カナダのトロント。レッカー会社に勤める男たちの物語である。主人公のベンは違法駐車だけを取り扱っていて、実入りは少ない。妻にレストランを開業させるのが夢だが、日々の食事さえままならず、フードバンク頼りである。息子が欲しがっている300ドルの自転車を買うなんてとても無理だ。
レッカー会社からは車両の貸与を有料にすると言われ、仕方なく悪徳警官から金を借りる。社長は警察との契約が成立すれば仕事が増えるというが、空約束だ。返済は滞り、ベンは追い込まれる。手っ取り早く稼ぐには、交通事故専門のレッカー運転手、通称チェイサーになるしかない。現場に駆けつけて被害者の不安につけ込むあくどい仕事である。プライドの高い彼はやりたくないが、背に腹は代えられない。
ライバルは多い。警察無線を盗聴して、いかに早く現場に到着できるかが勝負になる。2015年の映画『ナイトクローラー』が似たような設定だったが、あれはパパラッチの話だった。生々しい映像を撮影してテレビ局に売りつける商売である。レッカー運転手は、高そうな事故車を見つけて修理工場に運び、リベートを受け取るのだ。
ベンは慣れない仕事で失敗を重ね、妻からは離婚を切り出されて息子からも拒絶される。最悪の状況から、最後には大逆転するというのがこの手の映画の常道だ。ハッピーエンド、と言いたいところだが、よかったよかったと手放しで喜ぶことはできない。主人公はダークサイドに落ちてしまうのだ。そういえば、『ナイトクローラー』もヒドい結末だった。
(文=鈴木真人)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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