第661回:イタリアでも輝く六連星! スバリストは拡大再生産されていく
2020.06.26 マッキナ あらモーダ!84歳販売店主の息子たち
2020年6月。イタリアの自動車販売店は前月に引き続き、新型コロナウイルス対策の外出制限期間中に滞っていた納車作業に追われている。
第442回でリポートしたシエナのスバルディーラー、アウトサローネ・モンテカルロを訪ねてみると、やはり通常業務に戻っていた。幸いなことに、今年で84歳になる店主ニコロ・マージ氏も、元気に復帰していた。
参考までに、イタリア全国における2020年5月のスバル登録台数は前年比24.12%減の173台であった。ニッチなブランドとはいえ、主要メーカーが軒並み40~60%減となった中で、その下げ幅は極めて少ない。
ニコロ氏には2人の子息がいる。彼らもまたアウトサローネ・モンテカルロに携わっており、普段は少し離れた場所にあるサービス工場をベースにしている。
次男で1979年生まれのフェデリコ氏は整備担当だ。2019年に神戸で開催された「スバルサービス技術コンクール世界大会」にはヨーロッパ代表の一人として参加。世界各地から勝ち上がってきた14名を相手に善戦した。
いっぽう、長男で1970年生まれのリッカルド氏は、主にサービスフロント業務を担当している。弟と同じくメカニック出身だけに、入庫してくるスバル車の症状を即座に判断し、スタッフに指示を出す。
大の日本ファンであるのも弟と同様だ。研修旅行とは別に、家族を連れて沖縄を旅行したこともある。
そのリッカルド氏は、新型コロナウイルスによる休業期間中、ある作業に取り組んでいたという。
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40年前のレオーネ
その作業とは、1980年型「スバルGLエステートバン4WD」のレストアだ。GLとは当時のイタリアにおける「レオーネ」の呼称である。
レオーネシリーズとしては2代目にあたるこのクルマ、お客さんから引き取ったものを長年そのまま保管していたのだという。
休業中にリッカルド氏が、レストアの最初の一歩として手がけたのはボディーだ。知人のカロッツェリィエレ(板金工)と二人三脚で作業を進めた。
走行距離は9万6000kmと、イタリアの中古車としては少ない部類である。しかし「最も苦労したのはボディーのサビでした」とリッカルド氏は語る。「特にフロントフェンダーとサイドシル部分です」と振り返る。
シエナ地方は今でも少し郊外に出れば、ストラーダ・ビアンカ(未舗装路)が広がる。新車当時のオーナーは、その性能を存分に楽しんでいたに違いない。
参考までに、後ほど紹介する車両も含め、すべてけん引用フックが追加されている。イタリアでは歴代オーナーたちが、スバル車のキャラクターを存分に引き出していたことを匂わせる。
これから、1.8リッターOHVボクサーエンジンを含む機構部分と内装も手がけなければならない。ただし「(最近の)スバル車は電子関連パーツが急速に増えています」と語るリッカルド氏にとって、限りなくメカニカルな80年代車両の修復は、自身にとっても日々の仕事のよきリフレッシュとなるに違いない。
しかし、それよりもリッカルド氏はレストアする理由について「2代目GLは、思い出のクルマですから」と語る。
クルマの年式である1980年は、それまでイノチェンティディーラーのメカニック長だった父親のニコロ氏が、44歳で一念発起してスバルの地区販売代理権を取得、つまり店を開いた年だ。
第442回で記したとおり、4WD方式への関心だけで店を開いたものの、いざ始めてみると、初年に売れたのはたった1台。銀行にも融資を渋られた。
「当時、私は10歳でした。最初に売れた赤いGLの姿も、しっかり脳裏に焼き付いています。以来スバルと一緒に育ったのです」
父親の苦労を眺めながら成長した彼は、やがて父の跡を継ぐことを決めた。
2020年は彼らの販売店の創業40年にあたる。そうした意味でも記念すべきレストアである。
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単なる修復ではない
実はリッカルド氏には、2代目GLの宿題がもう1台ある。後期型である4灯ヘッドランプの1983年「ステーションワゴン4WD」である。
走行距離18万kmのこの車両についても、リッカルド氏は解説する。「もともとは、あるお年寄りの愛車でした。少し前にその方が亡くなったあと、奥さまが『売っていただいたあなたの店に、ぜひ』と譲ってくださったのです」
ちなみに、スバリストの父親に影響されたのだろう、リッカルド氏によれば「そのお年寄りのご子息も『トリベッカ(トライベッカ)』を購入してお乗りですよ」という。
こちらのGLも将来、販売店の小さな歴史コレクションとしてショールームを飾ることだろう。同時に、復活した姿を見た元オーナー家族に喜びをもたらすことも確かだ。
帰り際、ふと入り口を見ると、無残な姿をした2000年代の2代目「フォレスター」が置かれている。
こちらも記念レストア対象なのかと思って訪ねると、リッカルド氏は首を振った。
「少し前、ひとりの若者が訪ねてきたのがきっかけでした」
若者は、アフリカ探検旅行にふさわしい中古車を探していた。「彼のためにいろいろ物色しました。その結果がこのフォレスターというわけです」
その痛々しいコンディションからして、若者の財布への負担はそれほど重くなかったと筆者は想像した。それでいながら、世界中で実績あるスバルの4WD車が手に入ったのだから、幸運というべきだ。
旅に耐えるコンディションにすべく、近日作業に着手するのだという。若者は一生スバルファンになると同時に、マージ一家の親友になるに違いない。
彼らが営むサービス工場のレストアは単なる修復ではない。スバルを通じて自分たちの歩みを振り返るとともに、新たなつながりの糸を紡いでいるのである。
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=Akio Lorenzo OYA、Autosalone Montecarlo/編集=藤沢 勝)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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