ジープ・コンパス リミテッド(4WD/9AT)
これならうまくいく 2021.06.25 試乗記 さまざまなクロカンやSUVを取りそろえるジープのなかで、最も都会派とされる「コンパス」。マイナーチェンジされた最新型を走らせてみると、多くのブランドと交わるなかで培われた商品力の高さを感じ取ることができた。フィアットとのタッグの成果
現行のジープ・コンパスに接して驚くのは、エンジンフードを開けると「2.4L multiair」と赤く大書された、いや、エンボス処理された樹脂製カバーがまっさきに目に飛び込んでくることだ。「マルチエア」とは、言うまでもなくフィアット自慢のバルブコントロール機構のこと。コンパスの2.4リッター直列4気筒は、吸気側バルブの開閉タイミングを油圧で制御するヘッドメカニズムを搭載しているのである。
「クルマの魂はエンジンに宿る」といういささか古ぼけた概念から抜け出せない守旧派としては、「カバーくらい自社ブランドのモノに変えればいいのに」と感じてしまうが、ジープ・クライスラー陣営にはもはやそれだけの気力も残っていない……のではなく、むしろことさら隠す必要もないほど、フィアットとの協力関係がうまくいっているということだろう。コンパクトSUVたる「ジープ・レネゲート」と「フィアット500X」のつくり分けのうまさに舌を巻いたのは、それほど遠い過去のことではない。
初代コンパスのオーナーやオーナーだった方には申し訳ないけれど、2006年に登場した旧型は、いかにも急造された廉価モデルといった趣で、シャシーと上屋のバランスの悪さから、「ジープの着ぐるみをまとったFFハッチか!?」と悪感情を抱いたクルマ好きさえいた。ワタシです。
当時は自動車メーカーの合従連衡が盛んに論じられた時代で、ダイムラー・クライスラー+三菱の企業連合が開発したMKプラットフォームをベースに、ジープからはオンロード寄りのコンパス、よりワイルドな「パトリオット」がリリースされた。喧伝(けんでん)されていたシナジー効果が発揮されたわけだが、両者のキャラクターづけは、あまり実質の伴わない、マーケティング主導のすみ分けといった色合いが強かったように思う。パトリオットはその後日本市場からは姿を消したが、コンパスはトップモデルたる「グランドチェロキー」を模したスタイルを手に入れて、シティー派クロスオーバーの個性を明確にした。
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パワートレインで決めるもよし
ジープブランドを含むクライスラーがフィアットグループに買収されてから登場したいまのコンパスもその流れを受け継いでいて、泥や土とはすっかり縁遠いアーバンSUVとなっている。全長4420mm、全幅1810mm、全高1640mmのボディーは先代よりグッと質感を上げ、それこそ遠目には“グラチェロ”と見紛(まご)うばかり。「都会的で洗練されたフォルム」というカタログ説明にも、皮肉を含まずうなずけるいでたちである。うーん、すっかり立派になっちゃって!
2635mmのホイールベースを持つシャシーは、弟分レネゲートのそれを65mm延長したもの。フロントに横置きされるエンジンは、国内市場では同じ4気筒ながら、1.3リッターターボのレネゲート(最高出力151PS、最大トルク270N・m。「トレイルホーク」のみ最高出力は179PS)に対し、自然吸気の2.4リッターユニット(同175PS、同229N・m)を積む。やんちゃでパンチある走りより、穏やかでマナーを重視した運転感覚が期待されているわけだ。
2021年6月26日に、マイナーチェンジを受けたジープ・コンパスの販売がスタート。主に内装デザインに手が入れられ、インフォテインメントシステム、運転支援や安全装備の充実が眼目である。
グレードは3種類。ベーシックな「スポーツ」と中堅「ロンジチュード」の駆動方式はFFで、トランスミッションは6段AT。上級版たる「リミテッド」には電子制御式多板クラッチを用いたオンデマンド式4WDが採用され、9段ATがおごられる。
値段は順に、346万円、385万円、そして435万円である。レネゲートの価格帯が、受注生産のスポーツ(299万円)を除けば368万円~393万円だから、微妙にかぶる設定だ。かつてのコンパス&パトリオット時代よりニ者の違いがハッキリしていてそれぞれが魅力的だから、「ユーザーが迷うことはない」とFCAジャパンは考えている。異論ありません。
この日の試乗車は、トップグレードのリミテッド。メタリックグレーの車体色は汚れが目立たなくていいが、都会のビル街にあっては少々ビジネス寄りに過ぎるかもしれない。
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乗り込んで「おお!」
外観では、前後バンパーが小変更を受け、ランプ類がLED化されたのが新しい。ルーフ後部のアンテナがねじ込み式からシャープフィンタイプになったのは、タワーパーキングや機械洗車を多用するユーザーからは歓迎されるはずだ。
大きく見た目を変えたのがインテリアで、上下に厚かったインストゥルメントパネルまわりが水平基調になり、これまでのモサッとした印象が大いにスッキリした。絶対的な車内寸法は変わらないとのことだが、こころもち広々感が増している。
インパネに加え、センターコンソール、ドアパネルまで一新されたそうで、センターのタッチスクリーンは10.1インチに大型化された(スポーツは8.4インチ)。メーター類には、10.25インチのマルチビューディスプレイ(スポーツは7インチ)が使われる。ちなみにナビゲーションシステムは、スマートフォンと接続してAndroid AutoやApple CarPlayを活用することになる。純正ナビの導入は「今後の売れ行き次第」だとか。
リミテッドの内装は、ドアの内張りやインパネにも革が使用されるフルレザータイプ。厚くタフな革地が若干の余裕をもってシートを覆うさまが、いかにもアメリカン。
今回試乗する機会はなかったが、個人的に「しゃれてる!」と感心したのがロンジチュードのプレミアムファブリック仕様だ。レザーと布のコンビネーションシートもさることながら、ザックリした風合いのファブリックが車内の随所に使われカジュアルさを演出しているのがいい。従来の“アメ車”イメージから脱皮していて新鮮で、例えば国産SUVからの乗り換え層にも強くアピールしそう。北米市場でラインナップされるブルーのボディーカラーが輸入されるようなことがあれば、内外装の組み合わせの妙で、さらに爽やかさが増すに違いない。
マイナーチェンジに伴う新技術導入の恩恵は、当然ながら最上級グレードのリミテッドに最も大きく、各種安全・運転支援装備を満載する。後退時に自車を俯瞰(ふかん)しているかのようにディスプレイに映し出す「サラウンドビューカメラ」、寒い冬場にありがたい「ヒーテッドステアリングホイール」、リアバンパー下の足先の動きでリアハッチを開閉する「ハンズフリーパワーリフトゲート」などが、リミテッドならではの特典だ。もちろん4WDモデルだから、以前より駆動力配分を路面状況に併せて最適化する「セレクテレイン」を備えるが、新たに自動で速度を抑制しながら急坂を下りられる「ヒルディセントコントロール」が加わった。
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ユルいところに血筋を感じる
革巻きのステアリングホイールを握って走り始めると、2.4リッター自然吸気ユニットが、1600kgの車重に過不足ないアウトプットを供給する。ダウンサイジングが当たり前になった昨今では大排気量といっていい4気筒は、どこかゴロゴロとした回転フィールがあって、それほど回りたがるエンジンではない。
それでも9スピードのトランスミッションがタコメーターの針が大きく回るのを待たずにあっさりギアを上げていくので、限られた常用域に不満を感じることはない。ほどよく力強い出足とゆるやかなパワーの盛り上がりが持ち味の、あまり主張することのない動力系だ。全体に運転者をせかさない、いい意味でユルい運転感覚が、シティー派を気取ってはいるものの、コンパスが荒野を行くジープ一族であることを思い出させてくれる。
ご存じのように、クライスラーを飲み込んだフィアットグループは、プジョー、シトロエンを中核としたフランスのグループPSAと合併して「ステランティス」を名乗るようになった。傘下には、クライスラー由来のダッジ、新興のDS、元GM子会社のオペルほか、14ものブランドがキラ星のごとく輝くことになる(予定)。
外野席にいながらも「大丈夫なんでしょうか?」と漠然と感じるが、「ジープがフィアットの子会社になった時分も、そういった声があがりましたが、大丈夫。うまくいきました」とFCAジャパンのトップは自信を示す。今回も心配はいらない、ということだ。
浅学ながら、フィアットとジープの関係は、資本関係の上下はともかく、小型車に強いフィアットと四輪駆動にたけたジープが開発面でうまく補い合ったのが成功した理由だろう。新たにスタートしたグループPSAとの協業では「電動化技術に期待している」という。
なるほど。近い将来、ボン! と「コンパスe」(仮)のフロントフードを開けると、グループPSA印のモーターカバーが目に入る、なんて時代がやってくるのかもしれませんね。
(文=青木禎之/写真=田村 弥/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
ジープ・コンパス リミテッド
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4420×1810×1640mm
ホイールベース:2635mm
車重:1600kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.4リッター直4 SOHC 16バルブ
トランスミッション:9段AT
最高出力:175PS(129kW)/6400rpm
最大トルク:229N・m(23.4kgf・m)/3900rpm
タイヤ:(前)225/55R18 98V/(後)225/55R18 98V(ブリヂストン・トランザT001)
燃費:11.5km/リッター(WLTCモード)
価格:435万円/テスト車=435万円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:596km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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