KTM RC390(6MT)
すべては走る喜びのために 2022.08.06 試乗記 ミドルクラスのスポーツバイク「KTM RC390」がフルモデルチェンジ。外装にMotoGPマシン「RC16」のイメージをまとい、足まわりやブレーキ、制御システムなどを中心に、さまざまな変更が加えられた。その走りはいったいどのように進化したのだろうか?圧巻だったコーナリング性能
新しいRC390は、足まわりやライディングポジションの最適化、車体の軽量化などに主眼を置いて変更が加えられたという。それを聞き、運動性の向上を重視したのだろうと考えてはいた。しかし、実際にはその予想を大きく超えていた。
マシンにまたがった瞬間に感じたのは、車体が軽く、ポジションが素晴らしいこと。シートやタンクの形状、ステップの位置などが理想のスポーツライディングを志向してデザインされていることが分かる。
サーキットの試乗ではハンドリングの進化に驚かされた。車体やバネ下の軽量化でシャープさに磨きがかかっている。フレームも単に剛性が高いのではなく、しなやかさがあって、思い切って攻め込んだ時も不安感がない。前後のサスペンションは通常の速度域なら柔らかく動いてくれるのだが、ペースを上げると無駄な動きが抑えられ、シッカリと踏ん張ってタイヤを路面に押し付けてくれる。
この車体とサスのおかげで、ターンインでマシンをバンクさせると運動エネルギーが無理なく旋回力につながって、実に気持ちのよいコーナリングをみせてくれる。わずかではあるが、レーサーのように体が縦に押し付けられるほどの強い旋回力なのである。
車体が軽いのに非常に安定していて、スーパースポーツとしてはとても乗りやすく、とっつきやすいのだが、攻め込んでいけばいくほどマシンが応えてくれるし、自由自在感がどんな状態でも失われない。非常に魅力的なコーナリングマシンである。
今回は「WP APEX PRO」の前後サスペンション装備車両にも試乗できたのだが、またがっただけでサスの動きのよさが分かるほどだった。加減速でもノーマルよりしなやかに動いてくれるので、姿勢変化によるコントロールがしやすい。上質なサスの素晴らしさだ。マシンの姿勢変化をつかみやすいから、少ないパワーでもマシンコントロールが楽しめる仕様になっている。
ノーマルのサスペンションも相当によくできているから、まずはスタンダードの状態で走り込み、より高いレベルを追求したくなったところでWP APEX PROを装着するという楽しみ方がいいだろう。サスペンションとスポーツライディングの奥深さを、じっくりと時間をかけて楽しむことができるはずだ。
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ツイン並みのスムーズさを持つシングル
排気量373ccの単気筒エンジンは、マネジメントシステムが進化し、トルクも若干向上した。大きな変更はないがそれでもパフォーマンスは十分に高い。ツインエンジン並みにスムーズで低中速トルクも十分。6000rpmくらいからパワーが出てきて、7000rpmからがパワーバンド。レブリミットの1万rpmまで気持ちよく回っていく。ただしレブリミット付近でもパワーがドロップしてこないので、タコメーターを見ていないと回しすぎてリミッターが作動してしまう。この特性は前モデルから変わっていないのだが、感覚的にはもう少し回りそうなところで加速が止まってしまうから、若干ストレスを感じるところだ。
ただ、これはテスターがRC390のエンジン特性に慣れていないことにも原因があった。強いトルク感があるわけではなく、振動も少なくスムーズにヒュンヒュンと回ってしまうので、スポーツライディングでは必要以上に高回転を常用してしまいがちなのだ。そのまま引っ張ってしまうとレブリミッターが作動。結果として使える回転域を自分で狭くしてしまう。
試しにギアを落とさず、若干低めの回転域を使うようにすると十分にトルクがあって立ち上がりでもスピードがのっていく。単気筒のトルクを利用して、無理に回しすぎないのがRC390を走らせるうえで重要なこと。高回転でもう少しパワーが盛り上がってくれたら、とも思ってしまうのだが、そもそも単気筒エンジンでここまでシャープな回り方をするというだけでも十分にすごいことなのだろう。
今回のマシンにはオプションのクイックシフターが装備されていたが、スリッパークラッチの効果も相まってシフトダウンのショックは小さい。試乗した富士スピードウェイのショートサーキットでは、シケインで切り返しながらギアを2つ落とさなければならないのだが、バンクしている時のダウンシフトでも姿勢が乱れるようなことは皆無だった。スポーツライディングをするのであれば、ぜひ選んでおきたい装備である。
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単気筒の魅力が生きるストリート
スーパースポーツにカテゴライズされてはいるが、ストリートを走っていてもストレスがたまらないのがRC390のいいところだ。ハンドルの高さが10mm変えられるようになったことで、サーキットでは低い位置、ストリートでは高い位置と使い分けることができる。わずか10mmだが、実際に乗ってみると感覚的にはずいぶん違って、長時間でのライディングでも疲れはかなり少なくなる。
ストリートでは単気筒エンジンの魅力がより強く感じられる。マルチやツインに比べると下からトルクがあるので、扱いやすいことはもちろんなのだが、このエンジンはツインエンジン並みにスムーズで高回転まで軽やかに回るから、高速で移動していても苦しげな感じがない。振動は6000rpm以下なら皆無。6000rpmを過ぎると加速時にステップ、減速時にはタンクに多少振動が出るが、気になるレベルではない。単気筒としては、極めて完成されたエンジンである。
試乗していてひとつ気になったのはABSだった。今回からIMU(慣性計測ユニット)によって緻密に制御されるようになったのだが、試乗したマシンでABSのテストを行ったところ、フロントブレーキを強く握ると何回かリアホイールが高くリフトしてしまうことがあった。正常な時は安定した姿勢でABSが作動していたので、センサーの作動に若干のバラツキがあったのだろう。ここから完成度を高めていくことに期待したい部分である。
全体的に見て、RC390は非常に魅力的なスポーツバイクである。MotoGPで活躍するマシンのスタイルだけでなく、コーナリングパフォーマンスまで感じられるモデルは、ミドルクラスでほかに存在しない。ビギナーからエキスパートまで、スポーツライディングの楽しさを思う存分堪能できるマシンである。
(文=後藤 武/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
KTM RC390
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:1343mm
シート高:824mm
重量:155kg(燃料除く)
エンジン:373cc 水冷4ストローク単気筒DOHC 4バルブ
最高出力:44PS(32kW)/9000rpm
最大トルク:37N・m(3.8kgf・m)/7000rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:3.46リッター/100km(約28.9km/リッター、WMTCモード)
価格:83万円

後藤 武
ライター/エディター。航空誌『シュナイダー』や二輪専門誌『CLUBMAN』『2ストマガジン』などの編集長を経てフリーランスに。エアロバティックスパイロットだった経験を生かしてエアレースの解説なども担当。二輪旧車、V8、複葉機をこよなく愛す。
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