対象車両は実に64万台 バス/トラックの名門 日野が犯した不正行為の実態と影響
2022.09.09 デイリーコラム明るみに出た数々の不正行為
会社設立80年の節目の年に、日野自動車が残念なかたちで注目されている。
ことの起こりは2022年3月4日。日野は日本向け車両用エンジンの認証申請において、耐久試験や燃費測定で不正行為があったと発表。エンジン性能に問題があるとして関連製品の出荷を停止した。具体的には、
- 中型エンジン「A05C(HC-SCR)」の排出ガス性能の劣化耐久試験において、排出ガス浄化性能が劣化し規制値に適合しない可能性を認識したうえで、マフラーを途中交換して試験を継続した。
- 大型エンジン「A09C」「E13C」の認証試験の燃費測定において、燃料流量校正値の設定を操作し、実際よりもよい燃費値となるようにして試験を実施した。
- 不正の有無は判明していないものの、小型エンジン「N04C(尿素 SCR)」の燃費性能が諸元値に満たないことが判明した。
以上3件を発表している。1週間後の3月11日には、外部の法律専門家と技術知見のある有識者で構成される特別調査委員会を設置。3月25日には上述の小型エンジンについても不正行為を認めるとともに、中型エンジン搭載車両(約4万7000台)のリコールを届け出ている。3月29日には、2021年9月のリコールに伴う営業費用とともに、これらの不正に伴う特別損失の計上見込みを発表。業績予想を下方修正した。
実はこのころ、私はまだ「業績への影響は大きいが、調査結果を踏まえて体制を立て直せば大丈夫だろう」程度にしか考えていなかった。不正はもちろん大問題だが、特段引っかかることはなく、トヨタという後ろ盾を持つ商用車の名門の再起は十分可能だと思っていた。しかし、事態は悪いほうへと転がり始める。
8月2日、日野は特別調査委員会の調査結果と今後の対応を発表。約300ページに及ぶ報告書には、3月に発表した一連の不正に加えて、新たに「2016年問題」に関する調査結果が盛り込まれていた。日野は2016年に国土交通省が発した排出ガス・燃費試験の不正に関する報告徴求命令に対し、「不適切な事案はない」と虚偽の報告をしていたのだ。この報告徴収命令は自動車各社に発出されており、例えばスズキは、これに基づく社内調査で不正を発見している。このとき日野は、組織立て直しの機会を逸したうえに虚偽の報告をするという罪を重ねていた。
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結果報告のあとで明らかになった新たな不正
調査委員会は一連の問題の真因として、(1)みんなでクルマをつくっていないこと、(2)世の中の変化に取り残されていること、(3)業務をマネジメントする仕組みが軽視されていたこと、という3点を挙げた。特に目を引くのは「みんなでクルマをつくっていない」という表現だ。補足として「セクショナリズムが強く、組織が縦割り」「現場と経営陣の認識に断絶」などと記されているが、さまざまな問題点を包括的に表せば「みんなでクルマをつくっていない」ことに尽きるというのだろう。問題の本質が子どもでもわかる言葉で表現されたことに、むしろ闇の深さを感じてしまう。
このときの会見では、小木曽聡社長が再発防止と組織改革について語っている。小木曽社長はトヨタ自動車でハイブリッド車の開発等に携わった経歴を持ち、2021年2月に日野の顧問となり、同年7月に社長に就任した。不正については、おそらく社長就任時から社内調査を進めていたのだろう。約半年間をかけて調査し、不正の事実を発表したあとは外部有識者も交えて本格的な調査を行い、併せて再発防止策や組織改革案を練り上げていく……。小木曽社長にとっては、8月2日の調査委員会の結果報告が大きなマイルストーンだったはずだ。
しかし、問題はここで終わらなかった。8月22日、日野は新たな不正の事実を発表することになったのだ。この不正は8月3日に始まった国交省の立ち入り検査で見つかったもので、小型エンジンの排ガス認証の申請に際し、既定の回数必要となる排ガス測定を怠っていたというものだ。8月2日に調査結果を発表していながら、国交省に新たな問題点を指摘されるとは痛恨の極みだろうし、調査結果とともに発表した今後の対応策にも疑問符が付く。
そして8月24日、日野はCommercial Japan Partnership Technologies(CJPT)から除名された。CJPTは商用分野での脱炭素の取り組みを推進するべく、2021年4月に日野、いすゞ自動車、トヨタの3社で立ち上げた会社だ。日野が出資した10%の株式はトヨタに譲渡。トヨタの豊田章男社長は一連の不正に対して「お客さまをはじめすべてのステークホルダーの信頼を大きく損なうものであり、日野の親会社としても、株主としても、極めて残念」とのコメントを出した。
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影響は日野だけにとどまらない
8月30日、日野は「信頼回復プロジェクト」の発足と、「パワハラゼロ活動」の立ち上げを発表した。前者は新たな不正発覚を踏まえて策定されたものと思われ、具体的な内容は見えてこない。一方、パワハラゼロ活動のほうは、調査結果を発表したころから準備してきた施策だろう。社内向け文書も公開して透明性の高い改革に乗り出す姿勢を見せている。
これから、日野はどうなっていくだろうか? 2003年以前から行われていたという不正の対象車両は、累計約64万台が出荷されている。いまは国交省による認証取り消しにより大半の車種が販売できなくなっており、国内生産の約6割を停止しているという。帝国データバンクの調べでは、日野は国内約5000社と取引をしている。この事態が長引けば、倒産や廃業が出てくる可能性もあるだろう。
日本における商用車メーカーのCASE対応についても、影響が懸念される。半年前まではCJPTという枠組みのなかで日野といすゞの二大メーカーが協働し、新しい商用車をつくっていくはずだった。CJPTにはスズキとダイハツも参画しており、大型から小型まで、フルラインナップで物流の脱炭素化に臨むという期待感もあったのだ。しかし、いまの日野に業界をけん引することはできない。まずは自社の立て直しが最優先だ。親会社であるトヨタは転んだ子どもが立ち上がるのを応援するだろうが、その先に目指すゴールは日野をかつてのポジションに戻すことなのか、はたまた新しい組織体なのか。
日野のロゴは地平線から昇る太陽、日の出のイメージだという。まずは日野に再生の光が差すことを期待したい。
(文=林 愛子/写真=日野自動車、トヨタ自動車、webCG/編集=堀田剛資)
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林 愛子
技術ジャーナリスト 東京理科大学理学部卒、事業構想大学院大学修了(事業構想修士)。先進サイエンス領域を中心に取材・原稿執筆を行っており、2006年の日経BP社『ECO JAPAN』の立ち上げ以降、環境問題やエコカーの分野にも活躍の幅を広げている。株式会社サイエンスデザイン代表。
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