BYDシールAWD(4WD)
ヤバいのはこれから 2026.01.17 試乗記 BYDの電気自動車(BEV)サルーン「シール」の機能アップデートモデルが登場。強化のポイント自体はそれほど多くないが、4WDモデルの「シールAWD」は新たに電子制御式の可変ダンパーを装備したというから見逃せない。さまざまなシーンでの乗り心地をチェックした。相変わらず安い
これまでも“新エネルギー車シェア世界一”を自認してきた中国BYDだが、昨2025年は、純粋なBEVの年間販売台数でも、あのテスラをついに上回って、世界最大のBEVメーカーになったという。そんなBYDは中国メーカーに逆風が吹きがちな日本市場においても、手綱を緩めるつもりはないようだ。この2026年も、話題の軽BEVだけでなく、コンパクトな「ATTO 2」と、シールのワゴン版となる「シール6」のプラグインハイブリッド車も日本導入予定とか。
そうした積極的な新車攻勢の合間に、アップデートされたのがシールだ。床下に電池を敷き詰めるBEVでは、この種の背低サルーンはエンジン車以上に少ない。実際、シール以外に日本で手に入るDセグメントBEVサルーンは、「BMW i4」と「アウディA6スポーツバックe-tron」くらいしか思い当たらない。
とくに性能や機能で、シールとガチンコで競合するのがi4である。両車は、車体サイズや動力性能、一充電走行距離までほぼ同等ながら、アップデート後の車両本体価格は、RWDどうしならシールのほうが4割以上安く、今回のAWDはi4の「M60 xDrive」の半額以下(!)と、これまで以上に戦略的な値づけとなっている。もちろんブランド信用度は、長年の実績があるBMWに軍配が上がるが、欧州の自動車メディアの評価を見ると、欧州でのシールは日本以上の存在感を誇る。
ちなみに、本国の中国ではBEVシステムを400Vから800Vに刷新した大幅改良モデルも登場しているが、今回の日本仕様はそうではない。「市場から寄せられたリアルな声」に応えたという細部のブラッシュアップが主体で、見た目にも従来と印象はほとんど変わらない。実際に変わったのは、ホイールデザインと赤く塗装されたブレーキキャリパー(AWDのみ)くらいだ。
自社開発の電子制御式可変ダンパーを搭載
ただ、見た目ではわからない改良の手はいろいろなところに入っている。プレスリリースやカタログによると、エアコン性能の向上(冷却性能、空気清浄性能、静粛性)と「Apple CarPlay」と「Android Auto」のワイヤレス接続、そしてスマホによるデジタルキー機能の新搭載がある。
さらに走行面では、サスペンションがグレードアップされた。具体的には、これまで固定減衰ダンパーだったRWDに機械式可変ダンパーが採用された。そして、その機械式可変ダンパーがこれまで標準装備されていたAWDには、BYD自社開発という電子制御式可変ダンパー「DiSus-C」が新搭載された。
赤いブレーキキャリパーからもわかるように、今回試乗したのはそんなアップデート版シールのAWDである。インテリアは見慣れた光景で、シフトセレクターそばのドライブモードダイヤルも健在だが、ここで切り替わるのはパワートレイン特性のみで、パワステやブレーキ、そして回生の強さはセンターディスプレイ上での個別設定となるのは従来と変わりない。電子制御可変ダンパーの「コンフォート」と「スポーツ」というモード切り替えも、同じくディスプレイ操作が必要だ。
市街地や高速道をゆったり走るぶんには、とくに不足を感じない仕上がりなのは、従来モデルと同様である。新機軸の電子制御可変ダンパーをコンフォートモードにすると、アシさばきはこれまでより明確に柔らかく、路面のヒビ割れやジョイントをスルリと快適に通過してくれるようになった。ご想像のとおり、ステアリングレスポンスはそのぶん、明確にスローになるが、シールそのものの直進性は良好なこともあり、この面で困ることもない。
高速域などでの弱さは変わらず
こうした路面不整を一発ずつ、吸収していなすだけなら、アップデート版シールは、なるほど、これまで以上にしなやかで快適だ。いっぽうで、凹凸に連続して蹴り上げられるシーンだと強めに揺すられてしまうクセは、新しい電子制御ダンパーでも解消されていない。また、そのコンフォートモードのまま高速道に乗り入れて、特別区間で100km/hを明確に超える速度域になると、フワフワとした上下度がさらに大きくなり、乗員の目線もそれにつられて盛大に動いてしまう。つまり、高速でのフラット感ははっきり物足りない。ダンパーをスポーツモードにすれば上下動が少し減って、ステアリングもタイトになるが、かわりにズンズンという揺すられ感が強まる。
新しい電子制御可変ダンパーによるシールAWDの所作は、一面での快適性は確かに向上したものの、リアルでぴたりとハマるシーンは意外に少なく、総合的には従来モデルと一長一短なところもある。できれば、路面や速度に応じて臨機応変にモードを使い分けたいところなのだが、そのためにはセンターディスプレイの階層に入っていく必要があるのは前記のとおり。走行中の変更は、事実上できないのがもどかしい。
Dセグメントサルーンといえば、グローバルでは上級車にあたるので、高速域でのステアリングの正確性と接地感も、もう少し高めてほしいとも思う。ただ、以前webCGに書いたRWD(参照)のそれが高速で明らかにデッドな手応えになるのと比較すると、今回のAWDは少なくとも不安にかられるほどではない。高速での安定性や安心感もRWDより確実に高い。
このように、新機軸の電子制御可変ダンパーといっても、実際の恩恵は、低速でソフトになった乗り心地にかぎられる。高速での安定感やフラット感、あるいはステアリングフィールなどは、良くも悪くも従来より明確に進化したとは感じられなかった。
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もはや運転の機微は不要か
こうした印象はパワートレインでもしかりで、アクセルペダルの踏みはじめこそ鋭いピックアップを見せるものの、足指レベルの微妙なアクセルワークには鈍感な加速特性も従来のままだ。そうした微妙な操作へのよそよそしさは「スタンダード」と「ハイ」という強さが選べる回生も同様。リニア感や高速ダイナミクスという意味では、まだまだ改善の余地あり……と思わせる点は以前と変わりない。
細かい使い勝手や快適性は確実にアップデートされているのに、走りの機微にまつわる部分には手が入らない(もしくは手が入ったように感じられない)のは、以前にも指摘されているとおり、BYDには優秀なシェフ役がいないのか。あるいは、BYDはそうした“乗り味”にそもそも興味がないのか。
そのかわり、タフネスが自慢の自社製リン酸鉄リチウムイオン電池の急速充電性能には、相変わらず感心するほかない。スペック上の受電能力は最新の上級BEVとしては平均的な105kWだそうだが、電池残量に関係なく、充電器が50kWタイプなら45~49kW、90kWなら80kW以上……と、どんな状況でも、ほぼ額面どおりに電気をグイグイ飲み込んでいく。表示を見ているだけで、じつに気持ちいい。実際の充電量にかかわらず時間課金となることの多い現在の国内急速充電インフラでは、こうした“大食い・早食い”性能はメリットが大きい。
今回も高速SAで気持ちよく急速充電した後、車線トレース機能とアダプティブクルーズコントロールを作動させて“半自動”クルーズをしていると、基本的な直進性は悪くないシールなので、マニュアル運転するよりは快適だ。細かい味わいにいちいちこだわるのは、もはや時代遅れの中高年クルマオタクのたわごとか……と自虐しかけるも、いやいや、予防安全や疲労軽減という意味でもステアリングフィールやフラットライド、そして接地感は重要である。
もっといえば、このときのシールの車線維持や車間距離の制御ももう少しスムーズになってほしいが、今後そうした細かい運転の機微を気にしないユーザーが増えてくると、いよいよBYDは日本車の脅威となるのではないか。
(文=佐野弘宗/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝/車両協力=BYDオートジャパン)
テスト車のデータ
BYDシールAWD
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4800×1875×1460mm
ホイールベース:2920mm
車重:2230kg
駆動方式:4WD
フロントモーター:誘導式モーター
リアモーター:永久磁石同期式電動モーター
フロントモーター最高出力:217PS(160kW)
フロントモーター最大トルク:310N・m(31.6kgf・m)
リアモーター最高出力:313PS(230kW)
リアモーター最大トルク:360N・m(36.7kgf・m)
システム最高出力:530PS(390kW)
タイヤ:235/45R19 99V XL/(後)235/45R19 99V XL(コンチネンタル・エココンタクト6 Q)
交流電力量消費率:165Wh/km
一充電走行距離:575km(WLTCモード)
価格:572万円/テスト車=572万円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:1205km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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