トヨタ・クラウン クロスオーバーRS“アドバンスト”(4WD/6AT)
わが道を見つける大変身 2022.11.02 試乗記 新しい「クラウン」の「デュアルブーストハイブリッド」は、トヨタとしては異例に燃費への言及が控えめなパワートレインだ。まさに生まれ変わろうとするクラウンの象徴にほかならない。箱根のワインディングロードでその仕上がりを試す。大変身の理由
退くか、進むか、とどまるか。壁に行き当たった時に選ぶ道はこのうちのどれかということになるが、商売においては原点回帰か改革かの二者択一しかない。70年近い歴史を持つだけに、世代によってそれぞれのクラウン像は異なって当然だろうし、そもそもクラウンというクルマの存在意義にかかわる議論もあるだろう。だがクラウンを諦めないということを前提とすれば、取るべき道は変革への挑戦しかない。
繰り返しになるが、クラウンの国内年間販売台数のピークは平成2年(1990年)のおよそ20万台(V8搭載モデルが登場した8代目の時代)、それ以降は年を追うごとに減り続け、2000年代に入ってからは10万台を割り込むことがほとんどであり、ユーザー層の若返りを狙ってファストバックスタイルに変身した先代=15代目クラウンもデビュー直後の2018年は約5万台を売ったものの、直近では2万台がせいぜい。すなわち全盛期の10分の1程度にとどまっていたのである。グローバルで年に1000万台を生産する世界一の自動車メーカーにとってはいかにも少ない(例えば「RAV4」などは一車種で年100万台レベル)。しかもご存じのようにクラウンは基本的に国内専売モデルである。いかに長年トヨタの看板を背負ってきたフラッグシップであっても、この状態を看過するわけにはいかなかったのである。
受け継いだのは名前だけ?
クラウンという名前を捨てるわけにはいかなかったとはいえ、クラウン クロスオーバーの実物を目にしても過去のモデルとの関連性はまったく感じられない。1983年発売の7代目、あの「いつかはクラウン。」時代にこの業界に足を踏み入れた私にとっても、この大柄なクーペSUV風の新型車をクラウンですと紹介されても、すぐには飲み込めないのが正直なところだ。滑らかでボリューム感のあるボディーは車高が高いうえにホイールも21インチと大きく、しかもトヨタの他モデルのような“キーンルック”の顔つきではないので、どこか海外メーカーのクロスオーバーSUVのようだ。
ボディーの外寸は4930×1840×1540mm、全幅だけはそれほどでもないが、全体としては堂々たるアッパーミドルサイズだ。ホイールベースは2850mmと後輪駆動の先代モデル(2920mm)に比べれば短くなっているが、室内スペースは前後席ともにむしろ広々としている。シートもたっぷりとしたサイズで、これなら大柄な外国人が乗っても不満は出ないだろう。新型クラウン クロスオーバーはルーフがなだらかに下降したクーペスタイルにもかかわらず、車高が高いおかげで後席の頭上も窮屈ではない。リアシートが倒れない構造のせいか(アームレスト部のみトランクスルー)、バックレストはすっぽり体を包むように湾曲しており、比較的アップライトに座る姿勢は居心地がいい。従来どおりフォーマルシーンに多用されるかは定かではないが、乗り降りしやすいヒップポイントの高さと相まって高齢の方にも歓迎されると思われる。応接間のようにはしたくなかった、というインテリアはなるほどクリーンで機能的だが、トリムのクオリティーや斬新さについては平均的といったところ(先代よりはずっとましだが)。フラッグシップと聞いてユーザーがどう感じるかちょっと心配だ。
RS系には2.4リッターターボハイブリッド
すでに4車型が発表されているクラウンファミリーの第1弾たるクロスオーバーには2.5リッター4気筒ハイブリッドと、トヨタがデュアルブーストハイブリッドシステムと称する2.4リッター直噴4気筒ターボエンジン+前後モーターという2種類のパワートレインが用意されている。「RS“アドバンスト”」に搭載される後者はトヨタとして初めて6段ATと組み合わせたシステムだ。
「レクサスNX」にも積まれている2.4リッターターボは最高出力272PS/6000rpmと最大トルク460N・m/2000-3000rpmを発生(「NX350」用は279PSと430N・m)。それに加えてフロントモーターが82.9PSと292N・m、リアモーターが80.2PSと169N・mを生み出し、すべてを合計したシステム最高出力は349PSという。前輪駆動ベースで同様にリアモーターを備える2.5リッターハイブリッドのほうは同じく234PSだから違いは明らかで、このRS系のシステムは「E-Fourアドバンスト」と呼ばれる。デュアルブーストハイブリッド搭載車にはRSとRS“アドバンスト”の2グレードが設定されているが、前者は2023年1月以降の生産予定とされているため、現状で試乗できるのは上級グレードであるRS“アドバンスト”のみ、価格は640万円と現状ではクラウンのトップモデルとなる。
たくましいが洗練度はもうひとつ
エンジンとモーターの間にひとつ、モーターと6ATの間に湿式多板クラッチをもうひとつ備えたデュアルブーストハイブリッドは滑らかに動きだす。パワフルなリアモーターは水冷式で、これまでのE-Fourよりもはるかに積極的に、滑りやすい路面や低速時だけでなくドライのオンロードでも後輪を駆動し(前後100:0~20:80。通常走行時も2割ほど)、コーナリング時にも前後の駆動力を適切に制御するという。さらに全車標準の「DRS(リアステア)」の効果もあって、見た目よりもずっと軽快かつ極めて安定したハンドリングを備えている。もちろん踏めば十分以上にパワフルで、2.5リッターハイブリッドでは床まで全開にするような場面でもハーフスロットルぐらいでこなしてしまうので、結果的にエンジン音が耳につくこともない。もっとも、山道を元気よく走るような場面では、切り返し時に上屋の重さというか重心の高さを、よいしょっという揺り返しで感じさせられることもある。車重が1900kg以上あることは意識しておくべきで、目をつり上げて飛ばすというより余裕たっぷりの雰囲気を楽しむほうがふさわしいと感じた。
また乗り心地の点でも路面と速度によって落差が意外に大きかった。RS系は可変ダンパーの「AVS」も標準装備されるが、見た目重視という大径21インチタイヤ(2.4リッターターボハイブリッドに標準)はさすがに重いらしく、舗装の荒れた一般道ではブルルンという振動が気になった。ただし、試乗車間の個体差があった(大急ぎで試乗会に間に合わせた市販試作車という)ことを付記しておきたい。ちなみにチェーン装着などを考慮したためか18インチもオプション設定されている(-10万4500円)。このあたりはさすがというべきだが、クラウンとしては、いや新しいトヨタのフラッグシップとしては、洗練度はいささか物足りない。生産立ち上げも思うようにはいかないのだろうし、まだ試乗会で試しただけなので即断は避けたい。それほどの大変身なのである。
(文=高平高輝/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
トヨタ・クラウン クロスオーバーRS“アドバンスト”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4930×1840×1540mm
ホイールベース:2850mm
車重:1950kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.4リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:6段AT
エンジン最高出力:272PS(200kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:460N・m(46.9kgf・m)/2000-3000rpm
フロントモーター最高出力:82.9PS(61kW)
フロントモーター最大トルク:292N・m(29.8kgf・m)
リアモーター最高出力:80.2PS(59kW)
リアモーター最大トルク:169N・m(17.2kgf・m)
システム最高出力:349PS(257kW)
タイヤ:(前)225/45R21 95W/(後)225/45R21 95W(ミシュランeプライマシー)
燃費:15.7km/リッター(WLTCモード)
価格:640万円/テスト車=731万3000円
オプション装備:ボディーカラー<ブラック×プレシャスレイ>(16万5000円)/ドライバーサポートパッケージ2(23万6500円)/リアサポートパッケージ(27万9400円)/マイコン制御チルト&スライド電動ムーンルーフ<挟み込み防止機能+パワーオフ後作動機能付き>(11万円)/デジタルインナーミラー(4万4000円)/ITSコネクト(2万7500円) ※以下、販売店オプション フロアマット<ロイヤルタイプ>(5万0600円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:878km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:---km/リッター
拡大 |

高平 高輝
-
フィアット500トリノ ハイブリッド(FF/6MT)【試乗記】 2026.10.13 電気自動車からエンジン搭載車へと華麗に変身! 日本では珍しい、4代目「フィアット500」のマイルドハイブリッドモデルに試乗。1リッターの自然吸気エンジンを6段MTで駆るイタリアンコンパクトは、今のクルマが忘れてしまった楽しさに満ちていた。
-
ボルボES90ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】 2026.10.12 ボルボの電気自動車(BEV)「ES90」のトップモデル「ウルトラ ツインモーター パフォーマンス」を駆り、東京から初秋の新潟へ。往復700kmを超えるロングドライブで分かった新型5ドアハッチバックモデルの実力と、BEVで気になる充電環境のリアルな今を報告する。
-
フェラーリ・プロサングエ ハンドリング スペチアーレ仕様(4WD/8AT)【海外試乗記】 2026.10.8 フェラーリの4ドア4シーターモデル「プロサングエ」に、「ハンドリング スペチアーレ」を名乗るスペシャルバージョンが登場。その走りは従来モデルからどのように変わったのか? 跳ね馬の原産国、イタリアで確かめた。
-
トヨタ・ランドクルーザー“FJ”VX(4WD/6AT)【試乗記】 2026.10.7 新たにシリーズに加わった「ランドクルーザー“FJ”」は、ポップな見た目から簡易版のように思われるかもしれないが、その中身は紛れもなく本物であり、道なき道をグイグイと突き進む。これもまた「どこへでも行き、生きて帰ってこられる」を体現する一台である。
-
スバル・レヴォーグ レイバック プレミアムS:HEV EX(4WD/CVT)【試乗記】 2026.10.6 「スバル・レヴォーグ レイバック」にストロングハイブリッド搭載モデルが登場。高効率なパワーユニットが積まれたのはもちろんのこと、既存の純エンジン車とはデザインやボディーサイズも違っているというから興味深い。上位グレードの「プレミアムS:HEV EX」を試す。
-
NEW
写真で解説する「フィアット・グランデパンダ」
2026.10.16画像・写真ステランティスが「フィアットブランドの大きな柱のひとつとなる重要なモデル」と位置づける「グランデパンダ」が日本上陸。その具体的な見どころを、写真とともに解説する。 -
NEW
フィアット・グランデパンダ ハイブリッド ラプリマ(FF/6AT)【試乗記】
2026.10.16試乗記欧州を代表するコンパクトカーの一台である「フィアット・パンダ」が第4世代に進化。新たに「グランデパンダ」を名乗り、日本にやってきた。ずばり新型の見どころは車両の随所にちりばめられた初代モデルへのオマージュである。上位グレード「ラプリマ」の仕上がりをリポートする。 -
NEW
スズキの未来を徹底検証! 技術戦略説明会から“10年先のスズキの姿”を夢想する
2026.10.16デイリーコラム年間生産500万台で、Dセグメントまでカバーする巨大メーカーに!? スズキが発表した「10年先を見据えた技術戦略2026」を徹底検証。技術開発に製品開発、インドを核としたグローバル戦略などの中身を通して、「10年先のスズキの姿」を予想した。 -
賢い選択 ――キャデラック「LYRIQ」フラットプランのすゝめ――
2026.10.15投資家も太鼓判! 「キャデラック・リリック」×フラットプランという最適解<AD>クルマが変わり、時代も変われば“持ち方”だって変化する? お金のプロである投資家が、「キャデラック・リリック」の残価保証型リースを勧める理由とは? 夢の「2台持ち」をかなえる、最新電気自動車の賢い選び方を考えた。 -
間もなく正式発表 ミツオカの新型2シータースポーツカー「LA1」を予測する
2026.10.15デイリーコラム光岡自動車が2026年11月26日に正式発表を予定しているアメリカンスタイルの新型2シータースポーツカー「LA1」。現在公開されているLA1の画像とティーザーサイトに掲載された情報から、その特徴を分析する。 -
「BYDラッコ」「スズキeスカイ」登場で卍どもえに 軽乗用BEVの覇権はどこが握る?
2026.10.14デイリーコラムこれまで「日産サクラ/三菱eKクロスEV」と「ホンダN-ONE e:」のみだったところに「BYDラッコ」と「スズキeスカイ」が加わり、軽BEV市場がにわかに盛り上がりを見せている。どれもほぼ同じ床面積を持つBEVだが、比べてみるとその中身は結構違う。今後の覇権を握るのはどの陣営か。



















































