水素は? BEVは? アルピナは? 独BMWのオリバー・ツィプセ社長に直撃インタビュー
2023.04.26 デイリーコラムパワートレインの3本柱
優れた内燃機関モデルとともに、電気自動車(BEV)でも水も漏らさぬモデルラインナップの整備を進めているBMWだが、パワートレインの第3の柱としては水素を見据えている。どれも将来的にどうなっていくのかを見据えるのが難しい状況ではあるものの、状況に応じて市場ごとに売り分けるのかもしれないし、3本あればどれかで生き残れるということかもしれない。
その水素を使った燃料電池車の「iX5ハイドロジェン」が2023年2月にお披露目された。BMWは2013年からトヨタ自動車と共同で水素パワートレインの開発を進めており、iX5ハイドロジェンの場合は燃料電池をトヨタが生産し、燃料電池のスタックと電動パワートレインはBMWが独自に開発。ミュンヘンにあるBMWの研究開発センターで約100台が生産されるというが、この100台は販売されず、あくまで実証実験のための車両とのことである。
この実証実験を実施する国のひとつに日本が選ばれた。2023年7月には100台のうちの3台が上陸する予定だ。それを間近に控えた4月、独BMWのオリバー・ツィプセ代表取締役社長兼会長が視察のために来日した。わずかな時間ながら話を伺えたので、その内容を報告する。webCGだけでなく、いくつかのメディアでの合同取材だったため、私以外の質問に対する回答も含まれている。各メディアが持ちつ持たれつのインタビューである。
2030年までにBEVの販売比率を50%に
ツィプセ社長は1964年生まれの59歳。30年以上前に日本のデンソーで働いていたこともあるそうで、日本の記者陣を前にしていたこともあるだろうが、発言の端々に日本への深い愛情を感じた。とかく「安くなったニッポン」のように言われることが多い昨今だが、BMWにとって日本はいまだに大きな市場であり、ツィプセ社長は日本市場にはポテンシャルを感じているとのことである。今回の来日ではトヨタやデンソーを訪問したほか、京都にも行くなどして、現在の日本がどのような状況にあるかをつぶさにチェックしているという。
ツィプセ社長の話では、2022年の日本市場ではBEVの販売台数で2位だったというBMW。BMWブランドからは「iX1」「i7」「i4」などを投入したほか、2023年の後半には「i5」「iX2」もデビューする。さらにロールス・ロイス初のBEV「スペクター」やMINIのBEVも間もなくというから楽しみだ。
2023年はこれまでと同様にプロダクトとテクノロジーにフォーカスし、2025年まではこの戦略を継続。BMWでは現在「ノイエクラッセ」と呼ばれる新しいBEV専用アーキテクチャーをベースにしたモデルの開発を進めており、その最初のモデルが2025年に登場し、それから24カ月以内に6モデルに拡大することになっている。2023年は全販売台数の15%をBEVとすることを目標とし、2024年には20%、2025年には25%、2026年には33%、2030年までには50%を目指すという。
さらに2023年はいよいよパワートレインの第3の柱である水素が本格始動する。カーボンニュートラルの実現には不可欠な技術であり、2020年代の後半には市販車両を投入予定。水素のメリットは燃料補給のしやすさにあり、BEVと内燃機関車の利便性を併せ持つ車両を実現できるという。
アルピナはどうなる?
水素の実証実験については、日本だけでなくヨーロッパや韓国でも実施。とりわけ日本を重視するのは、日本には積極的に水素を活用していこうという戦略があるのと、燃料電池車に対する補助金が非常に大きいためだという。実際、令和4年度の場合、「トヨタ・ミライ」にはおよそ145万円ものクリーンエネルギー自動車導入促進補助金が支給される。「ヒョンデ・ネッソ」に至っては約215万円である。ドイツでは種類を問わず環境対応車への補助金は同額だという。また、日本はBEVの普及が遅れているため、燃料電池車が普及する可能性が高いとみているそうだ。
来日直前の3月25日には、条件付きながら2035年以降も欧州委員会とドイツ政府が内燃機関車の販売を認めるという報道があった。これについてツィプセ社長は「規制変更に驚くことはなかった」とし、合成燃料(e-FUEL)はCO2削減に向けた回答のひとつであり、BMWはテクノロジーに対してオープンだと胸を張った。e-FUELには二酸化炭素と水素の合成比率でいくつかのレベルが設定されているが、2035年までにはまだ時間があるので、2030年くらいまでにBMWとしてのスタンダードを決めればよいとした。現在でもBMWは内燃機関の開発の手を止めておらず、必要とされる限りは開発を続けていくという。
話はガラリと変わるが、ちょうど1年前の3月にBMWはアルピナブランドの取得を発表した。年間の生産台数が2000台程度とされているアルピナは、ボーフェンジーペン家の手を離れた新天地でどのような扱いになるのだろうか。グループ内ではロールス・ロイスでさえ5000台以上(2022年)を生産しているのである。
ツィプセ社長は「ベリーベリースペシャルブランド」と即答。モノづくりのアートを体現しているのがアルピナであり、今でも多くが手作業のため、量産するためのブランドではない。こうしたアルピナの持つ強みをさらに積み上げていくべきだと語った。マーケットとカスタマー次第ではあるものの、ボリューム志向にはならないだろうとのことだった。
(文=藤沢 勝/写真=BMW、webCG/編集=藤沢 勝)

藤沢 勝
webCG編集部。会社員人生の振り出しはタバコの煙が立ち込める競馬専門紙の編集部。30代半ばにwebCG編集部へ。思い出の競走馬は2000年の皐月賞4着だったジョウテンブレーヴと、2011年、2012年と読売マイラーズカップを連覇したシルポート。
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