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第176回:二国間プロジェクトはつらいよ……懐かしの「マツダ・ロードペーサー」との思い出

2011.01.15 マッキナ あらモーダ! 大矢 アキオ
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第176回:二国間プロジェクトはつらいよ……懐かしの「マツダ・ロードペーサー」との思い出

どうなるフィアットとクライスラー?

フィアットとクライスラーによる大西洋をまたいだ連携作業は、北米側では着々と進められている。そのさきがけとして2011年1月、フィアットは、クライスラーへの出資比率を従来の20パーセントから25パーセントにまで引き上げた。さらに2011年10月から北米でフィアット設計の4気筒エンジンを生産することも明らかにした。

ところがお膝元のトリノはといえば、ちょっと複雑な状況に陥った。事の成り行きは以下のとおりだ。
フィアットは2010年秋、ミラフィオーリ本社工場でSUVをアルファ・ロメオ/ジープ両ブランドで生産するため、10億ユーロの設備投資計画を発表した。マルキオンネCEOは投資の必要条件として、工場従業員を掌握する各労働組合に、労働時間延長や病欠手当の削減などを提示した。マルキオンネ氏いわく「イタリアに新しい労働モードを持ち込む」というわけだ。

それに対して2010年末、すでに2つの組合がマルキオンネ案に反対を表明した。マルキオンネは、従業員の反発に相当頭を抱えたようで「もしミラフィオーリ(の従業員)が『NO!』と言うなら、計画をそのままクライスラーのカナダ工場に移す」と言い切った。

ミラフィオーリに追加投資が行われないということは、戦前からフィアットを象徴してきた主力工場の大幅な縮小を意味する。それは現在同工場が担当している「フィアット・ムルティプラ」や、同「イデア」「ランチア・ムーザ」の生産は、次期モデルからセルビア工場に移されることがすでに予定されているからだ。

結果はというと2011年1月15日未明、従業員投票における賛成票が54%に達したことが判明。労働側がマルキオンネ案を受け入れることになった。
ただし僅差での決着だけに、今後マルキオンネのオペレーションが順調に進行するか、予断を許さない状態だ。

初代「ルノー・ランブラー クラシック」(写真=ルノー)
初代「ルノー・ランブラー クラシック」(写真=ルノー) 拡大

フランス企画のベルギー製アメリカ車?

米欧プロジェクトといえばダイムラーとクライスラーが結局シナジー効果を上げられなかったことが記憶に新しいが、歴史をひもといてみても、大西洋をまたいだ作業はけっしてけっして簡単ではなかったようだ。
1970年代中盤、フォルクスワーゲンは初代「ゴルフ」を米国ペンシルバニア工場で「ラビット」の名のもと生産したことがあった。ラビットはゴルフに比べてアメリカ人向けに、サスペンションをソフトにするなどのモディファイが施されていたが、逆にドイツ的品質とムードを重視していた「ビートル」以来の顧客からそっぽを向かれてしまった。2011年1月に発表された北米生産型「パサート」にも、そうした過去に学んだ教訓がどこかに生かされているに違いない。

いっぽうここに紹介するのは、そうした大西洋横断プロジェクトにおける、今や忘れられた1台だ。名前を「ルノー・ランブラー クラシック」という。1960年、ルノーは自社製の高級車「フレガート」を生産終了した。その後継モデルとして、提携先のアメリカン・モータース(AMC)の「ランブラー・クラシック」を1962年からベルギー工場でノックダウン生産したものである。
ルノーによると、内外ともに大幅にアップグレードしたものの、良好なセールスには結びつかなかったという。結局1967年に生産に見切りをつけ、よりヨーロッパ人のテイストに合う「ルノーR16TS」にバトンタッチさせた。

参考までにルノーとAMCの苦心はその後も続いた。
ルノーはAMCとの協力で、1970年代中盤に初代「R5」を北米市場に投入したが、フランス的合理精神は米国のユーザーにとってプアーなだけに映ってしまった。やがてAMCが経営不振に陥ったため、1979年にルノーはAMCの筆頭株主となったが、それもさしたる成果は上げられず、結局AMCはクライスラーの手に渡ることになる。

AMCがクライスラー傘下となったあと、ルノー時代の忘れ形見として1988年に登場した「イーグル・プレミア」も大成功とはいえなかった。「ルノーR25」の車台にジウジアーロデザインのボディを組み合わせたそれは、後年の米国車の欧州車風スタイル化に先駆けるものだったが、イーグルのブランドとしての定着に貢献したのは、三菱製OEMモデルのほうが大きかった。

とかく日本では“欧米”とひと口にいうが、かくも昔から大西洋双方のカスタマーを1台のクルマで満足させるのはかなり難しいのがわかる。

2010年のルノー系イベントで筆者が遭遇した2代目「ルノー・ランブラー クラシック」。
2010年のルノー系イベントで筆者が遭遇した2代目「ルノー・ランブラー クラシック」。 拡大
リアには“Rambler Classic”、サイドには“Renault”のバッジが。
リアには“Rambler Classic”、サイドには“Renault”のバッジが。 拡大

「マツダ・ロードペーサー」の思い出

海をまたいだプロジェクトだったのに今や人々に忘れられてしまったクルマは、若干スケールは小さいが日本にもあった。
ボクが好きだった「マツダ・ロードペーサーAP(1975年)」である。
簡単に記すと、当時の東洋工業がオーストラリアのGMホールデンから輸入したボディに、マツダ製エンジン(ロータリー&レシプロ)を搭載したプレステージサルーンである。
詳しくは、こうした知られざる戦後日本車研究の第一人者である田沼哲氏の記事をご覧いただくとして、ボクは個人的な思い出を語らせていただこう。

小学生時代、バイオリンのレッスンに父親が運転するクルマで行った帰りのことだ。いつも多摩湖畔の駐車場で休憩することになっていたのだが、ある日1台の青いクルマが止まっていた。その伸び伸びとしたスタイリングに異国の香りを感じた。それが「マツダ・ロードペーサーAP」だった。

「別冊CG 19○○年の乗用車 国産車編」(二玄社刊)の誌上でしか見たことのなかったボクは、同じくエンスーであった父親とそのクルマに近づいた。そばにいたオーナー夫妻は親切な人で、初対面にもかかわらず美しい車内を見せてくれたうえ、大きなフロントフードを開いてサラサラと回るロータリーユニットの音を聴かせてくれた。

田沼氏の記事をお読みいただければわかるが、ロードペーサーAPは日本市場で成功を見ずに終わる。当時日豪間でプロジェクトに携わった人の無念さがしのばれる。
おおらかなデザインのクルマが受容されず、ゴージャスな親父グルマばかりがもてはやされていた当時の日本クルマ文化に、子供心ながら限界を感じたものだ。
それゆえ、10年のちにオーストラリアに行ったとき、ロードペーサーAPのオリジナルである「ホールデンHJプレミア」がたくさん生き延びていたのを見たときは本当に涙が出た。

こうした二国間プロジェクトで生まれた不遇のクルマに引かれるのは、ボクだけだろうか。同時に、不遇のモデルほどオーナーに優しい人が多いのも、これまた事実である。

おっと、話を戻そう。だから、マルキオンネ氏の計画する大洋をまたいだモデルが、過去の例を覆すヒット作となるのか、それともここに挙げた例のごとく、欧・米どっちつかずの失敗作になるのか、ボクは目が離せないのである。

(文=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA/写真=大矢アキオ、Renault)

これは本文で記した車両より後、1982年頃に発見し撮影した「ロードペーサーAP」。
これは本文で記した車両より後、1982年頃に発見し撮影した「ロードペーサーAP」。 拡大
雨の中110ポケットカメラで慌てて撮影したので、写真の質はご容赦を。
雨の中110ポケットカメラで慌てて撮影したので、写真の質はご容赦を。 拡大
白いシートを写したかったと思われるが、消臭剤・自動車用キムコも懐かしい。
白いシートを写したかったと思われるが、消臭剤・自動車用キムコも懐かしい。 拡大
「RP」のバッジを配したCピラー。後付けの庇(ひさし)が渋い。残念ながらボクは以後の人生で「ロードペーサー」に遭遇していない。
「RP」のバッジを配したCピラー。後付けの庇(ひさし)が渋い。残念ながらボクは以後の人生で「ロードペーサー」に遭遇していない。
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大矢 アキオ

大矢 アキオ

Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。

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