欧州車と日本車との性能差について

2023.08.22 あの多田哲哉のクルマQ&A 多田 哲哉
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クルマの紹介記事では、「欧州車に追いついた」や「欧州車に比べると……」など欧州車をひとくくりに「いいもの」として褒めるような記述がしばしば見られます。21世紀の現代でも、依然として欧州車は世界のトップレベルなのでしょうか? 安全性や燃費、コスパにおいては日本車(トヨタ)がとっくに世界一なのではないかと思うのですが……。ご意見をお聞かせください。

トヨタに関していえば、本当に「欧州車に追いつかなければ」と必死になっていたのは、2000年までだと思います。いまでは若い技術者は欧州コンプレックスを持っていないように感じます。

私は1993年からしばらくドイツに駐在し、まさに「欧州車にキャッチアップせよ」という社命を受けてさまざまなテストに取り組んでいたのですが、そのころはまだ明確な差がありました。例えば、アウトバーン走行中の安心感がまったく違いましたし、突然雨が降り出すなど走行条件が悪くなるほど差が開く、という状況でした。

その後、着実にキャッチアップは進みました。メディアなどではまだ「欧州車のほうが……」というトーンが見られるものの、今やそれほどの差はないですね。技術的な違いは、ほとんどないといっていいでしょう。

ただ、細かい点でいうと、欧州の道で開発していたときに比べて、今の日本車にはまだ配慮が足りていないところはあるように思います。

その要因は“道”です。日本における日常生活の道と、欧州の道とでは、その厳しさがまったく違うのです。例えば、速度レンジ、石畳を含む路面バリエーションの多さ、非常に変わりやすい天気など……。そういうなかで暮らしつつ日々クルマを開発しているのと、日本で机上の開発をしている差、といったらいいでしょうか。現地でのテストはコストがかさむのでコンピューターのシミュレーションを駆使するようにはなったものの、そうした日本車と、人間の感覚で厳しくテストしている欧州のライバルとで、若干の差が出てしまうところはあるわけです。逆に、それくらいの差ともいえますが。

一方、これまで日本メーカーが格下と見ていた中国・韓国のメーカーが急速に追い上げてきています。これからは欧州車よりもむしろ、彼らを意識しないと……。特に、EVの分野ではそう思います。従来のクルマに対して、走りうんぬんよりも車内でいかに楽しく過ごせるかというエンタメの充実度が重視されてもいる。その点、日本車は後手に回っているように感じています。

多田 哲哉

多田 哲哉

1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。