ステアリングホイールの仕様は、何を根拠に決めている?

2025.11.25 あの多田哲哉のクルマQ&A 多田 哲哉
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クラシックカーやヒストリックカーなど古いクルマに比べると、今のクルマのステアリングホイールはずいぶん小さくなっています。また、メーカー・ブランド間でもつくりがかなり違うようです。ステアリングホイールの仕様は、何を元に決まるのでしょうか?

昔に比べてステアリングホイールが小さくなったのは、純粋にパワーステアリングが進化したからだといえるでしょう。かつて油圧のパワステが登場したときは、操作が軽くなったのは確かなものの、まだ路面からのキックバックなどのコントロールがうまくできず、外径は今に比べて大きめでした。

ステアリングホイールはその特性上、直径が長いほうが、“てこの原理”により少ない入力で操作できるようになります。それに、径が小さいと、路面からのキックバックを抑えるのも大変になるのです。

ところが、電動のパワステがどんどん進化してくると、操舵のコントロールもキックバックの制御も自由にこなせるようになる。径は問題ではなく、大きくても小さくてもかわまないという話になります。

大きさだけでなく、ステアリングホイールの形自体も、もはや円形である必要はありません。慣れない形状にすると誤操作につながる危険性があるので急変はしませんが、例えば、ゲームのコントローラーのような形でも問題ない時代になっているというのが、話の大前提です。

そのうえで、どうやってステアリングホイールの形が決まるかというと、「直径」と「太さ」という2つの要素の組み合わせで出来上がっています。で、これがベストという正解はなくて、メーカーのポリシー/好き嫌いで決まっているのが実情です。

過去、トヨタがBMWとの協業でクルマを開発したとき、最も話が合わなかったのが、まさに「ステアリングホイールの直径と太さをどうするか」という点でした。あまりにも双方の考え方が違うので、早い段階で「お互い好きなように開発しよう」と物別れになったほどです。ご存じの方も多いと思いますが、BMWのステアリングホイールはかなり太く、トヨタ側では受け入れがたかったのです。

メーターパネルの視認性とステアリングホイールの形状との関係もしばしば話題にはなりますが、メーターをリムの内側に見るのであれば径は大きいほうが見やすく、リム越しに見る場合は径は小さいほど有利になるわけで、どちらがいいとは一概にはいえません。

そしてステアリングホイールには、操舵のほかにも、シートのようにドライバーの体をホールドさせる一要素になるという重要な役割があって、これもまた、ステアリングホイールの仕様を決める重要な根拠になります。クルマの乗り味もステアリングホイール次第というところがある。そういう意味では、その仕様は複雑な要素の絡み合いで決められているのです。

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多田 哲哉

多田 哲哉

1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。