電動車の台頭でタイヤが変わる? EV用のタイヤは従来品とどこが違うのか
2024.01.18 デイリーコラム電動車向けに開発されたタイヤが登場
バッテリーに蓄えられた電力のみをエネルギー源とするピュアEVを頂点に、ある程度のEV走行を可能としたストロングハイブリッド、回収した運動エネルギーで燃費向上を図ろうとするマイルドハイブリッド、そして外部充電に対応したプラグインハイブリッド等々とひと口に“電動化モデル”といってもその内容はさまざまだ。
駆動用バッテリーの搭載量やプラグイン機能の有無などに違いはあってもこれまでのクルマよりも重く、また駆動力を発生させるのがエンジンだけではなくて電気モーターも併用……と、そんな特徴を持つモデルの増加が今後も続くのは確実である。そうした電動化の動きは、この先さらに加速されるだろう。
一方で、車両が電動化の時代を迎えても変わりようがないのが、「クルマと路面との接点はタイヤ」という事実である。しかし、前述した電動化の動きを踏まえてそのタイヤにも変化の兆しが表れている。
例えばブリヂストンでは「エコピアEV-01」、ミシュランでは「eプライマシー」や「パイロットスポーツEV」、横浜ゴムでは「アドバン スポーツEV」と、その商品名からして明らかに電動車向けに開発されたことを連想させるアイテムが続々と登場している。
果たしてそれらはどのような特徴を持ち、従前のタイヤとはどのようなところが異なっているのだろうか?
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電動車の特徴にフォーカス
電動車に例外なく共通する特徴はまず、純エンジン車には必要のなかった駆動用バッテリーが不可欠であるために重量がかさむこと。これは走行のためのエネルギー源すべてを駆動用バッテリーに頼るピュアEVに顕著。特に航続距離の短さを大容量バッテリーの搭載という“力業”で解決しようとした上級・大型モデルになるほどに明確である。具体的には車両重量が2.5t超にも達し、同等の性能を備えたエンジン車より数百kgの重量増となる例すら少なくないのが現実だ。すなわちそのぶんだけタイヤの負担が増す理屈になる。
次いで、静粛性が高いという特徴も電動車ならではである。これは、そもそも騒音源となるエンジンを搭載しないピュアEVでは当然ながら、バッテリー充電量に余裕がある間は完全なEV走行を行うプラグインハイブリッドモデルや、発進時や微低速走行シーンを中心にエンジン出力に頼らない走行を可能とするストロングハイブリッドモデルでも同様の傾向。こちらは前出の重量増とは異なり、一般に電動化されたモデルでの大きなメリットとして取り上げられるポイントだ。
さらに、回転数がある程度高まらないとトルクの最大値を発生しないエンジンに対し、スタートの瞬間から最大のトルクを発生させられるという電気モーターの特性も注目される。
もちろん、エンジンと同様に絶対値の大小などはあるものの、総じて「じわじわとトルクが盛り上がるエンジンに対し、いきなり大トルクが現れるモーター」と言い換えてもいいだろう。
こうして、異なる特性を持つのが従前のエンジン車と最新の電動車。そこで、これら新しい特徴にフォーカスした開発プロセスを経て生み出されてきたものが「電動化対応タイヤ」と呼ばれるアイテムということになる。
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“EV専用”はエンジン車にもメリットがある
クルマの重量を支える、駆動/制動力や曲がろうとする力を伝える、路面から受けた衝撃をやわらげる……と、パッと思いつくだけでも多彩な仕事をこなしているのがタイヤというパーツだ。そうしたなかでも電動化によって要求される仕事の質や量が変化した部分に特化し対応を図ったものが、“電動化対応”や“EV専用”として紹介される商品となる。
例えば、大幅な重量増を踏まえた構造の強化や、エンジン音が消滅したことで耳に届きやすくなったノイズの低減などがその具体策。前述したトルクの特性変化を踏まえ、偏摩耗やライフ性能への配慮をうたう製品も見られるようになっている。
もっとも、重量増に伴う“支える能力”の強化を除くと、その他の諸性能の向上は、従前のエンジン車に装着した場合にも歓迎されるはずだ。電動車ユーザー以外にも、静かで快適な長持ちするタイヤに履き替えたいという新たなニーズが生まれてくるのではないだろうか。
車両が黎明(れいめい)期ならばタイヤも黎明期なのが“電動化”という言葉が一般に聞かれるようになってきた、100年に一度の大変革期と称される今という時代である。だからこそ、「電動化対応」や「EV専用」がセリングポイントとされ、購入側も選択の指針として参考にできるのも今この瞬間のタイヤマーケットではないだろうか。
(文=河村康彦/写真=ブリヂストン、横浜ゴム、日本ミシュランタイヤ、花村英典/編集=櫻井健一)
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河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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