ホンダアクセスが手がけた30年前の5代目「プレリュード」に「実効空力」のルーツを見た
2026.02.12 デイリーコラムエアロパーツの進化をひも解く
ホンダアクセスとM-TEC(無限)が主催するイベントがあり、最新のカスタマイズカーに試乗することができた。「ヴェゼルe:HEV RS」でホンダアクセス製アルミホイールの効果を確認し(参照)、カーボンパーツをふんだんに使ったレース仕様の「無限シビック タイプRグループB」でパイロンスラロームを試す(参照)。ホンダ車におけるカスタマイズの最前線を知る得難い機会だった。それは確かなのだが、最も心を引かれたのは最新テクノロジーではない。ピカピカの新車に交じって展示されていた1997年式の5代目「プレリュード」に目がいってしまった。
今も色濃く記憶に焼き付いているプレリュードは、1982年に登場した2代目モデルだろう。“元祖デートカー”と呼ばれたスペシャリティーカーで、モテのための必須アイテムとされていた。走行性能にはさして見るべきものはなかったが、スタイリッシュで華やかな2ドアクーペは若者から熱狂的に支持される。バブルに向かう時代の空気を象徴するクルマだったのだ。
キープコンセプトの3代目は人気を保ったものの、イメージを一新した4代目は世間の話題に上らなくなる。左右駆動力分配システムの「ATTS(Active Torque Transfer System)」を搭載するなどの意欲的な技術を盛り込んだ5代目も不発。プレリュードは2001年で、いったんその歴史に幕を下ろす。時代は実用的なミニバン、そしてSUVに向かい、使い勝手の悪い2ドアクーペに興味を持つユーザーは次第に減少していった。
わざわざ旧モデルを持ち込んだことには理由がある。ホンダアクセスの純正アクセサリーを装着した6代目プレリュードと比較試乗するためだ。30年近い月日が流れるなかで大きな変化があったが、変わらずに保たれている理念もあるはずだ。2台並べて眺めると、外観の違いは歴然としている。新型が官能性を帯びたスタイリッシュなデザインなのに対し、5代目はシンプルで武骨でさえある。
もっと時代の流れを感じるのは内装だ。レッドの合皮とモケットを組み合わせたシートには、今では見かけなくなったリビングっぽさを表現したインテリア感覚が漂い、どこか裏通りのスナックを思わせる。サンルーフ装着車なのだが、全開にしても10cmちょっとしか開かなかった。センターコンソールに堂々と大きな灰皿が鎮座しているのも懐かしい。かつてはこんな一等地がタバコのために提供されていたのだ。Gathers(ギャザズ)のカーステレオは蛍光表示管のグラフィックがピカピカ光るタイプ。スペアナという言葉を久しぶりに目にした。
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「実効空力」の誕生
いささか古さを感じるものの、1997年式の2ドアクーペは、乗ってみれば普通に運転できた。2.2リッター直4 DOHCエンジンは低回転域から太いトルクを生み出し、さほど重くないクラッチを踏んで発進するのにナーバスにならずに済んだ。高速道路に入って交通の流れに乗る加速力に不満はない。乗り心地がいいとまではいえなくても、段差を乗り越える際のショックは十分に丸められている。勇壮なエンジン音が聞こえてくるのは、うるさいというよりは適度なスパイスと思える。デートカー要素はあまり感じられないが、運転を楽しむにはいいクルマだ。
さすがにホンダアクセスの社内にも残っていなかったので、試乗会のためにわざわざホンダ系の中古車店で購入したそうだ。価格は約200万円だったというから、年式の割には高価格である。ファンが多いのだろう。外装はかなりヤレていたのでペイントをやり直し、エンブレムやバッジは新たにつくらなければならなかった。ただ、機関面に大きな問題がなかったというのは品質の高さの証明だ。
この5代目プレリュードは、ホンダアクセスにとって歴史的転換点となったモデルだ。1995年に車両法の規制緩和があり、チューニングやカスタマイズの自由度が増した。マフラー交換や車高調整、オーバーフェンダー装着などが可能になったのだ。その直後に発売された5代目プレリュードに、ホンダアクセスはさまざまな純正アクセサリーを用意する。ローダウンサスペンションやインチアップアルミホイールを、初めて製品として提供した。
フルエアロパーツの設定が行われたのも初めてだった。5代目プレリュードは、エアロダイナミクス開発史の原点と位置づけられている。試乗車にはハイウイングタイプのトランクスポイラーとフロント、サイド、リアのロアスカートが装着されていた。トランクスポイラーは発売当時のキット価格が4万9440円で、試乗車両のアイテムを合計しても16万4800円。消費税がまだ3%だったこともあり、かなりお買い得な印象だ。
ホンダアクセスが掲げるコンセプトが「実効空力」だ。具体的には、リフトバランスを整えることを意味する。空力というと、ハイスピードで効果を発揮すると思われがちだ。しかし、ホンダアクセスが「モデューロ」ブランドで提供する純正用品は、一般ユーザーにメリットがなければ意味がない。日常走行で効果を実感できるパーツを開発することを目指してきた。
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追い求めた空力性能の歴史的証人
実効空力を実現するためには、4つのタイヤに均等な力がかかるようにすることが求められる。タイヤとサスペンションの能力を最大限に引き出すことが重要だ。どんな路面環境でも直進性を保てれば、運転しやすく操って楽しいクルマになる。外乱に強くなるから風雨が強い中でも不安にならず、安全性の向上にもつながる。デザインスケッチをそのまま製品にするのではなく、テストコースでデザイナーやクレイモデラーとともに現場で修正したり削ったりするそうだ。
その考え方の起点となったのが、5代目プレリュードだった。カタログには空力パーツの効果について説明があり、意気込みと志があったことがわかる。ただ、当時はテスト環境が未成熟で、技術の熟成も進んでいない。実際にはユーザーが実感できるレベルには達していなかった。テストドライバーがようやく気づけるほどの差しか生み出せず、エアロのあるなしで走りが劇的に違うことはなかったという。
実効空力という言葉を使い始めたのは、2008年のシビック タイプRから。もともとは開発陣のキーワードで、一般ユーザーには浸透していない。対外的にこの言葉を使うようになったのは2020年頃からで、コンプリートカーの「モデューロX」にも取り入れている。もう少しオシャレな名前にすればいいのにと思ったのだが、飾り気のない四文字熟語のような異物感が逆に目立つのだという。特に、外国人のウケがいい。
実効空力のルーツは5代目だが、実は2代目プレリュードもホンダの空力の歴史に刻まれている。オプションでトランクの後端に付ける小さなスポイラーがあったことを覚えているだろうか。どうみても効果がありそうには見えなかったのだが、やはりただのドレスアップアイテムだったらしい。カッコつけ用のパーツではあっても、空力付加物としてはホンダ初だった。3代目は多少の効果を意識するようになり、地道に研究を重ねて今に至っている。
新型プレリュードに装着されたホンダアクセスの「テールゲートスポイラー(ウイングタイプ)」は、5代目の巨大なウイングに比べるとつつましやかだ。見た目に反してこちらのほうが高い効果を持っているというのだから、いかに技術が進歩したかがわかる。プレリュードを単なるカッコ優先のオシャレグルマと侮ってはいけない。ホンダとホンダアクセスが追い求めた空力の歴史を担う重要な証人でもあったのだ。
(文=鈴木真人/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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