新型車の名は「12気筒」!? フェラーリV12エンジンの77年を振り返って思うこと
2024.05.06 デイリーコラムそれは終戦直後に始まった
「12 Cilindri」。これ、フェラーリのニューモデルの名前です。日本ではどういう発音で読ませるのかは未定のようですが、イタリア語読みでは「ドーディチ チリンドリ」になります。
チリンドリの意は、文字列からある程度想像つくとおり「シリンダー」です。つまりその名は日本語でいうところの「12気筒」。そう、ニューモデルは「812スーパーファスト」の実質後継と位置づけられる、FRかつ2シーターのフラッグシップストラダーレということになります。それにしても“フェラーリ12気筒”って呼び名、なんというか、圧がすごいですよね。われこそが12気筒の名代であるとでも言いたげな、この名の裏には彼らのそんな自信を感じます。
第2次大戦後に自動車メーカーとしての看板を掲げたフェラーリが、最初に生み出した「125S」(1947年)。これに搭載されたティーポ125からフェラーリの12気筒の歴史は始まっています。その設計者の名を借りてコロンボエンジンと称される60度のV12は、当初の1.5リッターから5リッターにまで排気量を拡大しながら、1980年代後半に至るまでの40年以上にわたって、そうそうたるFRフェラーリのラインナップを紡いできました。いや、厳密にはミドシップの「250LM」もありましたが。
一方、1970年代に入るとフォーミュラやレーシングカーからのトレンドとして、市販車にもミドシップブームが訪れます。フェラーリはそれに合わせて180度V12を投入。「365GT4/BB」から「F512M」まで、フェラーリのフラッグシップはしばしミドシップ車へと移行するわけです。
「FRで12気筒」が伝統の核心
それでもフェラーリはFRの12気筒を諦めたわけではありませんでした。その傍らでは着々とコロンボエンジンの後継たるユニットの開発にいそしんでいたわけです。65度というバンク角を持つまったく新しいV12が登場したのは1992年のこと。コロンボエンジンを搭載する最後の車両となった「412i」のコンセプトを引き継ぐ「456GT」の長いボンネットにおさまったF116型でした。
その後、F512Mと交代するかたちでフラッグシップ2シーターとなったさらに456GTのコンセプトを受け継ぐ「612スカリエッティ」と、F116型をリファインしたF133型が搭載されるわけですが、これらのモデルたちの変遷をみても、フェラーリにとってFR+12気筒というパッケージが伝統の核心としていかに大事にされているかということがわかります。
だからといってミドシップ+12気筒がお払い箱になったわけでもありません。むしろその組み合わせはスペチアーレ(スペシャルモデル)だけのお楽しみへと神格化されるわけです。
「フェラーリの辞書に、失敗とか撤収とか、そういうのないから!」とでも言わんばかりに、1995年、「F40」の後継的位置づけとして登場したのが「F50」です。が、こちらが搭載したのはF1直系の4.7リッターV12。エンジンそのものをストレスメンバーとしカーボンモノコックにリジッドマウントするという相当キレた内容で、乗り味もF40以上にロードゴーイングレーサーなスパルタンさが身上でした。個人的には今でも近代フェラーリにおいて最上のスペチアーレはF50かなと思うところもありますが、さすがに乗り手を選ぶ感ではF40と双璧といえるかもしれません。
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世情がどうあれ揺るがぬポリシー
そこに21世紀のスペチアーレの皮切りとして登場したのが「エンツォ」(2002年)です。搭載するエンジンは、ミドシップのためにサイズも突き詰められた新設計の65度V12となるF140型。スピードを上げるほどに車体が安定する、当時の感覚ではドン引きするほどの空力特性を持つエンツォの礎となったのが、コンパクトかつ天地高も抑えられたこのエンジンにあったことは言うまでもありません。
そしてこのF140型は今に至るまで、すべての12気筒ストラダーレ&スペチアーレに搭載されています。「ラ・フェラーリ」(2013年)も「プロサングエ」(2022年)も、もちろんチューニングうんぬんは異なれど積むのは同じF140型。個人的にはこれ、21世紀で最上の内燃機ではないかと思っています。
と、お待たせしました、ここでやっと12チリンドリの話。搭載するエンジンはF140型、電動補助は一切なしの純然たる内燃機という構成です。聞けばこの方針は2020年に確定したといいますから、世はコロナ真っ盛り&クルマは電動化の圧が半端ない状況だったはずです。そこで既に言い訳なしで生の12気筒をぶん回すことに腹をくくっていたという、その話がクルマ好きにはうれしく聞こえます。
やっぱり12気筒って、フェラーリにとっては特別なものなのだなぁと、あらためていろいろ考えさせられます。12チリンドリはシャシーもディメンションから変わっていますから、走りのフィーリングも812スーパーファストよりピュアネスを高めていることは想像できるところです。電動化うんぬんが社会的責務のようになりつつある今でも、真逆に位置する12気筒はクルマ好きのロマンの塊であり、その気持ちに応えるべくランボルギーニやアストンマーティンなどエキゾチックなメーカーが存続への意思を示しています。その熱量の源泉は誕生以来、12気筒を存在的にも性能的にも別物に押し上げてきたフェラーリの執念によるところが大きいでしょう。そう鑑みると、「俺の12気筒」みたいな車名も、まぁくんどくか、という気にならなくもありません。
(文=渡辺敏史/写真=フェラーリ、webCG/編集=関 顕也)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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