フェラーリ12チリンドリ スパイダー(FR/8AT)【海外試乗記】
やっぱり素晴らしい 2025.02.25 試乗記 フェラーリの新たなフラッグシップモデル「12(ドーディチ)チリンドリ」には、オープントップの「スパイダー」も用意される。フェラーリ自ら「ひと握りの人のためにつくった」という、その走りは? クーペとの違いも含め報告する。これこそが“核心”
12チリンドリはブランドのステートメントカーである。ロードカーラインナップの要であるばかりか、ブランドのあり方を最もよく体現するモデルとして仕立て上げた、という意味だ。F1マシンと双璧をなす存在である。
2024年春にマイアミにて公式デビュー。秋にはベルリネッタ(クーぺ)の国際試乗会がルクセンブルクで催された。明けて今年、日本はまだ厳寒という2月に今度はスパイダーのテストドライブをポルトガルで開催するという。この時期の北イタリアはスパイダー向きの季節とはいえず、そのうえウインタータイヤ規制がかかっている。それゆえ風光明媚(めいび)で暖かいポルトガルが選ばれたわけだが、それにしてもこれほど“グローバル”にローンチイベントを展開した跳ね馬もまた、ほかにない。グローバルスポーツカー界のセンターをも狙っているということか。
それはさておき、マラネッロ産ロードカーの核心に12チリンドリがあるという彼らの主張には100%の賛同しかない。何といってもエンツォ・フェラーリは会社設立の1年前、1946年にはすでに新たなV12エンジン(ジョアッキーノ・コロンボ作)の開発に成功しており、翌年の本格始動からしばらくはV12+FRのレーシングカーとロードカーのみをつくり続けてきたのだから。“フェラーリ”という馬の心臓には12個のシリンダーがある。だからこそアメリカで支持され、後に世界的なブランドになった。販売の主力をV8に譲って、はや半世紀。それでもV12は跳ね馬ロードカーの核心なのだ。
12チリンドリ スパイダーには、クーペと同様に、「812コンペティツィオーネ」用のF140HB型に改良を加えたF140HD型V12が完全フロントミドに積まれており、リアに置いた(=トランスアクスル)8段DCTと組み合わされた。Vバンク角65度に排気量6.5リッター、最高出力830PSという数値こそそのまま受け継いだが、最高許容回転数を9250rpmから9500rpmにまで引き上げている。排ガス規制にも対応すべく最大トルクは678N・mと少し落としてきたが、低回転域におけるトルク特性を見直したうえ、「アスピレーテッド・トルク・シェイピング(ATS)」という秘密兵器を採用することで、落としたトルク数値などまるで気にならなかったことはすでにクーペの試乗で確認済みだ。
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知見の生かされたオープントップ
デザインを含むルーフオープン機構や補強(Bピラーとロールバーの間にアルミニウムの連結材を挿入するなど)といった変更点以外に、“スパイダー・マラネッロ”の開発陣が手をつけた部分は、実はシャシーセッティングを含めてさほど多くはなかった。裏を返せばすでにこのプラットフォーム世代となって3モデル目(F12→812→12チリンドリ)であり、クーペとスパイダーのセットも812で経験していたから、2021年に始まった開発においてその当初から反映できた知見も大いにあった、というべきだろう。
ちなみに重量増を抑えることはスパイダー化にあたっての(というかいつもそうだが)最重要課題で、クーペからは+60kg、先代にあたる「812GTS」からは+35kgという数値におさまっている。
海岸線にほど近いリゾートホテルを起点に試乗会は開催された。かの有名なロカ岬もほど近い。用意されたテストカーはすべて同じコンフィグレーションで、「ヴェルデ・トスカーナ」という落ち着いたグリーンに「テッラ・アンティカ」というしっとりとしたブラウンのレザーインテリアという取り合わせ。しゃれている。そういえば最近のマラネッロ産ロードカー試乗会で「ロッソコルサ」にペイントされた個体を見る機会はない。だから今や、街でロッソコルサを見ると、かえって新鮮に思えたりする。
テストの日は幸運にも朝から快晴で、やや肌寒かったとはいえ、オープンエアモータリングを楽しむには絶好の日和だった。V12エンジンに火を入れ、ためらうことなくルーフを開ける。
お楽しみはクーペ以上
雲ひとつない青空を仰ぎ見るまでおよそ14秒。ちなみに走行中でも45km/h以下であれば開閉可能だ。クーペではどこか離れたところでおとなしくうなっているように聞こえたV12エンジンノートも、ルーフを開けることでいくらかはっきりと耳に届く。かすかな空気の震えが12気筒サウンドの輪郭となってドライバーに直接、空を通じて、届くからだろう。
もっとも、エンジンサウンド好きには屋根を閉めたままでもオススメの乗り方がある。いわゆるカリフォルニアモードだ。クーペ状態のままリアの垂直ガラスのみを下ろしてドライブする方法で、本来は爽やかなカリフォルニアの風を感じるための装備だが、風を感じるということはエキゾーストサウンドだけをダイレクトに聞くこともできるということ。
今回のテストでは、風が冷たかったこともあって、この乗り方が最も気に入った。もし自分で買うのであればオープンにする機会はめったになくとも、カリフォルニアモードにできるスパイダーを選ぶだろう。クーペのユニークなリアスタイルも捨てがたいけれど。
オープンにしても車体剛性にまるで変化はない。ポルトガルの舗装は少々荒れ気味だったけれど、それでも強いボディーに支えられたアシは自分の仕事をしっかりとやり遂げて、無粋な揺れやきしみなどでドライバーを不安にさせることがなかった。
乗り心地はクーペと同等もしくは少し良い感じにも思えたが、よくある「オープンだから肩の力が抜けて良い」と思う類いではなく、あくまでも足元がしなやかに動くがゆえの“良い”だった。心地よさの一端は、素直によく動く前輪と力感あふれる後輪のおかげで、低回転域からクルマとの一体感を存分に味わえることにも起因するだろう。
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死角のないスーパーカー
空から降り注ぐ心地よいV12サウンドを浴びながら、冬のコーストラインをクルーズする。そういえば前夜は風が強かった。路面にはところどころに大量の砂が積もっており、通り過ぎるたびに車体が滑ってしまうのだが、腰の揺れをドライバーがすぐに感じ、反応してステアリングを修正、それを車体側が上手に補助して姿勢を正すという、見事なシャシーとパワートレインの制御を図らずも低速域で体感する。もちろんFRらしく思う存分に後輪を滑らせても楽しいマシンであることは、クーペをテストコースで試した時に経験済みだ。
カリフォルニアモードでワインディングロードを駆け抜けた。相変わらずレースモードでは後輪の動きに多少の違和感(自分のスロットルオフとクルマ側による後輪の修正が同時に起こって戸惑うという場面)もあったが、慣れるとそれを武器に(というかクルマを信じて)タイトベントでも見事に、驚くほど速く駆け抜けることができた。
V12と8段DCTによる加速フィールは相変わらず素晴らしい。エンジンも9000rpm以上まで一気に駆け上がってなお苦しまず、振動もなく回る。そのスムーズさには驚嘆するほかない。あまりに滑らかすぎて、V12エンジンらしくない=まるで電気モーターのようだ、と思ってしまった。
制動フィールも素晴らしい。よく利くのみならず、コントロールすることが快感になる。制動が楽しくなれば、加速はもっと楽しい。ブランドの核心としてスポーツカーのど真ん中を狙うモデルに死角はないというわけだ。
(文=西川 淳/写真=フェラーリ/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
フェラーリ12チリンドリ スパイダー
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4733×2176×1292mm
ホイールベース:2700mm
車重:1620kg(乾燥重量)
駆動方式:FR
エンジン:6.5リッターV12 DOHC 48バルブ
トランスミッション:8段AT
最高出力:830PS(610kW)/9250rpm
最大トルク:678N・m(69.1kgf・m)/7250rpm
タイヤ:(前)275/35ZR21/(後)315/35ZR21(ミシュラン・パイロットスポーツS 5)
燃費:--リッター/100km
価格:6241万円(日本国内価格)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
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