日産フーガハイブリッド(FR/7AT)【試乗記】
最もEVなハイブリッドカー 2010.11.25 試乗記 日産フーガハイブリッド(FR/7AT)……641万5500円
誕生から1年を経た2代目「フーガ」に、ハイブリッドバージョンが登場。日産が満を持して送り出す新型高級セダンは、どんな走りを見せるのか?
タコメーターがパッタリ。
「フーガハイブリッド」に乗っていていちばん驚いたのは、インストゥルメントパネルの中だった。走行中、突然、タコメーターの針が“死ぬ”のである。初めて目撃したときは、一瞬、「あっ、故障か!?」と思った。もちろんそんなことはなく、エンジンがきれて、EV走行に入ったしるしである。
「トヨタ・プリウス」に代表されるトヨタブランドのハイブリッドもEV走行をするが、タコメーターの備えはない。IMAシステムの「ホンダ・ハイブリッド」にはタコメーターがあるが、動き出せばエンジンは回りっぱなしで、モーターのみのEV走行をしない。タコメーター付きのハイブリッドカーで、走行中にエンジンが止まるクルマを今まで経験したことがなかったから、目の前のビジュアルにびっくりしたのである。
でも、そのことに象徴されるように、フーガはなかなか新鮮な感動を与えてくれる新種ハイブリッドだった。
技術の日産、初の試み
21世紀初の日産製ハイブリッドが、この新型「フーガハイブリッド」である。ハイブリッドではトヨタにすっかり後塵を拝している日産も、1999年、プリウスに対抗して「ティーノハイブリッド」を出している。当時からリチウムイオン電池を使うなど、進んだところもあったが、いかんせん限定100台という、ほとんどアリバイ的なモデルだった。
ところが、今度のフーガハイブリッドは違う。「577万5000円より」の価格は、ガチンコライバルの「トヨタ・クラウンハイブリッド」を意識したものだ。北米では「インフィニティMハイブリッド」として量販をもくろむ。事実上、日産のつくる本格的ハイブリッド第1号と言っていい。
そのシステムは「1モーター2クラッチ」と呼ばれる。3.5リッターV6+電動モーター+7段ATが基本的なパワーユニットで、配置的にいうとモーターの前とATの後ろにクラッチを入れたのが特徴。これにより、電動アシストだけでなく、エンジンを止めてモーターのみでも走ることができ、もちろんモーターは発電機としても働く。
「ポルシェ・カイエン」のハイブリッドシステムに近いが、フーガハイブリッドはトルクコンバーターを持たない。その分、高効率(好燃費)が狙えるが、トルク伝達のショックなどでは不利になりそうだ。
違和感なき高級感
横浜みなとみらいの日産本社で開かれた試乗会は、持ち時間3時間。地下駐車場でクルマに乗り込み、早速、スタートボタンを押す。エンジンはかからなかった。
EV走行で粛々と動き出し、出口の激坂スロープを上り始めたところでエンジンが始動した。その後、すぐに首都高に乗り、東京湾アクアラインを通って、木更津へ着くまでの約30km、EV走行には一度も入らなかったと記憶している。カメラカーを追って加速し続けることが多かったからだ。
3.5リッターV6は306ps。横浜工場で内製されるモーターは50kW(68ps)。ふたつの動力源が協調するパワーユニットはすばらしい出来である。高級車らしく静粛だが、エンジンで走っているときは、エンジンの気持ちよさとダイレクト感がちゃんと味わえる。「特殊なもの」という感じはぜんぜんしない。上質でスポーティな、ひとことで言えば“いいエンジン”である。
帰り道、海ほたるでカメラカーと分かれ、じっくりマイペースで走るようになると、「フーガハイブリッド」は高級EVセダンとしての側面を披露してくれた。
リチウムイオン電池の充電量が十分にあると、140km/hまでEV走行がきくという。この日はたしかに110km/hでもモーターだけで走ることを確認した。EV走行になると、前述のとおり、タコメーターが0回転になり、代わりに小さな緑色の「EVランプ」がともる。バッテリーの残量計が半分をきると、エンジンが自動で再始動する。
アクセルを踏み込めば、もちろんいつでもエンジンがかかる。エンジンのオンオフはきわめて自然に行われ、違和感はない。モーターだけで走り始めた直後、エンジンがかかったときにはわずかなショックがあるが、気になるほどではない。
ブレーキだけがイケてない
液晶モニターには、EV走行の累積距離が表示される。オドメーター、トリップメーター両方に対応している。返却前にチェックすると、われわれの試乗車は123.3kmを走り、うち30.5kmがEV走行だった。オドメーターは1861kmのトータル距離に対して379km。路上を走り出してから5分の1を純粋EVとして走ってきたわけである。
数あるハイブリッドのなかでも、最も「EVなクルマ」といえる。それでいながらエンジンもイケるのがフーガハイブリッドの魅力だと思う。今まで経験したハイブリッドのなかで、いちばん楽しかった。
ただし、弱点もある。ブレーキだ。停止直前の制動力がもっと欲しい。強く踏むとレバーがしなるようなスポンジーな踏み応えもいただけない。「メルセデス・ベンツSクラスハイブリッド」も同じ欠点を抱えている。
ブレーキ・バイ・ワイヤのチューニングがむずかしいことに加えて、回生ブレーキとのバトンタッチも難題だ。ハイブリッドのブレーキ設計はタイヘンなのである。これでも改良してここまでよくなったのだとエンジニアが正直に教えてくれた。とはいえ、さらに改良を望みたい点だ。
満タン法の燃費は測れなかったが、車載コンピュータによると、今回、123km区間を平均52km/hで走行した結果は、13.0km/リッターだった。「3.7リッターガソリンのフーガと同等の加速にして、2.5リッタークラスの燃費」といううたい文句は、掛け値なさそうである。
(文=下野康史/写真=高橋信宏)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。