日産フーガ250GT(FR/7AT)【試乗記】
隠された本質 2010.03.11 試乗記 日産フーガ250GT(FR/7AT)……523万9500円
2009年11月に初のフルモデルチェンジを受けた「日産フーガ」。一見、“デザイン重視”で登場したかのように見える2代目だが、実際のところはどうなのか? 売れ筋の2.5リッターモデルを試した。
デザインの妙
いかにも室内スペースを優先したビッグキャビンが印象的だった先代に対して、新型フーガは、今どきめずらしいほど古典的なスモールキャビン&ロングノーズスタイルに見える。しかし、その基本骨格は先代のFMプラットフォームの改良型といってよく、ホイールベースも各ヒップポイントも変わっていない……というのは驚きだ。もともと広大な室内空間で定評のあったパッケージを維持しつつ、これだけ“魅せる”スタイリングを実現したデザイン力はちょっとしたものである。
新型フーガで最高価格かつ最速なのは「370GT タイプS」だ。日産版バルブトロニック(VVEL)の最強3.7リッターV6が豪快に吠えまくり、日産自慢のアクティブ4WSでグイングイン曲がり、可変ダンピング式ダンパーなしでも大径20インチホイールをそこそこ履きこなす370GT タイプSは、なるほどインフィニティらしさを純粋培養したような高級セダンである。しかし、今回の主役はフーガ全体の半分以上を占める2.5リッターだ。
ちなみに新型フーガ(海外名:インフィニティM)では3.7リッターをほぼ世界共通で用意するものの、もうひとつの選択肢は市場によって異なる。日本では前記のとおり2.5リッターV6が用意されるが、たとえば北米では5.6リッターV8が、欧州ではディーゼルが用意されることになっており、さらに今年夏以降、V6ベースのハイブリッドが順次追加される。
370GT タイプS以外のフーガは、全車が18インチホイールとなって、アクティブ4WSもつかない。とくにこの250GTは当然ながら新型フーガでは最も穏やかな仕立てのはずだが、それでもその走りは意外なほど鋭く豪快系といっていい。
非トヨタ的な味わい
宿敵「クラウン」でいえば「ロイヤルサルーン」どころか、「アスリート」にも増して、良くも悪くも粗削りな手ごたえを伝えてくる。高速走行時の上下動は小さいが、クラウンのように路面上を滑るのではなく、巨人の手で上からグッと押さえつけたようなスポーティなフラット感だ。路面からの突き上げを意識させられるかわりに、ステアリングレスポンスは鋭い。車内に聞こえてくる2.5リッターエンジンの透過音も、笑ってしまうほどエコーがかかる3.7リッターほど演出くさくはないものの、クラウンのそれよりも確実に耳につく。
ただし、この乗り心地や静粛性をつかまえて、だから新型フーガはクラウンより高級感に欠ける……と断じるのはちょっとアンフェアかもしれない。なぜなら、これこそインフィニティに共通する確信犯的な仕立てだからだ。
先代に続いてフーガの商品企画トップをつとめた大澤辰夫氏は「フロントタイヤとフロントドア前端の距離が長いほど、クルマはカッコいい」と公言してはばからないような人である。キャビンを大きくとったモダンパッケージのフーガは、実際には極端なロングノーズでもないのだが、巧妙にノーズを長く“見せる”造形になっているのも、ベーシックグレードにまで浸透する“非トヨタ的”な味わいも、同じく大澤氏が手がけた現行「V36系スカイラインシリーズ」にも共通する美意識である。
フーガは日本でこそクラウンとならぶ国産高級セダンの二大巨頭だが、海外でのインフィニティは好き嫌いの分かれるスタイリングと、スポーツ性に特化した走行性能をあえて売りにしている。「レクサス」や「メルセデス・ベンツ」はいうに及ばず、「BMW」と比較しても飛びぬけてシャープでガキガキ曲がるのがインフィニティの特徴。「血気盛んで若い(志向の)お金持ち」に徹底して絞り込んだユーザー層を想定しているのだ。
意思をもつアクセルペダル
フーガといえばダイヤルひとつで「スノー、エコ、スタンダード、スポーツ」という4段階に、すべての電子制御を統合切り替えする“ドライブモードセレクター”も自慢の新機軸だ。この「250GT」の場合はアクティブ4WSのようなシャシー制御が備わらないので、基本的にパワートレインのモード切り替えと考えればいい。
この種の統合制御システムは高級車ではもはや常識になりつつある装備だが、個人的には「で、どれが本当の姿なのか?」という疑問はぬぐえないし、実際のところ、どれを選んでも結局は「帯に短し……」におちいっているケースも少なくない。ただし、現在のようにCO2削減圧力が高まるほど、この種の切り替え機構は、規制や基準をクリアするための“逃げ道”として必須アイテムとならざるを得ない。
フーガのドライブモードセレクターで“エコ”を選ぶと、フーガ自慢の“エコペダル”が作動する。非エコな運転操作をペダルの押し返す力によって、クルマ側から積極的に抑制する新技術だ。もちろん反力を無視して右足を踏み込めばそれに応じて加速してくれるのだが、その押し返す力は「女性だとこれにあらがうのは大変かも」と思えるほどに強い。スロットルペダルに足を置いてクルマの言うがままに走っていると、まるで雪道走行のようなジワーーーーッと、岩から水がしみだすように緩やかな加減速にしかならない。
それは、速度変化が激しい平日の都市高速では使いにくいくらいの“強制エコモード”である。なるほど燃費はよさそうで、こうして右足がおとなしくなると、ステアリング操作も自然とジェントルになる。しかし、フーガの本質は意味もなくスロットルをガンガン踏んで、レーンチェンジしたくなるクルマなのだ。ゆっくりと走っている新型フーガを見たら、それは「エコモード中」と推測してほぼ間違いない。
(文=佐野弘宗/写真=高橋信宏)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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