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シトロエンe-C3(FWD)/C3(FF/6MT)【海外試乗記】

ずぶとくてあたたかい 2024.06.17 試乗記 南陽 一浩 欧州では今や電気自動車(BEV)の主戦場となりつつあるBセグメント。エアバンプで話題を呼んだ現行世代は今もシトロエンの販売全体の30%を占めているというから、「C3」のフルモデルチェンジは相当に難易度の高い課題だったはずだ。オーストリアで新型のステアリングを握った。
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BセグメントのBEVとして野心的

現行型の「あざとかわいい」デザインが鮮烈だったぶん、画像で見ていたころはハンサム顔かつシリアスになりすぎたように感じていたが、新しいC3のたたずまいはずっとソフトな雰囲気だった。ユーモア/ボールドのパラメーター上で後者に振ってきたことが分かる。シトロエンらしくない。という声も聞かれるが、実車を確かめた今、この踏ん張り感のある姿勢や新モチーフの軽快な効果、バランス感を知ると、これがシトロエンでなければ何が? という気になる。「らしさ」を新しく表現したデザインであることに、いたく納得がいくのだ。

ついでにいえば、CM動画が面白カッコいい。映画『マリー・アントワネット』的なシャトーと貴族の世界に、突如デヴィッド・ボウイの曲にのせてC3が乱入して、「EVはもはやエリート層だけのものではない」というキャッチコピー。まんまフランス革命モチーフの動画というだけでなく、クルマがジャンプしているCMという意味でも久しぶりで、「安心安全」ばかりが売りになるわが国とはえらい違いだ。花火を手に暴徒がC3と並走する映像を、リアルな暴動がかなり頻繁に映るニュース専門チャンネルに出広できる神経にも、「自由の太さ」が違うことを思い知らされる。

4代目に生まれ変わった「シトロエンC3」には、電気自動車版である「ë-C3」が初めてラインナップされた。写真はこちらを中心に紹介する。
4代目に生まれ変わった「シトロエンC3」には、電気自動車版である「ë-C3」が初めてラインナップされた。写真はこちらを中心に紹介する。拡大
新型のボディーサイズは全長×全幅×全高=4015×1755×1577mm。全高が一気に拡大し、SUVのようなスタイリングになった。
新型のボディーサイズは全長×全幅×全高=4015×1755×1577mm。全高が一気に拡大し、SUVのようなスタイリングになった。拡大
複雑な造形のヘッドランプがフロントまわりを印象づける。デザインが刷新された新しいブランドロゴを採用している。
複雑な造形のヘッドランプがフロントまわりを印象づける。デザインが刷新された新しいブランドロゴを採用している。拡大
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フランス的合理主義の権化

シトロエンの「ë-C3」は欧州で昨今競合が激しくなっているBセグのBEVで、ラインナップ内では「ë-C4」に次ぐピュアBEV第2弾にして新ロゴ採用の第1弾となる。新C3の開発で「バリュー・フォー・マネー」は最重要課題だった。いわゆる「コスパ重視」、同じ結果を得るのに安いほど素晴らしいという話とは似て非なるアプローチで、具体的にはメイド・イン・ヨーロッパのBEVとして価格面で優位性を得つつ、使い勝手やデザインなどで乗り手に価値をもたらすこと。英語圏で「チープ・シック」と評されやすいニュアンスだが、当のフランスには「Ne pas en perdre une miette(細大もらさずにやる)」という言い回しがあって、こちらのほうが近い。パンくずのようにありふれたものでさえ、捨てていいものはない。という感覚だ。

だから先代と共通するキー要素として、新しいC3は「シンプル」「快適性」「大胆」を引き継ぎ、「サステイナブル」を加えたものの、「(フレンチ)ポップ」という軸にはブレがない。現行のC3ハッチバックからキャリーオーバーとなるコンポーネンツはブレーキまわりぐらいで、「スマートカープラットフォーム」というBEVネイティブの最新プラットフォームを採用している。4輪からできるだけ均等の位置にリン酸鉄バッテリーを最適配置しながら、マイルドハイブリッドや内燃機関(ICE)などのマルチパワートレインに対応し、総パーツ点数を従来比で30%も減らした。コストコンシャスなこの新プラットフォームを、グループ内でいの一番に用いる。つまりプジョーの「e-2008」「e-208」と「DS 3クロスバックE-TENSE」、そしてë-C4が使うCMPから、さらに一歩進んだプラットフォームとなる。

基本車台にはBEV化を最初から織り込んだ「スマートカープラットフォーム」を採用。グループ内の同級のモデルにはまだ使われておらず、力のこもったモデルチェンジであることが伝わる。
基本車台にはBEV化を最初から織り込んだ「スマートカープラットフォーム」を採用。グループ内の同級のモデルにはまだ使われておらず、力のこもったモデルチェンジであることが伝わる。拡大
インテリアのコンセプトは「C-ZENラウンジ」。ドライバーに近いところにメッシュ状のファブリックをあしらうなどして、コストを抑えつつもそれを感じさせない仕立てが見事だ。
インテリアのコンセプトは「C-ZENラウンジ」。ドライバーに近いところにメッシュ状のファブリックをあしらうなどして、コストを抑えつつもそれを感じさせない仕立てが見事だ。拡大
メーターパネルはこんなスリット状に変化。ステアリングホイールの上に見るという点ではプジョーと同じだが、どちらかといえばひと昔前の日本のファミリーカーのそれに近い。
メーターパネルはこんなスリット状に変化。ステアリングホイールの上に見るという点ではプジョーと同じだが、どちらかといえばひと昔前の日本のファミリーカーのそれに近い。拡大
ドアアームレストにはテップレザーを大胆に張り、「have fun」のタグを付与。上下のハード樹脂の存在を感じさせないところがうまい。
ドアアームレストにはテップレザーを大胆に張り、「have fun」のタグを付与。上下のハード樹脂の存在を感じさせないところがうまい。拡大

ボリュームとスペースのつくり出し方が秀逸

SUV風になって画像では拡大して見えたボディーサイズだが、欧州発表値の全幅1755mm、全長4015mmは先代比+5~20mmで、2540mmのホイールベースは5mm延びたものの、取り回しはほぼ変わらない。実車ではデザインがあまりビジーに見えない理由は、画像では強調されやすい彫刻的に削(そ)がれた凹部が筋肉マッチョ志向ではなく、むしろショルダーラインから前後のグリルやガーニッシュにつながる水平基調のラインを引き立たせるためのものだからだ。またクラスターを組み合わせたような新しいライトシグネチャーも、画像よりずっとスッキリ、ひょうきんに見える。

全高1577mm(ルーフレールを含む。これも欧州発表値)だけが、先代比で8cm以上も高い。さらに今回試乗したBEV版とICE版で大きく異なるのは地上最低高だ。前者が163mmに対して後者が197mmと、容量44kWhのリン酸鉄バッテリーのセルを前後車軸から可能な限り等距離に、なおかつ低く積みつつ、後席の足元スペースを生み出すがためでもある。

「低重心化できたからこそ、ルーフも着座視線も高められ、室内空間を広々させることが可能になった」と、プロダクト企画ディレクターのティエリー・ブランシャール氏は言う。それが今日のシタディーヌ(街乗り重視のコミューター的なBセグカー)として求められる方向性で、BEVだからこそなし得た進化だったというのだ。

セル高が抑えられたバッテリーはフロントシート下の補強をまたいで収まるが、それでも後部座席の足元はわずかにICE版より上がっている。Bセグの後席の使用頻度はCセグよりずっと低いのが欧州の常識で、ヒップポイントと足元のバランスが不愉快でないこと、6:4分割可倒がトランク側からも操作できること、そんな空間の互換性が重要だ。新しいC3のトランク容量は310リッターを確保している。

パワーユニットはフロントアクスルにレイアウトされた最高出力113PS、最大トルク120N・mの駆動用モーター。トルクはBEVとしては異例に控えめだ。
パワーユニットはフロントアクスルにレイアウトされた最高出力113PS、最大トルク120N・mの駆動用モーター。トルクはBEVとしては異例に控えめだ。拡大
中央部にはウレタンを重ねて使うなどした「アドバンストコンフォートシート」を装備。このオシャレなカラーリングは上位グレード「マックス」でしか選べないようだ(下位グレード「ユー」のシートは真っ黒)。
中央部にはウレタンを重ねて使うなどした「アドバンストコンフォートシート」を装備。このオシャレなカラーリングは上位グレード「マックス」でしか選べないようだ(下位グレード「ユー」のシートは真っ黒)。拡大
後席の広さを求められるセグメントではないが、BEV化によってフロアが少し高くなっており、前席のシート下には段差がある。
後席の広さを求められるセグメントではないが、BEV化によってフロアが少し高くなっており、前席のシート下には段差がある。拡大
メーターの位置が変わったためか、ステアリングホイールは上下を押しつぶしたプジョーのような形状に。中央部にピアノブラックを使っているためホーンボタンが浮いて見える。
メーターの位置が変わったためか、ステアリングホイールは上下を押しつぶしたプジョーのような形状に。中央部にピアノブラックを使っているためホーンボタンが浮いて見える。拡大

クラスを超えた乗り心地

「C-ZENラウンジ」を名乗るインテリアで、いわば優先権があるのは前席だ。ダッシュボードの体に一番近いあたりにファブリックが張られ、「アドバンストコンフォート」を取り入れたシートもチープさとは遠い。「車両価格を抑えても乗る人にとってvalorisant(価値をもたらせる)であることが重要」と、先のブランシャール氏は語るが、使い勝手さえ足りればいいのではなく、美しく用途を満たそうとする努力が見てとれる。10.25インチのタッチスクリーンやスマートフォンの無線充電機能以外に注意を引くのは、ステアリング上から読み取るメーターパネルだ。プジョーの「iコックピット」とは異なるミニマルさで、くつろいで走る雰囲気をアシストする。

ちなみに街乗り中心を想定し、回生のデフォルトがやや強めのBモードなので、シフトコンソールの手前側に回生を弱める「C(クルーズ)」ボタンが備わっている(つまり普通とは逆)。ストップ&ゴーの少ない道では逆にコースティング重視に切り替えよ、ということだ。アクセルをベタ踏みしてもドライバーがつんのめらない程度にトルクがカットされているのだろう、激烈な加速をするタイプでは全然ない。が、そのぶん、必要十分に力強く、息の長いトルクが得られる。

実際に走らせてみて印象に残るのは、やはりパワートレインより乗り心地だ。並のBEVは平滑な道路ではフラットな乗り心地でも、低速で荒れた道路に差しかかると途端に不快な突き上げや揺さぶりが始まるが、C3はそれがことごとくない。1.4t強の車体にPHC(プログレッシブハイドローリッククッション)ダンパーの効能はあらたかで、突き上げらしい突き上げが荒れた路面でも徐行域でも一切ない。ただ直進時、ステアリング中立付近にやや遊びが多い感触はある。が、いざ操舵からロールに移る局面では、しっとりと制御の効いたロール速度による姿勢変化を感じられる。決してハデに傾きはせず、だからこそ乗り手が落ち着いて操れる。しなやかでライントレース性が高く、アクション量は確かに昔に比べて減ったが、スモールカーなのにやけにずぶとくて、どこか温感のある乗り心地、そんなシトロエンらしさは健在なのだ。

そして試乗した「マックス」トリムのBEVは、欧州で2万7800ユーロ(約472万6000円)。円安の行方を見守るしかないが、本邦導入は2025年初夏に予定されている。

(文=南陽一浩/写真=ステランティス/編集=藤沢 勝)

駆動用バッテリーの容量は44kWh。WLTPモードの一充電走行距離は326km。
駆動用バッテリーの容量は44kWh。WLTPモードの一充電走行距離は326km。拡大
シフトセレクターはグループ内で広く使われるトグルスイッチ式。「ë-C4」ではボタン操作で回生ブレーキが強まる「B」にシフトするが、「ë-C3」では強い回生ブレーキがデフォルトのため、「C(クルーズ)」に切り替えることになる。
シフトセレクターはグループ内で広く使われるトグルスイッチ式。「ë-C4」ではボタン操作で回生ブレーキが強まる「B」にシフトするが、「ë-C3」では強い回生ブレーキがデフォルトのため、「C(クルーズ)」に切り替えることになる。拡大
ダッシュ中央のタッチスクリーンのサイズは10.25インチ。フォントやレイアウトなどはシトロエンとしてはポップさが控えめだ。
ダッシュ中央のタッチスクリーンのサイズは10.25インチ。フォントやレイアウトなどはシトロエンとしてはポップさが控えめだ。拡大
荷室の容量は310リッター。肩の部分のストラップを引けばこちら側からでもシートを倒せる。
荷室の容量は310リッター。肩の部分のストラップを引けばこちら側からでもシートを倒せる。拡大
新しい「シトロエンC3」の日本への導入は2025年初夏の予定。価格については為替の行方を注視したい。
新しい「シトロエンC3」の日本への導入は2025年初夏の予定。価格については為替の行方を注視したい。拡大
シトロエンë-C3
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テスト車のデータ

シトロエンë-C3

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4015×1755×1577mm
ホイールベース:2540mm
車重:1416kg
駆動方式:FWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:113PS(80kW)
最大トルク:120N・m(12.2kgf・m)
タイヤ:(前)205/50R17 93V/(後)205/50R17 93V(グッドイヤー・エフィシエントグリップ パフォーマンス2)
交流電力量消費率:17.1-17.4kWh/km(約WLTPモード)
一充電走行距離:326km(WLTPモード)
価格:--万円/テスト車=--円
オプション装備:

テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh

シトロエンC3
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シトロエンC3

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4015×1755×1577mm
ホイールベース:2540mm
車重:1151kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:100PS(74kW)/5500rpm
最大トルク:205N・m(20.9kgf・m)/1750rpm
タイヤ:(前)(前)205/50R17 93V/(後)205/50R17 93V(グッドイヤー・エフィシエントグリップ パフォーマンス2)
燃費:5.6リッター/100km(約17.9km/リッター。WLTPモード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--

テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

南陽 一浩

南陽 一浩

1971年生まれ、静岡県出身、慶應義塾大学卒。出版社を経てフリーライターに。2001年に渡仏して現地で地理学関連の修士号を取得、パリを拠点に自動車や時計、男性ファッションや旅関連を取材する。日仏の男性誌や専門誌へ寄稿した後、2014年に帰国。東京を拠点とする今も、雑誌やウェブで試乗記やコラム、紀行文等を書いている。

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