シトロエンC3シャイン<エメラルドインテリア>(FF/6AT)
ホンワカしている。 2021.01.27 試乗記 マイナーチェンジで見た目の印象が強まった、シトロエンのコンパクトハッチ「C3」。そのステアリングを握ったなら、つくり手のポリシーを感じるほどの、個性的な乗り味にも驚かされることだろう。さすがのデザイン力
今月号の『CG』誌を開いて、思わず目を奪われたのは「シトロエン・アミ」である。
21世紀のアミ(Ami)は原付カーのような超小型EVで、全幅は日本の軽より9cm狭く、長さは初代「スマート」より短い。なのに、不思議と存在感がある。背景の2階建てバスに負けていない。前うしろがわからないケッタイなカタチなのだが、やはり不思議と魅力がある。乗ってみたくなるカタチである。“デザイン力”の賜物だ。シトロエンはデキル! とあらためて思った。
C3の魅力もまずはデザイン力である。高いボンネットやウエストラインによる腰高フォルムといい、アイコンでもあるボディーサイドのエアバンプといい、全長4mのコンパクトハッチを楽しげなSUVふうに仕立てたのが効いている。約7年で6500台だった先代C3に対して、現行型はこれまでの3年半で7600台と、日本でも販売は好調だ。
その3代目C3がマイナーチェンジした。大きな機構的変更はないものの、全車LEDヘッドライトの新しいフロントマスクをはじめ、内外装を中心にブラッシュアップが施されている。
試乗したのは新デザインの16インチアルミホイールやルーフの塗り分けが特徴の「シャイン」(257万5000円)。「フィール」より約23万円高い上級モデルである。
乗るなら前席がいい
乗り込むと、試乗車はさらに2万円高のエメラルド内装仕様(259万5000円)だった。黒いダッシュボードの外周にエメラルドグリーンの加飾プレートが使われ、暖かそうなファブリックのシートにも同色の差し色が入る。さらに前席シートも異なる。表皮生地裏のフォームを2mmから15mmに増量したというアドバンストコンフォートシートだ。
スタンダード内装のシートと座り比べはしていないが、かけ心地はとても快適だ。クッションも背もたれも、厚みをたっぷりとったソファっぽい基本フォルムは従来どおりである。シートは質量で決まるのだ! と言いたげなつくりは、昔からシトロエンのシート設計の底流にあると思う。
そういえば、「心地よさ」をテーマに開発された現行「ホンダ・フィット」のベンチマークはC3だったという。乗った感じがC3に似ているとは思わないが、骨格から見直したフィットの前席シートは、たしかに国産コンパクトカーのなかでは傑出した出来だと思う。
新型C3に話を戻すと、一方、リアシートはそれほどでもない。大判なサイズの前席に比べて、イスが小ぶりだ。とくにクッション部は座面長が短く、お尻だけで座っている感じになる。頭上や膝まわりの空間もそう広くない。前に乗りたいクルマである。
パワートレインもぴったり
走りだすと、C3最大の特徴は乗り心地である。凸凹のない平滑な舗装路でも身のこなしがやわらかい。揺れるとしても、鷹揚にゆったり揺れる。前:ストラット/後ろ:トーションビームのコンベンショナルな足まわりからなぜこういう癒やし系の乗り心地が生まれるのか、不思議だ。
車重は1160kg。乗り味からはもっと軽いクルマに感じられるが、しかしそこは欧州車。サスペンションのストロークやダンピングは十分で、高速道路や山道で負荷が増すとむしろしっとりした落ち着きをみせる。だが、街なかでの乗り心地はあくまでやわらかく、かろやかだ。ひとことで言うと、ホンワカしている。欲を言えば、前席フロアやステアリングコラムまわりにもう少し剛性感があるといいのだが。
110PSの3気筒1.2リッターターボもクルマのキャラクターに合っている。フランス人は これだってマニュアルで容赦なくブン回して走るのだろうが、日本仕様はアイシンAWの6段AT。ユニークな乗り心地の前では黒子に徹するパワートレインである。最近の自動変速機は6段でも少ないと思われてしまうが、このATの6速トップは100km/h時を2000rpmに抑え、静かな高速巡航に貢献している。
今回のマイナーチェンジでJC08モード燃費は18.2km/リッターから21.0km/リッターへと15%向上している。約290kmを走ったリアル燃費は13.6km/リッター(満タン法)だった。
最も“猫足”っぽい一台
コロナ禍で公共交通機関が敬遠されているのか、最近、クルマの交通量が増えていると感じることが多い。撮影に向かう朝も、一般道でしばらくまったく動かなくなるような大渋滞に遭った。しかしそんなときでも、C3だとイライラしなかった。やさしい乗り心地をはじめ、クルマ全体から出ている“癒やしオーラ”のおかげだと思う。「あわてなさんな」である。
いまのフレンチコンパクトで「猫足」という表現にいちばん近いのがC3である。同じコンポーネントを使うプジョーにも、こんなにホンワカした乗り心地のクルマはない。明らかにシトロエンが好きでやっている味付けといえるだろう。しっかりした乗り心地に慣れたドイツ車党には、曖昧に感じられるかもしれないが、逆にこんな乗り味のクルマもあったのかと開眼してハマる可能性もなくはない。
このほどプジョー・シトロエンのグループPSAとFCA(フィアット・クライスラー)が合併して、ステランティスという世界第4位の自動車メーカーが生まれることになった。合併後もそれぞれのブランドは維持されるというからひと安心だが、これからはなにが起きてもおかしくない。
そんな時代、やわらかい乗り心地がわれわれのアイコンだと思っている人たちがシトロエンにはいる。C3に乗るとそれがよくわかる。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=田村 弥/編集=関 顕也)
テスト車のデータ
シトロエンC3シャイン(エメラルドインテリア)
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3995×1750×1495mm
ホイールベース:2535mm
車重:1160kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:110PS(81kW)/5500rpm
最大トルク:205N・m(20.9kgf・m)/1750rpm
タイヤ:(前)205/55R16 91H/(後)205/55R16 91H(ミシュラン・プライマシー4)
燃費:17.2km/リッター(WLTCモード)/21.0km/リッター(JC08モード)
価格:259万5000円/テスト車=291万1250円
オプション装備:メタリックペイント<スプリングブルー>(4万9500円)/ナビゲーションシステム(24万2550円)/ETCユニット(1万0450円)/フロアマット<ニードルパンチ>(1万3750円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:637km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:286.3km
使用燃料:21.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費: 13.6km/リッター(満タン法)/12.3km/リッター(車載燃費計計測値)
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下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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