シトロエンC3エクスクルーシブ(FF/5AT)/DS3シック(FF/5AT)
カンフル剤となりえるか 2014.02.26 試乗記 プジョー・シトロエンがコンパクトカー用に開発した新パワーユニット「PureTech」。その1.2リッター3気筒エンジンと新トランスミッション「ETG5」を搭載した「シトロエンC3」と「シトロエンDS3」の走りを試した。「走りとエコ」の新パワートレイン
珍しくプジョーとシトロエンが合同でプレス試乗会を開いた。本国では工場閉鎖やリストラのニュースが続き、なかなか厳しい状況にあるPSAグループ。苦しい台所事情がこんなところにも……ではなく、2ブランドが共同で祝うべき慶事! と考えるべきでしょう。新しいパワーパックが、両社のクルマに搭載されることになった。
ニューパワートレインは、1.2リッター直列3気筒「EB2」ユニット(82ps/5750rpm、12.0kgm/2750rpm)と、2ペダル式の5段MT「ETG5」(オートマチックモード付き)の組み合わせ。このペアと「ストップ&スタートシステム」ことアイドリングストップ機構を併せ、本国フランスでは「PureTech(ピュアテック)」と総称している。「走りとエコを両立した繊細のパフォーマンス」というのが、新世代動力系のうたい文句だ。「プジョー208」「プジョー2008」そして「シトロエンC3」「シトロエンDS3」といったコンパクトモデルに搭載される。
試乗会場では、プジョー車2モデルに続いて、「C3 Exclusive(エクスクルーシブ)」と「DS3 Chic(シック)」に乗ることができた。シトロエンC3は、デビュー年こそ2009年とやや古いものの、昨2013年にフェイスリフトを果たして、イメージ一新! いまや日本におけるシトロエンの販売台数の半数を超える、屋台骨モデルである。今回のパワートレイン変更で、ますますの魅力アップ!! を図る。
戦略的な価格設定
日本で販売されるシトロエンC3は、これまでの「1.6リッター直4(120ps、16.3kgm)+トルコン式4段AT」から、「1.2リッター直3(82ps、12.0kgm)+ETG5」に変更される。気になるお値段は、排気量縮小に伴って……、もとい! 旧モデルを7万円下回る戦略的な設定となり、「Seduction(セダクション)」が203万円、「Exclusive(エクスクルーシブ)」が233万円となる。
セダクションと比較して、エクスクルーシブは、シート表皮がダイナミカ/ファブリックになり(革内装もオプションで選択可)、アロイホイールが15インチから16インチにアップされる。そのほか、ヘッドランプやワイパーの自動化が主な違いだ。あ、あと、ほのかな香りを楽しむ「パルファムエアフレッシュナー」が装備されるのは、エクスクルーシブだけ。匂いフェチの人は、要注意だ。
5ドアハッチC3のスペシャリティー版たる3ドアのDS3は、1.6リッターの「シック」が、やはり新パワープラントとなり、価格は3万円安の247万円に。1.6リッターのハイチューンバージョン(156ps、24.5kgm)を3ペダル式の6段MTでブン回せる「DS3 Sport Chic(スポーツシック)」は、270万円据え置きで、カタログに残された(受注生産)。2014年シーズンは、フォルクスワーゲン勢に押され気味だけれど、DS3に乗ってWRCドライバーを気取るのは、まだ遅くない!
3気筒でも動力性能は十分
試乗したC3は、「ブルーアンクル」と名づけられたシックな紺色に塗られたエクスクルーシブ。
生地の張りが強いコンビネーションシートに座って走り始めると、直前に乗った、活発な走りの「プジョー208」と比べると、ややおっとりした印象。おとな1人分ほど、車重が重いのだ。
1.2リッターEB2ユニットは、バランサーを備えたエンジンで、運転していて、ことさら3気筒を意識することはない。一般的な4気筒より、シリンダー1本分軽量コンパクトなのが自慢。PSAグループの1.4リッター直4より、約20kg軽い。燃費は約25%、出力はなんと約15%向上したという。
とはいえ、われわれ日本市場のユーザーが気になるのは、従来の1.6リッターモデルとの違いである。BMWグループと共同開発したエンジンより、燃費は約57%アップ(!)して、19.0km/リッターとなった(JC08モード)。一方、アウトプットは、最高出力120ps→82ps、最大トルク16.3kgm→12.0kgmだから、3割前後減じたことになる。
ただ、吸排気系とも無段階可変バルブタイミング機構(VVT)を備えた新ユニットは、2500rpm前後の実用域で最大トルクを発生させるセッティングなので、1.6リッターモデルと直接乗り比べたりしなければ、「遅くてやんなっちゃう」なんてことはない。十分な動力性能といえる。
新トランスミッションがカギ
アウトプットの減少を、フィールの上から補っているのが、新トランスミッション「ETG5」だ。これは2ペダル式の5段MTで、運転者の左足に代わって、アクチュエーターが自動でクラッチを操作してギアを変えてくれる。トルクコンバーター式ATと異なり、クラッチをつないで直接トルクを伝えるので、ダイレクト感が高い。
これまでのロボタイズドタイプのシングルクラッチ式MTは、ギアを変えるたびに上体が前後に振れて、不快だった。運転達者なジャーナリストの人は、ギアが変わる気配を感じてアクセルペダルを少し戻してショックをやわらげる。いや、むしろ、ギアが変わる直前にアクセルペダルを戻して、積極的かつ主体的にギアチェンジを誘発する、といった極意を述べていて、それはまあ、その通りだが、安楽なトルコンATになじんだユーザーにとっては、さっぱり説得力のない擁護だった。
新しいETG5は、シフトプログラムを洗練させると同時に、敏腕ジャーナリストがやっていた“極意”を自動でやるようになった。つまりトランスミッションとエンジンの協調制御を、(ようやく)採り入れたのだ。C3をオートマモードで走らせると、これまでにないスムーズさで、ちょっと驚く。
プジョーーシトロエン間で、ギア比を含めメカニカルな違いはないが、ソフトウエアに手を加え、プジョー系ではギアチェンジの素早さを、シトロエン系ではスムーズさを重視したセッティングになっているという。
さて、3ドアのDS3シックに乗り換えると、スポーティーなルックスに違わない走りをしてみたくなる。ETG5をマニュアルモードにすると、パドルやシフターで選んだギアは、たとえリミッターに当たるようなことがあっても、そのまま保持される。3ペダル式MTとまったく同じフィールを持って、カッ飛ぶことが可能だ。シフトダウン時には、軽くブリッピングを入れ、キレイに回転を合わせてくれる。
新しいパワートレインを採用したDS3は、燃費が約49%アップして、18.6km/リッター(JC08モード)となった。
モデルライフ半ばで投入された新世代パワートレイン。性能面はもとより、販売面でもカンフル剤となるでありましょうか!?。
(文=青木禎之/写真=峰 昌宏)
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テスト車のデータ
シトロエンC3エクスクルーシブ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3955×1730×1530mm
ホイールベース:2465mm
車重:1140kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:5段AT
最高出力:82ps(60kW)/5750rpm
最大トルク:12.0kgm(118Nm)/2750rpm
タイヤ:(前)195/55R16/(後)195/55R16(ミシュラン・エナジーセイバー)
燃費:19.0km/リッター(JC08モード)
価格:233万円/テスト車=233万円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2014年型
テスト車の走行距離:--
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(-)/高速道路(-)/山岳路(-)
テスト距離:--
使用燃料:--
参考燃費:--
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シトロエンDS3シック
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3965×1715×1455mm
ホイールベース:2455mm
車重:1090kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:5段AT
最高出力:82ps(60kW)/5750rpm
最大トルク:12.0kgm(118Nm)/2750rpm
タイヤ:(前)195/55R16/(後)195/55R16(ミシュラン・エナジーセイバー)
燃費:18.6km/リッター(JC08モード)
価格:247万円/テスト車=247万円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2014年型
テスト車の走行距離:--
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(-)/高速道路(-)/山岳路(-)
テスト距離:--
使用燃料:--
参考燃費:--

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。