第168回:「空港とクルマ」つれづれ話 すべての乗り物に命あり!?
2010.11.13 マッキナ あらモーダ!第168回:「空港とクルマ」つれづれ話すべての乗り物に命あり!?
ジェットストリームな野郎
思い返せば、中学生時代のボクは、同級生が好きなAMの深夜放送を聴かず、代わりに城達也ナレーション・日本航空提供「ジェットストリーム」を聴きながら、空港の夜景に思いをはせて眠りにつく“すかした野郎”だった。
成田空港の警察を舞台にした鶴田浩二主演のテレビドラマ「大空港」も毎週楽しみに観ていたものだ。やがて、企業小説家アーサー・ヘイリーの「大空港」を新潮文庫で読むと、まだ見ぬ海外の空港への思いが無限に膨らんだ。
毎月のように旅をしている今も、空港に降り立つたびどこか胸が躍るのは、そうした体験が背景にあるに違いない。
ということで、今回は空港とクルマの、よもやま話である。
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思い出の連接バス
まずは空港バスの話から。
ボクが自動車雑誌『SUPER CG』の編集記者になって、海外出張にようやく行かせてもらえるようになった1990年代初めのことだ。日本橋・箱崎にある東京シティエアターミナルと成田空港間を、不思議なバスが走っていた。「連接バス」である。ご記憶の方もいると思うが、それはボルボ製シャシーに富士重工業製ボディを組み合わせたもので、筑波科学万博で使われていたシャトルバスのお下がりだった。
その連接バスについて、当時ボクの上司であった高島鎮雄編集長から、不思議なことに「あれには乗らないほうがよい」と注意があった。
しかし、ある日ボクは禁を破って、成田から乗ってみた。実際乗り込んでみると、いわゆる高床式の「ハイデッカー」ではないので、荷物があっても乗り降りしやすい。いいじゃないか。それに、カブれていたボクゆえ、フロントに貼り付けられた「ボルボ」のマークに引かれた。
ところが走り始めてまもなく、ボクは上司が忠告した理由を知ることになった。
ひとつは、もともと高速道路走行向けに造られていないので、乗り心地や遮音性があまりよくない。変速機が都市向けのギアレシオなのだろう、スピードが上げるとエンジンがやかましかった。
さらに最大の弱点があった。通常、成田から都心に向かう空港バスは、首都高が渋滞してくると、一般道に降りる。しかしこの連接バスは、いくら渋滞しても一般道にけっして降りなかった。これは、日本には連接バスに関する法規が整備されていなかったためだ。成田と東京シティエアターミナルの高速上を、いわば特例で走らせていたのだ。いやはや、上司の忠告には、耳を貸したほうがいいと反省した。
ちなみに現在パリで、パリ交通営団(RATP)がシャルル・ドゴール空港やオルリー空港と市内を結ぶのにルノーやイリスビュス製の連接バスを使っているが、ボルボ−富士重工業製と大なり小なり似たような乗り心地である。エールフランスが運行しているハイデッカーのほうが数倍いい。
「上司と空港バス」といえば、同じく編集記者時代、自動車雑誌『CAR GRAPHIC』の初代編集長・小林彰太郎氏のお供でドイツに出張したときのことも思い出す。
空港で、ターミナルと飛行機を結ぶバスに乗ったときだ。小林氏がバス車内に貼られたメーカー名プレートを指して、「なんだか知ってるか?」とボクに問うた。
「Gräf und Stift」と書かれていた。
第一次世界大戦の引き金となった1914年のサラエボ事件は、オーストリア−ハンガリー帝国の大公が車上で暗殺されたものだった。そのとき大公が乗っていたのが、オーストリアのメーカー「Gräf und Stift(グレーフ・ウント・シュティフト)のオープンモデルだったことを小林氏は教えてくれた。
そういえば、高校の歴史教科書には、狙撃シーンの挿し絵に(少々ヘタクソだったものの)クルマも描かれていたっけ。あの教科書と今乗っているバスが歴史の糸でつながっていることに、当時のボクはえらく感激したものだった。
市販化、激しく希望?
現在の空港に話題を移そう。今日、欧州でターミナル−飛行機間の連絡バスとして、圧倒的に多く用いられているのは、ドイツのヴィースバーデンを本拠とするコーバス・インダストリーズ製のものだ。コーバス自体に文句はないのだが、グレーフ・ウント・シュティフトをはじめ、いろいろなブランドがあふれていた時代がちょっと懐かしいのも事実である。
いっぽうボクがそそられるのは、ドイツの空港に配備されているルフトハンザ・ドイツ航空の電動カートである。広大な空港で社員の移動や、お年寄りやハンディキャップのあるパセンジャーのサービスに用いられている。オフィシャルカラーである黄色いボディに、紺色のロゴが入っている。オランダを本拠とするディファコ(DIVACO)というメーカーのものである。
以前本欄に書いたが、ルフトハンザ・ドイツ航空は「機内食用カート」とか、とんでもないものを時折オフィシャルグッズとして販売する。その勢いで、この電動カートも販売すると、意外なオタク的引き合いがあると思うのだが、いかがだろうか。
所変わってイタリアにおける空港の名物は、空港管理会社や航空会社が所有している「フィアット・パンダ」である。着陸した飛行機の窓外で、パンダがウロウロしているのを見るたび、ボクはイタリアに帰ってきたことを実感し、心が癒やされるのだ。
捨てられても幸せ?
しかしながら「空港とクルマ」といえば、わが家にいちばん近いフィレンツェ空港で最近気になるものがある。長期用駐車場で見かける、明らかに放置されたクルマだ。ボクが敷地内を確認しただけでも2台ある。1台は「フォード・エスコート」のワゴン、もう1台は「ルノーR4」だ。とくに後者は捨てられていなくても哀愁を感じさせるフォルムだけに、おちぶれた姿は、さらに涙を誘う。ナンバーは同じトスカーナ州内のアレッツォのものだ。クルマの下には、とっくに雑草が生い茂っている。
「お世話になったクルマをこんなところに捨てていくとは、ドライバーの風上にも置けんヤツらだ」と腹がたつ。
「ベッドで煙草を吸わないで」は、かつて歌手・沢たまきが歌ったムード歌謡であるが、そのメロディにのせて「飛行場にルノーを捨てないで〜♪」と替え歌を口ずさみたくなる。
処分の手続きやタイミングに困るのは想像できるが、こんな状態になるまで放置しておく空港管理者もイタリア的で情けない。利用者からしてみても、たとえ2台でも片付けてしまえば、慢性化した駐車スペース争奪戦が少しでも緩和されるではないか。
しかし……だ。幼いとき、名作童話「きかんしゃやえもん」を読みふけったためか、すべての乗り物には命があり、言葉を話すような気がしてならないボクである。もしかして捨てられた「R4」は、各国から毎日飛んでくる飛行機と会話を交わし、さまざまな国の風景や人々の話を聞いているのではないか。そう思うと、いきなりくず鉄にされるよりも幸せな余生を送っているのではないかと考えるようになってきた。
(文と写真/大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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