クルマが知能化するってどういうこと? 「Honda 0」が提案する新しい人とクルマの関係
2024.11.15 デイリーコラムホンダが提供しようとする新しい“デジタルUX”
クルマが知能化するとはどういうことなのか? SDV(ソフトウエア・ディファインド・ビークル)とやらになり、より高度なECUが積まれ、今まで以上に綿密なかたちで世間とつながるようになったら、何が起きるのか? 浅学な記者にはよくわからないが、それはガラケーがスマホに変わったときのように、景色を変えていくのでしょう。
なーんて書くと、どうせまたSNSとかで「そんなクルマはいらん」だの「自動車メーカーがやることじゃない」だの言われるのだろうが、そういう人たちにしたって、スマホでポチポチ文句を打ち込んでいるんだから、けなげというかいじましいというか(笑)。まぁ、世の進化というやつは総じてそういうものなのだ。賛成も反対も全部巻き込んで、いや応なく突き進んでいく。
ときは2024年10月4日、場所は本田技術研究所の四輪R&Dセンター(栃木)。記者は、ホンダの次世代電気自動車(EV)「Honda(ホンダ)0」シリーズの技術取材会、その名も「Honda 0 Tech MTG 2024」に参加した。そこでは、ドライビングダイナミクスに関する解説や試作車の試乗、生産技術の見学なども実施されたのだが、そちらについては過日の渡辺敏史氏のリポート(参照)にお任せしたい。ここでは、読者諸氏が興味なさそうな(笑)デジタルテクノロジーと、それでホンダが提供しようとしている顧客の体験について考えてみたいと思う。世にいうデジタルUX(ユーザーエクスペリエンス)というやつだ。
当日の説明によると、ホンダ0のデジタルUXは、「移動時のストレスを最小化、車内空間の楽しさを最大化する」ことを目的としているそうな。では具体的に、彼らはどんな機能の搭載を想定しているのか? そのイメージをつかむうえでも、今回は当日解説やデモンストレーションがあった、いくつかの具体例を見ていきたい。
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まるで気の利くショーファーさんのよう
ホンダがUXの一例としてまず挙げたのは、「ドアの自動オープン」というものだった。……「そのくらい自分でやるわ」という皆さまの声が聞こえてきそうだが(笑)、いや待たれい。これが結構、地味にスゴいのである。
あらためて、この機能は「オーナーが近づくとクルマのドアが自動で開く」というものだが、ただ漫然とドアが開くだけではない。まずは車載カメラが、自車に近づく物体を知覚。それが人か、メモリーに登録されているオーナー(やその家族)か否かを識別する。そこで「オーナーだな」となった場合、次には顔の向きなどから、その人物が「クルマに乗り込もうとしているか否か」を判断。これらの段階を経て、「オーナーが自車に乗り込もうとして近づいてきた」との結論に至った場合のみ、ドアを開けるのだ。
これだけでもずいぶん複雑なことをやっているわけだが、同システムの状況認知や判断、行動はさらに高度で、例えばオーナーが大荷物を持っている場合は、運転席のドアではなくテールゲートを開ける。赤ちゃんがいる場合は、チャイルドシートのついた後席のドアを開ける……といったことまでやってのけるのだ。また自車周辺に障害物がある場合はドアは開かないので、ドアパンチして自分も周りも傷つけるなんて愚行は犯さない。まさに気の利くショーファーさんのような機能なのだ。さすがに運転まではしてくれないけど。
……いや待て。ホンダ0は確か、“運転”もしてくれるな。さすがに完全自動運転とまではいかないが、一般道を含む広範なシーンで稼働するというレベル3(アイズオフ)の自動運転システムが、ドライバーをアシストするというのだ。さらに移動中には、AIを活用した音声アシスタントによる高度なサポート機能も供されるという。ここでも活躍するのは、車内の状況を読み解いて適切な提案につなげる、認知・判断・行動の技術である。
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家内安全・夫婦円満にも貢献するかも(笑)
このホンダ0のAIアシスタント機能では、カメラの映像をもとに乗員や車内の状態を認識。乗員ごとに最適化された提案やサポートを、“先回り”して行うという。例えばペットのワンちゃんと一緒に旅行を楽しんでいる場合は、ドッグラン併設のサービスエリアでちょっと早めの休憩を促したり、ペット同伴可&駐車場有のカフェへの立ち寄りを提案したりしてくれる。
また過去のオーナーの行動をもとにAIが学習し、クルマに乗れば乗るほど、よりオーナー一人ひとりにパーソナライズ化された提案をするようになるというのだ。「左手ニ、イツモ立チ寄ル喫茶店ガアリマスガ、休ンデイキマスカ?」「あらダーリン。私、こんなお店知らないわ」「僕もだよハニー。ホンダ0が壊れちゃったかな? ハハハ(滝汗)」ってな具合だ。
説明会では、ホンダ0のAIが認知・判断した車内状況を文章生成AIで文字化するという、“AIダブル掛け”みたいなデモンストレーションが行われたが、報道陣が即興で実演スタッフに芝居をお願いしても、「乗員は作業着姿の2人組で、深刻な表情で会話中。仕事先へ行く途中かも」(実際は「車内でケンカしてみて」というリクエストでした)などと、かなり柔軟に事態を読み解いて見せた。
それどころか、自車周辺にこちらに見入る人々(=報道陣)がいることまで検知し、「ひょっとしてワタシは展示車で、ショールームで展示されている最中?」という考察にまで至ったのには恐れ入った。はっきり言って、ちょっと怖いとさえ思った。デモの後で、「そのうち、助手席に見知らぬ女性が乗ったら自動で奥さんのスマホに通知する、なんてこともやるようになるかもしれませんね」と軽口をたたいたが、あながちそんな未来も絵空事ではないような気がする。世の浮気性なパパ諸君、お覚悟あれ。
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遠くの人と同じ時間を共有できる
またホンダでは、こうした車載センサーで得た情報・データを、車外の人との“体験の共有”にも使おうと考えている。通信によって映像と音声をリアルタイムでやり取りすれば、入院中のおばあちゃんも一緒に養老渓谷の紅葉狩りを楽しめるというわけだ。実際、デモンストレーションではVRゴーグルを介し、栃木にいながら横浜の実演要員とみなとみらいをドライブする……という、まかふしぎな体験をさせてもらった。
エンジニア氏によると、この技術を活用すれば、ライブ配信をするユーチューバーと疑似ドライブ体験ができたり、推しのアイドルと疑似ドライブデートができたりするようになるとのこと。コワモテなエンジニア氏の口から「推しのアイドル」なる言葉が出てきたことに、今という時代を感じた次第だ(笑)。
いっぽうで、YouTubeやアイドル文化に造詣がない未開人(=記者)でも「こりゃ面白い!」となったのが、サウンドとデジタルメーター表示による「ホンダの歴代名車(?)の再現」機能だった。まぁ要するに、「EVでも走行中にあのクルマのエンジン音が楽しめる!」というもので、エンジニア氏いわく「ホンダがよくやる、本気のおふざけ」とのことだ。今にも読者諸氏の「しょうもな!」という声が聞こえてきそうだが、いやいや。これが実際に体験すると、「しょうもない」では片づけられない、面白くも考えさせられる体験だった。
EVなので音は全部スピーカー再生だが、なにせ往年の初代「NSX」や「S2000」から、最新の「シビック タイプR」、果ては「ホンダジェット」のサウンドまで聞かせてくれるのだ。しかも、車体の振動まで再現するという意味不明な気合の入りよう。こと自動車メディアの間では、この日最も盛り上がったのは間違いなくこのデモンストレーションだった。
担当のエンジニア氏によると、ホンダでは往年のF1マシンや「S800」などのクラシックカーも動態保存しているので、そうしたクルマの鼓動も収録は可能とのこと。EVであれば動的性能も(ある程度なら)制御で再現できるから、将来的には、若いオーナーが「これがじいちゃんが最初に買ったっていう『ワンダーシビック』の走りかぁ」と、ご先祖の感動を追体験したり、それによってジジ孫の会話に花が咲いたりするかもしれない。
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人とクルマの関係性だって変わる
以上が、Honda 0 Tech MTG 2024で行われた、デジタルUXのデモと解説である。読者諸氏におかれては、あまりに各機能の性格が違ってイメージをつかみづらかったかもしれないが(記者も同じ)、まぁ基盤技術とはそういうもの。優秀な運転手さんにも、デジタル世代のキラーコンテンツにも、おっさん泣かせな昭和歌謡にも化けるというわけだ。逆に言えば、技術はそれそのものでは一個の機能でも完成された商品でもサービスでもないわけで、何者かになる前の段階でそれを毛嫌いしたり、いい/悪いと断じたりするのもヘンな話だよなぁと再認識した。
いずれにせよ、実際には自動車のデジタル化や知能化、通信技術の革新は、こちらの想像が追い付かないほどの可能性を秘めている。将来ホンダ車に実装される機能にしても、ここで紹介した程度のものでは済まなくなるだろう。イベント最後のQ&AでSDVの定義を問われたホンダの秋和利祐氏は、(細かい言い回しはうろ覚えだが)「ホンダ内でもSDVの定義には議論があるが、私は“将来の変化に対する備え”と考えている」という趣旨の回答を述べていた。せんえつながら、なんと正鵠(せいこく)を得た答えではあるまいか。そして同時に、それはデジタルテクノロジーの開発全般にもいえることではないかと感じた。
もうひとつ記者が考えたのは、クルマがオーナーについて学び、一人ひとりにパーソナライズ化される存在となった場合、私たちのクルマとの付き合い方/向き合い方も、今とは変わるのではないかということだ。黒柳徹子さんがロボット犬の「AIBO」を愛したように、知能化したクルマは今までとは違う愛され方をする存在となるかもしれない。
正直なところ、この考察は今初めて思いついたというより、4年前に「ホンダe」に触れたときから漠然と抱いていたものだが、今回の取材で「ホントにそうなるかも」と思いを強めた次第。記者などチョロいものだから、乗車時に「コンニチハ堀田サン」と言われただけでもまいってしまうことだろう。
新しい価値の提供というのは、必ずしも機能のみに由来するものではなく、それによって引き出される感情の動きもまたUXによる創造価値ではあるまいかと、柄にもないことを考えてしまった。かつて見た「ガレージにナイトライダー」「一家に一台ASIMO」の夢が、クルマの知能化で実現するかもしれない。
(文と写真=webCG堀田剛資<webCG”Happy”Hotta>/編集=堀田剛資)
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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