気がつけば50年 孤高の大型バイク「ホンダ・ゴールドウイング」の本質に迫る
2025.02.28 デイリーコラムもはや「雲の上のバイク」
全長2.6mを超える大きな車体。シロサイよりも重い390kgの車重。そして股下には「エンジン本当にかかっていますか?」くらいにサイレントな水平対向6気筒エンジン。ホンダ二輪のラインナップで一番“ご立派”な大型バイク「ゴールドウイング」が1975年の誕生から今年で50周年を迎える。
搭載エンジンは首尾一貫して水平対向のレイアウトを守り、不変の開発コンセプトもグランドツアラーのまま。現役トップランナーとしての体幹は一切ブレることなく激動の50年を走り続けている。
しかし、その報を聞いたところで多くのライダーから得られるのは、「そういえばそんなバイク、あったねー」というくらいの薄めのリアクションかもしれない。日ごろからバイクライフを満喫しているバイク好きであっても、いまいちリアリティーを感じない、高級すぎるビッグマシンがゴールドウイングであるともいえる。
例えば、2024年に同じくデビュー50周年を迎えた「フォルクスワーゲン・ゴルフ」とは向いている方向がまるで違う。ゴールドウイングは日々の生活のパートナーではなく、極めて趣味性の高いハイエンドモデルだ。
外見の印象とはまるで違う
「あなたはたぶん、一度もゴールドウイングに乗ったことがない」
うーん、われながら偉そうだが、あえて言おう。筆者はゴールドウイングに乗ったことが、ある! 距離もそれなりにこなした。でもその経験はこんなギョーカイ(二輪メディア)に身を置いているからこそ得られたもので、ココにいなかったら乗車どころかボディーに触ったことさえなかったかもしれない。それくらい居丈高な雰囲気が、歴代のゴールドウイングには漂っている。
走りだす前、ボディーはデカすぎてどんより気が重かった。でもいざ走らせると、いきなり度肝を抜かれる。めちゃくちゃ運転しやすいじゃん! 杞憂(きゆう)は転じてイッキに快感へ。ライテクへぼ男くんの筆者をして「今日のオレって乗れてるなー」と気持ちよ~く勘違いさせてくれるほどゴールドウイングは乗りやすい。低速ではヒョイヒョイと、高速ではシュパーッと、フットワークが自在なのだ。とはいえ400kgもあるんでしょ? の声が聞こえてきそうだけど、「いやいや、試しにまずは乗ってみてよ」と即座に返そう。
そのライディングフィールをインプレ風に表現すると……低く安定した重心、トルキーでスムーズなエンジン、素直でクセのないハンドリング。あらら、いかにもな定型句ばかりが並んでしまうのがなんとも歯がゆいぞ(笑)。ギラリと光る外装デザインに反して、軽快で扱いやすい車体。そんな両極端な二面性がサラッと、満艦飾のゴージャスフォルムにワンパッケージでまとめられている。スゴいよホンダ、ため息がもれちゃう。
「クルマを目指したバイク」のひとつ
思えばホンダのバイクも、いや、日本のバイクも世界のバイクも、スポーツ系ではないコンフォート系モデルの一部には、ずっとどこか「クルマになりたい」との野心が見え隠れしていたように思う。箱で包まれたクルマのように安楽に、快適に、リッチな気分に浸りたい──そのイメージとディテールを、開発スタッフやデザイナーたちはさまざまなバイクの車体にまぶしていった。
例えば、原付二種スクーターのアッパーモデルだった「ホンダ・スペイシー125ストライカー」の、1983年発売当時のカタログに躍るキャッチコピーはこうだ。「プレステージ・スクーター」「体感、スペシャリテイ。」「高級乗用車にせまる本格・豪華装備のかずかず」。
フロントカウルには“スペシャリテイ・カー感覚”のリトラクタブルヘッドライトが装備され、さらにメーターパネルはあえて「インストルメントパネル」と繰り返し呼ばれている。なんのてらいもなく、全身で“クルマっぽさ”を表現していた。
大きなカウルをまとったゴールドウイングをして「ハーレーのツーリングモデルに似ている」と感じる向きもあるだろう。でも実際に走り比べると、全然似ていない。安楽さと快適さへの評価でいえばゴールドウイングの圧勝だし、開発コンセプトからしてゴールドウイングとハーレーではまったく異なる。アメリカやヨーロッパにはゴールドウイングを愛するファンがたくさんいるが、そんなオーナーたちの大半はハーレーのような鼓動感、躍動感を求めているわけではなく、ゴールドウイングでしか味わえない極上の洗練を愛している。
ホンダならではの革命児
一日で500~600kmの距離をコンフォータブルに、しかもタンデムでこなせるモーターサイクルはまれだ。その点でいえばゴールドウイングに似たものはなく、もはや「ゴールドウイングというジャンル」と言っても言い過ぎではないだろう。ゴールドウイングはここ日本の混み入った狭路よりも、ロング&ワイドな欧米の広い風景がよく似合う、ハイウェイをさっそうと走り抜けるためのスペシャルツアラーなのだ。
さて。ここまで書いて唐突に、アントニオ猪木の「道」を思い出した。
「踏み出せばその一足が道となり、その一足が道となる──」
ホンダが50年もの歳月を費やして切り拓いた道。それは、これ以上は望めないと感じるほど快適な乗り味の、孤高のグランドツアラーへの道である。
「ヤマハ・ベンチャーローヤル」「カワサキ・ボイジャー」「スズキ・カバルケード」……かつて追従しようと思ったライバルたちは多かったものの、今やその影はなし。独創性の観点から見ても、1800ccのゴールドウイングと50ccのスーパーカブは同じくらい革命的なプロダクトかもしれない。どちらもまごうことなきキング・オブ・モーターサイクルだ。
(文=宮崎正行/写真=本田技研工業/編集=関 顕也)

宮崎 正行
1971年生まれのライター/エディター。『MOTO NAVI』『NAVI CARS』『BICYCLE NAVI』編集部を経てフリーランスに。いろんな国のいろんな娘とお付き合いしたくて2〜3年に1回のペースでクルマを乗り換えるも、バイクはなぜかずーっと同じ空冷4発ナナハンと単気筒250に乗り続ける。本音を言えば雑誌は原稿を書くよりも編集する方が好き。あとシングルスピードの自転車とスティールパンと大盛りが好き。
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