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気がつけば50年 孤高の大型バイク「ホンダ・ゴールドウイング」の本質に迫る

2025.02.28 デイリーコラム 宮崎 正行
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もはや「雲の上のバイク」

全長2.6mを超える大きな車体。シロサイよりも重い390kgの車重。そして股下には「エンジン本当にかかっていますか?」くらいにサイレントな水平対向6気筒エンジン。ホンダ二輪のラインナップで一番“ご立派”な大型バイク「ゴールドウイング」が1975年の誕生から今年で50周年を迎える。

搭載エンジンは首尾一貫して水平対向のレイアウトを守り、不変の開発コンセプトもグランドツアラーのまま。現役トップランナーとしての体幹は一切ブレることなく激動の50年を走り続けている。

しかし、その報を聞いたところで多くのライダーから得られるのは、「そういえばそんなバイク、あったねー」というくらいの薄めのリアクションかもしれない。日ごろからバイクライフを満喫しているバイク好きであっても、いまいちリアリティーを感じない、高級すぎるビッグマシンがゴールドウイングであるともいえる。

例えば、2024年に同じくデビュー50周年を迎えた「フォルクスワーゲン・ゴルフ」とは向いている方向がまるで違う。ゴールドウイングは日々の生活のパートナーではなく、極めて趣味性の高いハイエンドモデルだ。

17年ぶりのフルモデルチェンジで2018年にデビューした、6代目こと現行型「ホンダ・ゴールドウイング」。最高出力126PS、最大トルク170N・mの1.8リッター水平対向6気筒エンジンとリバースギア付きの7段DCTを搭載する。
17年ぶりのフルモデルチェンジで2018年にデビューした、6代目こと現行型「ホンダ・ゴールドウイング」。最高出力126PS、最大トルク170N・mの1.8リッター水平対向6気筒エンジンとリバースギア付きの7段DCTを搭載する。拡大
こちらは50年前の1975年に誕生した、初代「ゴールドウイング」こと「GL1000」。名車の誉れ高い「CB750 FOUR」を超える高速ツアラーとして開発され、排気量1000ccの水平対向4気筒エンジンが与えられた。
こちらは50年前の1975年に誕生した、初代「ゴールドウイング」こと「GL1000」。名車の誉れ高い「CB750 FOUR」を超える高速ツアラーとして開発され、排気量1000ccの水平対向4気筒エンジンが与えられた。拡大
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外見の印象とはまるで違う

「あなたはたぶん、一度もゴールドウイングに乗ったことがない」

うーん、われながら偉そうだが、あえて言おう。筆者はゴールドウイングに乗ったことが、ある! 距離もそれなりにこなした。でもその経験はこんなギョーカイ(二輪メディア)に身を置いているからこそ得られたもので、ココにいなかったら乗車どころかボディーに触ったことさえなかったかもしれない。それくらい居丈高な雰囲気が、歴代のゴールドウイングには漂っている。

走りだす前、ボディーはデカすぎてどんより気が重かった。でもいざ走らせると、いきなり度肝を抜かれる。めちゃくちゃ運転しやすいじゃん! 杞憂(きゆう)は転じてイッキに快感へ。ライテクへぼ男くんの筆者をして「今日のオレって乗れてるなー」と気持ちよ~く勘違いさせてくれるほどゴールドウイングは乗りやすい。低速ではヒョイヒョイと、高速ではシュパーッと、フットワークが自在なのだ。とはいえ400kgもあるんでしょ? の声が聞こえてきそうだけど、「いやいや、試しにまずは乗ってみてよ」と即座に返そう。

そのライディングフィールをインプレ風に表現すると……低く安定した重心、トルキーでスムーズなエンジン、素直でクセのないハンドリング。あらら、いかにもな定型句ばかりが並んでしまうのがなんとも歯がゆいぞ(笑)。ギラリと光る外装デザインに反して、軽快で扱いやすい車体。そんな両極端な二面性がサラッと、満艦飾のゴージャスフォルムにワンパッケージでまとめられている。スゴいよホンダ、ため息がもれちゃう。

たいていのライダーは「これに乗るのか」とたじろぐほど、大きく立派な「ゴールドウイング」。いざ走らせると低重心かつパワフルで驚くほど乗りやすい。(写真はイメージ)
たいていのライダーは「これに乗るのか」とたじろぐほど、大きく立派な「ゴールドウイング」。いざ走らせると低重心かつパワフルで驚くほど乗りやすい。(写真はイメージ)拡大
最新型の水平対向6気筒エンジンは、エンジン長を従来モデル比で29mm短縮し、エンジン単体で約6.2kgの軽量化を実現するなど、「軽量コンパクト化」されているのが特徴。燃費(60km/h定地燃費値)も7.0km/リッター向上し27.0km/リッターとなっている。
最新型の水平対向6気筒エンジンは、エンジン長を従来モデル比で29mm短縮し、エンジン単体で約6.2kgの軽量化を実現するなど、「軽量コンパクト化」されているのが特徴。燃費(60km/h定地燃費値)も7.0km/リッター向上し27.0km/リッターとなっている。拡大

「クルマを目指したバイク」のひとつ

思えばホンダのバイクも、いや、日本のバイクも世界のバイクも、スポーツ系ではないコンフォート系モデルの一部には、ずっとどこか「クルマになりたい」との野心が見え隠れしていたように思う。箱で包まれたクルマのように安楽に、快適に、リッチな気分に浸りたい──そのイメージとディテールを、開発スタッフやデザイナーたちはさまざまなバイクの車体にまぶしていった。

例えば、原付二種スクーターのアッパーモデルだった「ホンダ・スペイシー125ストライカー」の、1983年発売当時のカタログに躍るキャッチコピーはこうだ。「プレステージ・スクーター」「体感、スペシャリテイ。」「高級乗用車にせまる本格・豪華装備のかずかず」。

フロントカウルには“スペシャリテイ・カー感覚”のリトラクタブルヘッドライトが装備され、さらにメーターパネルはあえて「インストルメントパネル」と繰り返し呼ばれている。なんのてらいもなく、全身で“クルマっぽさ”を表現していた。

大きなカウルをまとったゴールドウイングをして「ハーレーのツーリングモデルに似ている」と感じる向きもあるだろう。でも実際に走り比べると、全然似ていない。安楽さと快適さへの評価でいえばゴールドウイングの圧勝だし、開発コンセプトからしてゴールドウイングとハーレーではまったく異なる。アメリカやヨーロッパにはゴールドウイングを愛するファンがたくさんいるが、そんなオーナーたちの大半はハーレーのような鼓動感、躍動感を求めているわけではなく、ゴールドウイングでしか味わえない極上の洗練を愛している。

1988年4月に発売された4代目の「ゴールドウイング」(写真)は、激化しつつあったライバルとの競争に勝つべく、従来の4気筒に代えて、6気筒の水平対向エンジンが初採用されたモデル。ラグジュアリーツアラーという性格も、この代で一段と強まった。生産は米国のホンダ・オブ・アメリカ・マニュファクチュアリング(HAM)。
1988年4月に発売された4代目の「ゴールドウイング」(写真)は、激化しつつあったライバルとの競争に勝つべく、従来の4気筒に代えて、6気筒の水平対向エンジンが初採用されたモデル。ラグジュアリーツアラーという性格も、この代で一段と強まった。生産は米国のホンダ・オブ・アメリカ・マニュファクチュアリング(HAM)。拡大
「ゴールドウイング」に限らず、コンフォート系バイクというものはどれも「クルマになりたい」ムードが感じられるものだ。写真の「ホンダ・スペイシー125ストライカー」(1983年)もその典型で、カタログ(写真)には“四輪的うたい文句”があふれる。
 
「ゴールドウイング」に限らず、コンフォート系バイクというものはどれも「クルマになりたい」ムードが感じられるものだ。写真の「ホンダ・スペイシー125ストライカー」(1983年)もその典型で、カタログ(写真)には“四輪的うたい文句”があふれる。
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ホンダならではの革命児

一日で500~600kmの距離をコンフォータブルに、しかもタンデムでこなせるモーターサイクルはまれだ。その点でいえばゴールドウイングに似たものはなく、もはや「ゴールドウイングというジャンル」と言っても言い過ぎではないだろう。ゴールドウイングはここ日本の混み入った狭路よりも、ロング&ワイドな欧米の広い風景がよく似合う、ハイウェイをさっそうと走り抜けるためのスペシャルツアラーなのだ。

さて。ここまで書いて唐突に、アントニオ猪木の「道」を思い出した。

「踏み出せばその一足が道となり、その一足が道となる──」

ホンダが50年もの歳月を費やして切り拓いた道。それは、これ以上は望めないと感じるほど快適な乗り味の、孤高のグランドツアラーへの道である。

「ヤマハ・ベンチャーローヤル」「カワサキ・ボイジャー」「スズキ・カバルケード」……かつて追従しようと思ったライバルたちは多かったものの、今やその影はなし。独創性の観点から見ても、1800ccのゴールドウイングと50ccのスーパーカブは同じくらい革命的なプロダクトかもしれない。どちらもまごうことなきキング・オブ・モーターサイクルだ。

(文=宮崎正行/写真=本田技研工業/編集=関 顕也)

「ゴールドウイング」の派生モデルとして、1996年7月に発売された「ワルキューレ」(写真は1997年モデル)。車体前方を覆う大型フェアリングがないため、水平対向6気筒エンジンの存在感が一段と際立っていた。
「ゴールドウイング」の派生モデルとして、1996年7月に発売された「ワルキューレ」(写真は1997年モデル)。車体前方を覆う大型フェアリングがないため、水平対向6気筒エンジンの存在感が一段と際立っていた。拡大
1988年に登場した5代目(写真)で、「ゴールドウイング」は1.5リッターからさらに排気量を拡大し1.8リッターに。一方で車重を1kg軽量化するなどしてパフォーマンスアップが図られた。
1988年に登場した5代目(写真)で、「ゴールドウイング」は1.5リッターからさらに排気量を拡大し1.8リッターに。一方で車重を1kg軽量化するなどしてパフォーマンスアップが図られた。拡大
宮崎 正行

宮崎 正行

1971年生まれのライター/エディター。『MOTO NAVI』『NAVI CARS』『BICYCLE NAVI』編集部を経てフリーランスに。いろんな国のいろんな娘とお付き合いしたくて2〜3年に1回のペースでクルマを乗り換えるも、バイクはなぜかずーっと同じ空冷4発ナナハンと単気筒250に乗り続ける。本音を言えば雑誌は原稿を書くよりも編集する方が好き。あとシングルスピードの自転車とスティールパンと大盛りが好き。

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