第165回:あのモンテゼーモロが激怒! イタリア流困ったコト、進んでるコト
2010.10.23 マッキナ あらモーダ!第165回:あのモンテゼーモロが激怒! イタリア流困ったコト、進んでるコト
夢の鉄道、暗礁に
あのルカ・ディ・モンテゼーモロが怒った。怒りの矛先はイタリア国鉄である。2010年10月7日のことだ。
モンテゼーモロは2008年、自らが会長を務める鉄道会社「NTV」の概要を発表した。これは筆者が以前『webCG』のニュースで報じたとおりだ。
NTVといっても「日本テレビ」ではない。「Nuovo Trasporto Viaggiatori(新旅客輸送)」の略である。
既存のイタリア国鉄の路線網を借りるかたちで、独自の高速列車「イタロ号」を走らせるという計画だ。すでにイギリスでヴァージン・グループの鉄道会社が運営しているのと同じ方式である。
しかし、モンテゼーモロ会長によれば、「NTV社が車両型式認定のため借りられるはずだったイタリア国鉄の車両基地提供が実行に移されていない」と指摘。イタリア国鉄の「組織的妨害」という言葉を使って激しく非難した。
当初の予定だった2011年9月の開通は怪しくなっている。NTVの投資額は10億ユーロ(約1140億円)に及び、25両の新造車両を投入するプロジェクトだけに、モンテゼーモロは真剣だ。
さらに1000人ほどの新しい雇用を創出予定でもあり、イタリアでは電信電話以来の大規模な自由化のきっかけを与えるのに、この待遇はおかしいというのがモンテゼーモロの訴えである。そのため彼は、ベルルスコーニ首相に直談判すべく、早期の面会を要求している。
このニュースを知ったボクは、「イタリアの鉄道網はただでさえ周辺国から遅れているのに」と思わず嘆いてしまった。考えてみれば、イタリアに住んでいるとさまざまな障壁が多い。今回は交通や通信関係を中心に、このあたりを考えてみた。
規制の壁
イタリアのドライバーにとって、最も身近な障壁はガソリンスタンドであろう。アウトストラーダのサービスエリア内のものは基本的に年中無休だが、一般のスタンドは、「当番店」以外土曜午後と日曜定休が原則だ。
この当番を決めているのが、地元のガソリンスタンドで作る組合である。そして、その組合を束ねる全国組織が存在し、彼らはここ数年、政府が目指す出店規制の緩和に強く反対し、ときにはストを決行している。
隣国フランスでは、カルフールをはじめとする巨大スーパーマーケットが敷地の一部にスタンドを併設している。完全セルフサービスで給油したあと、料金所までクルマを動かし、乗ったまま支払いができるドライブスルーだ。
窓ふき、空気圧調整といったサービスはないかわり、リッターあたり十数ユーロセント安い。ボクなどにすれば「これでいいのだ」という感じである。
しかしイタリアでは前述のように既存店の反対が根強く、一部大都市を除いて、なかなかこうしたスーパー併設店が普及しないのだ。
道路でも不条理なことが多い。わが家のあるシエナからフィレンツェまでのスーペルストラーダ(無料の自動車専用道路)は、舗装が極めて悪い。年中補修工事をしているのだが、しばらくするとまたボコボコになってしまう。ボクのところに外国から来る客は、異口同音に「ひでえ道だな」と言う。
一度ちゃんとした舗装改修工事をすれば、こんなことにならないのにと常々思っていた。同じ道路管理団体が管理している他のスーペルストラーダよりも、明らかに舗装の質を落としているのだ。
先日ようやくその理由がわかった。他のスーペルストラーダは110km/h制限なのに対し、問題のシエナ−フィレンツェ間は完成年度が古い90km/h制限の道だ。90km/h制限の道には、たとえ交通量が増えても110km/h級道路のハイクオリティ舗装が出来ない規則なのである。日本でも、たびたび規制の壁が問題になるが、イタリアもかなりのものである。
シンプルにいこう!
しかし、イタリアが日本よりも進んでいたこともある。そのひとつは有料道路のノンストップ料金収受システム、日本でいう「ETC」だ。そのイタリア版である「テレパス」は、日本よりも12年も早い1989年に導入された。
テレパスは、日本のETCと認識するシステムがちょっと異なる。日本方式が地上読み取り装置と車載器の両方向から電波を出しているのに対して、テレパスは読み取り装置からの一方通行の電波のみで済ませる簡単な方式だ。そのため、車載器は安価に製造できる。
テレパスは1.24ユーロ(約140円)の月額基本料はかかるものの、車載器自体はクレジットカードを持って、主要高速インターに併設された窓口に行くと、かなり以前からタダで手に入れることができる。
マジックテープによる窓ガラス貼り付け式かつ配線不要なので、自分であっという間に取り付けられる。
さらにイタリアでは現在、ナンバープレート自動読み取りによる自動料金収受も検討されている。実現すれば、車載器すら要らなくなるわけだ。
ボクは「イタリアという国は、料金を取ることになると気合が入るなぁ」と笑ういっぽうで、日本みたいに差し込むカードもなく、車載機とアンテナの仕様によって2ピースとか3ピースタイプなんてものをもたないイタリア式標準車載器を眺めるたび、通行料金を読み上げて知らせる日本のETCはちょっと過剰品質だと思ってしまうのも事実である。
イタリアが一歩進んでいるのは、エアラインの世界でも同じだ。近年イタリアの空港には、欧州各国の格安航空会社が次々と乗り入れている。まあこれに関しては、EU全体の協定や方針にしたがったものであるから、イタリアの努力というのは必ずしも正確ではない。
しかし、早くから門戸を開いた空港のアクションの速さは評価すべきだ。また、今や格安航空を受け入れない地方空港が衰退する気配さえ見えてきたのは、いかにそれが社会に溶け込んでいるかを示している。
他にも小さなことでは、携帯電話の番号ポータビリティーも日本よりも早かった。また、スマートフォンのSIMフリー化も一歩先んじている。プリンターの互換インクが生協などで積極的に売られているのも、進んでいるといえまいか。
導入しよう、イタリア流
かくもイタリアに住んで観察していると、遅々として進まないことと、意外にも日本より進んでいることの双方を実感する。
ついでにいうと、日本で2007年に浮上した障害者手帳の不正取得事件や、今年大きな問題となった年金受給者の死後も遺族が年金を受け取り続けるといった詐欺事件は、イタリアでは以前から起きていたことだ。とくに後者は、イタリア&日本という世界屈指の長寿国で起きていることは、なんとも皮肉だ。
というわけで、いつになくキーボードを打つ手が熱くなった筆者だが、最後に日本もイタリア式を導入してほしいことがある。スーパーマーケットのレジだ。
他の欧州諸国でも同様のものがみられるが、イタリアではレジの店員さんはいすに座って仕事をしている。立って仕事をするより、明らかに楽である。
日本式「まごころ精神」からすると、「座ったまま客に接するなど、もってのほか」というセンスが導入を思いとどまらせるかもしれない。でも、銭湯の番台だって長年座ってますよねえ。
(文=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA/写真=NTV、大矢アキオ)
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大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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