さらば「ホンダCB1300」! 偉大な「BIG-1」の系譜とホンダ・ビッグバイクの未来を思う
2025.03.17 デイリーコラム長い長い歴史に幕が下りる
すでにwebCGでも報じているとおり、「ホンダCB1300」シリーズが、この2月発売の「ファイナルエディション」をもって販売を終えることとなった(参照)。
最初にこのニュースを見て思ったのは、「1100だけじゃなく1300も?」ということである。わからない人も多いと思うので説明を加えると、ホンダのモーターサイクルのラインナップには、少し前まで、直列4気筒エンジンを積んだ1000cc以上のネイキッドバイクとして「CB1100」と「CB1300スーパーフォア/スーパーボルドール」があった。前者は空冷、後者は水冷エンジンであることが大きな違いだ。このうち、CB1100は2021年に国内向けの生産終了が発表された。公表こそしていなかったが、排出ガス規制にパスできないことが理由といわれている。でもこの時点では、4気筒のビッグネイキッドにはまだ水冷のCB1300があるので、空冷へのこだわりを封印すれば選択肢はあった。ところが今回、その1300もファイナルモデルが発表されたので驚いたのだ。
とはいえヒストリーを調べてみると、販売終了に納得もした。現行のCB1300が発売されたのは、今から20年以上も前の2003年。初代CB1300の登場は1998年で、これらのルーツにあたる「プロジェクトBIG-1」こと「CB1000スーパーフォア」のデビューは、1992年のことだったからだ。
「BIG-1」が契機となったビッグバイクの隆盛
ホンダには1969年の「CB750フォア」、その10年後に発売された「CB750F」と世代を重ねてきた、“CB 4気筒ナナハン”の系譜がある。ところが1980年代に入ると、スリムでバンク角が深くとれる水冷V型4気筒を開発し、これを耐久レースなどの主力マシンとして位置づけた。
自ら築いた資産があるのに、新たな挑戦をするところがホンダらしいが、日本ではV4エンジンは音の面であまり評価されず、「スズキGSX750Sカタナ」や「カワサキGPZ750Rニンジャ」など、直列4気筒の個性的なライバルに人気を奪われつつあった。そんな状況もあって、ホンダは排気量750ccという国内向けバイクの自主規制が撤廃されたのを機に、水冷化した1000cc直列4気筒を積むネイキッドを送り出した。これがCB1000スーパーフォアだ。
なによりも印象的だったのは、水冷エンジンの機能美を前面に押し出し、そこに最強の空冷CBといわれた「CB1100R」の紅白カラーの燃料タンク/リアカウルを融合させたようなデザインだ。その存在感はまさにBIG-1。まもなく大型二輪免許の教習所取得が解禁されたことも追い風となって、CBは人気を取り戻した。
ライバルも黙っているわけがなく、「ヤマハXJR1200」「カワサキZRX1100」など、排気量で上回るモデルを相次いで送り出してきた。そこでCBも1300ccにキャパシティーを上げ、優位に立とうとしたのである。
かつての若者も今や還暦
こうして日本ではリッターオーバーのビッグバイクが隆盛していったわけだが、海外に目を転じると、ここまでの大型車となると欧州ではカウル付きのツアラー、米国ではクルーザースタイルが一般的だ。欧州でもクラシカルなスタイルのネイキッドバイクはあるが、その多くは2気筒だ。4気筒ネイキッドはジャパンオリジナルであり、それに誇りを感じる日本のライダーたちに支えられてきたカテゴリーなのだ。でもそんなライダーたちも、年齢を重ねていく。CB1000が生まれて30年以上。あの頃30歳ぐらいだった人も今は還暦だ。となると、大きく重いバイクはつらい。
僕も数年前にCB1300のハーフカウル付きであるスーパーボルドールに試乗したことがあり、たしかに4気筒ならではのなめらかな吹け上がりやフレキシブルなトルク特性、リニアなレスポンスに感心したものの、250kgを優に超える車体はけっこう気をつかった。
最近、欧州で600~800ccのスポーツモデルに注目が集まっているのも、ライダーの高齢化と関係があるといわれている。いっぽうの若者は、クルマでもそうだが、シリンダーの数や排気量の大きさといったヒエラルキーはあまり気にしない様子。維持費を重視して250ccを選ぶ人がいれば、20代でハーレーダビッドソンというライダーもいる。
ホンダは過去を振り返らない?
いま、ホンダ以外の日本メーカーのラインナップを見ると、1000cc前後のオーセンティックなスタイルのネイキッドスポーツは、「ヤマハXSR900」「カワサキZ900RS」ぐらい。どちらも1000cc以下だし、ヤマハはお家芸でもある3気筒だ。対するホンダは、2022年にカフェレーサースタイルの「CB1000R」を送り出したものの、2024年に生産終了。代わりに今度は「CB1000ホーネット」を送り出した。CB750フォア以来の系譜は絶やしたくないが、レトロ路線にはいきたくないというこだわりを感じ取れる。
さらに2024年秋には、水冷V型3気筒電動ターボエンジンも発表していて(参照)、これがビッグバイクの次世代パワーユニットになるというウワサもある。個人的には、ユニットの評価次第ではその可能性もありそうだとは思うのだけれど、クルマも含め、ホンダほど先が読めないメーカーはない。数年後にはやっぱり、大排気量4気筒でBIG-1が復活、というウワサが流れてくるかもしれない。
(文=森口将之/写真=本田技研工業、郡大二郎、ハスクバーナ/編集=堀田剛資)

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
-
トランプも真っ青の最高税率40% 日本に輸入車関税があった時代NEW 2025.9.17 トランプ大統領の就任以来、世間を騒がせている関税だが、かつては日本も輸入車に関税を課していた。しかも小型車では最高40%という高い税率だったのだ。当時の具体的な車両価格や輸入車関税撤廃(1978年)までの一連を紹介する。
-
スズキが未来の技術戦略を発表! “身近なクルマ”にこだわるメーカーが示した問題提起 2025.9.15 スズキが、劇的な車両の軽量化をかなえる「Sライト」や、次世代パワートレインなどの開発状況を発表。未来の自動車はどうあるべきか? どうすれば、生活に寄りそうクルマを提供し続けられるのか? 彼らの示した問題提起と、“身近なクルマ”の未来を考える。
-
新型スーパーカー「フェノメノ」に見る“ランボルギーニの今とこれから” 2025.9.12 新型スーパーカー「フェノメノ」の発表会で、旧知の仲でもあるランボルギーニのトップ4とモータージャーナリスト西川 淳が会談。特別な場だからこそ聞けた、“つくり手の思い”や同ブランドの今後の商品戦略を報告する。
-
オヤジ世代は感涙!? 新型「ホンダ・プレリュード」にまつわるアレやコレ 2025.9.11 何かと話題の新型「ホンダ・プレリュード」。24年の時を経た登場までには、ホンダの社内でもアレやコレやがあったもよう。ここではクルマの本筋からは少し離れて、開発時のこぼれ話や正式リリースにあたって耳にしたエピソードをいくつか。
-
「日産GT-R」が生産終了 18年のモデルライフを支えた“人の力” 2025.9.10 2025年8月26日に「日産GT-R」の最後の一台が栃木工場を後にした。圧倒的な速さや独自のメカニズム、デビュー当初の異例の低価格など、18年ものモデルライフでありながら、話題には事欠かなかった。GT-Rを支えた人々の物語をお届けする。
-
NEW
第844回:「ホンダらしさ」はここで生まれる ホンダの四輪開発拠点を見学
2025.9.17エディターから一言栃木県にあるホンダの四輪開発センターに潜入。屋内全天候型全方位衝突実験施設と四輪ダイナミクス性能評価用のドライビングシミュレーターで、現代の自動車開発の最先端と、ホンダらしいクルマが生まれる現場を体験した。 -
NEW
アウディSQ6 e-tron(4WD)【試乗記】
2025.9.17試乗記最高出力517PSの、電気で走るハイパフォーマンスSUV「アウディSQ6 e-tron」に試乗。電気自動車(BEV)版のアウディSモデルは、どのようなマシンに仕上がっており、また既存のSとはどう違うのか? 電動時代の高性能スポーツモデルの在り方に思いをはせた。 -
NEW
第85回:ステランティスの3兄弟を総括する(その3) ―「ジープ・アベンジャー」にただよう“コレジャナイ感”の正体―
2025.9.17カーデザイン曼荼羅ステランティスの将来を占う、コンパクトSUV 3兄弟のデザインを大考察! 最終回のお題は「ジープ・アベンジャー」だ。3兄弟のなかでもとくに影が薄いと言わざるを得ない一台だが、それはなぜか? ただよう“コレジャナイ感”の正体とは? 有識者と考えた。 -
NEW
トランプも真っ青の最高税率40% 日本に輸入車関税があった時代
2025.9.17デイリーコラムトランプ大統領の就任以来、世間を騒がせている関税だが、かつては日本も輸入車に関税を課していた。しかも小型車では最高40%という高い税率だったのだ。当時の具体的な車両価格や輸入車関税撤廃(1978年)までの一連を紹介する。 -
内燃機関を持たないEVに必要な「冷やす技術」とは何か?
2025.9.16あの多田哲哉のクルマQ&Aエンジンが搭載されていない電気自動車でも、冷却のメカニズムが必要なのはなぜか? どんなところをどのような仕組みで冷やすのか、元トヨタのエンジニアである多田哲哉さんに聞いた。 -
トヨタ・ハリアーZ“レザーパッケージ・ナイトシェード”(4WD/CVT)【試乗記】
2025.9.16試乗記人気SUVの「トヨタ・ハリアー」が改良でさらなる進化を遂げた。そもそも人気なのにライバル車との差を広げようというのだから、その貪欲さにはまことに頭が下がる思いだ。それはともかく特別仕様車「Z“レザーパッケージ・ナイトシェード”」を試す。