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BMW M5(4WD/8AT)

Mの魂を感じる 2025.04.09 試乗記 渡辺 慎太郎 「BMW M5」が第7世代へと進化。V8エンジンを核としたプラグインハイブリッドパワートレインはシステム最高出力が727PS、最大トルクが1000N・mと、スーパースポーツの水準に達している。日本の公道でその能力の(ごく)一部を味わってみた。
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V8サウンドを心ゆくまで

クルマを引き取り、ユルユルと都内をしばらく走っていたら、あることに気がついた。かすかにV8ツインターボの音が聞こえているのに、回転計の針は「0」のところに張り付いたままだった。プラグインハイブリッド車(PHEV)になったのは知っていたけれど、バッテリー残量が十分残っておらず、ずっとエンジンで走っていると信じて疑わなかったのだ。最新型のBMW M5は、EVモードで走行していると、V8サウンドがスピーカーから流れるようになっている。それがかなりリアルなものだから、違和感をまったく覚えずすっかりだまされてしまった。

EVモードのサウンドをどうするかについてはどのメーカーも頭を悩ませているようで、近未来のクルマの音なんか誰にも分からないのに勝手に“近未来風の音”として、「ヒューン」だの「キュイーン」だのがあてがわれている場合が多い。BMW M社の開発チームとこれまで何度も話をしたことがあるけれど、彼らのクルマに対するこだわりは半端なく、「そこまでしなくても」とこっちがちょっと引いてしまうくらいのレベルにある。

確かに、モーターで走行中はモーターを想起させる音でなければならないなんて決まりはなく、エンジン音にしてもいいわけで、なんなら自慢のV8サウンドを始終聞かせてあげようなんて思いが彼らにはあったのかもしれない。M5を選んでいる時点で、オーナーは(それがたとえPHEVになったとしても)V8ツインターボを喜んで受け入れているはずだから、EVモードでV8の音がしたとしてもそれを不快だと感じる人はいないだろう。M5は、そういう前提が成り立つモデルでもある。

新型「BMW M5」の国内導入が発表されたのは2024年10月2日のこと。1984年デビューの初代から数えて7代目にあたり、開発コードはG99が与えられている。
新型「BMW M5」の国内導入が発表されたのは2024年10月2日のこと。1984年デビューの初代から数えて7代目にあたり、開発コードはG99が与えられている。拡大
新型は「M5」としては初の電動化モデルであり、プラグインハイブリッド車に生まれ変わった。初物ながら究極ともいえるスペックを実現しており、システムトータルで最高出力727PS、最大トルク1000N・mを発生する。
新型は「M5」としては初の電動化モデルであり、プラグインハイブリッド車に生まれ変わった。初物ながら究極ともいえるスペックを実現しており、システムトータルで最高出力727PS、最大トルク1000N・mを発生する。拡大
前後ともにオーバーフェンダーが装着されており、全幅は普通の「5シリーズ」よりも70mmも拡大している。
前後ともにオーバーフェンダーが装着されており、全幅は普通の「5シリーズ」よりも70mmも拡大している。拡大
ロワバンパーの開口部の奥をのぞいてみる。ラジエーターはL字型にレイアウトされており、普通の垂直方向だけでなく、路面と水平方向にも広がっていることが分かる。
ロワバンパーの開口部の奥をのぞいてみる。ラジエーターはL字型にレイアウトされており、普通の垂直方向だけでなく、路面と水平方向にも広がっていることが分かる。拡大
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選びきれないほどの設定項目

新型M5は2024年10月に日本に導入され、12月には「M5ツーリング」も追加されている。BMWの積極的な商品戦略によるラインナップの拡充には目を見張るものがあり、ワゴンが売れない日本においても「5シリーズ」のツーリングだけでディーゼルが2タイプ、BEVの「i5」が3タイプ、そしてM5の計6車種を取りそろえている。ここまでの豊潤な商品群が、実際の販売台数をどれくらい押し上げているのかは分からないけれど、「こんな仕様があったらいいのに」と興味を示してくれたお客さまを、ひとりも取りこぼさないという気概のようなものは伝わってくる。

新型M5の化粧方法はこれまでの歴代M5の流儀にほぼのっとったもので、専用のグリルやバンパー、前後のオーバーフェンダー(前+75mm、後+48mm)、Mスポーツエキゾーストシステムなどが装備される。そして見た目よりもこだわりが感じられるのはエクステリアに採用されている素材だ。スチール製のリアフェンダーと樹脂製の前後バンパーを除けば、ボディーパネルはすべてアルミ製でルーフはCFRP製。もちろんすべて、軽量化のための施しである。

インテリアの風景はノーマルの5シリーズをベースとしながらも、“M”であることをさりげなく主張するいくつかのアイテムが散見される。そしてPHEV専用となるスイッチがセンターコンソールにある「Mハイブリッド」ボタンだ。「ダイナミックプラス」「ダイナミック」「ハイブリッド」「エレクトリック」「eコントロール」の5つから、ハイブリッドシステムのモード選択ができる。ノーマルはハイブリッドで、ダイナミックの2つはモーターとエンジンをよりスポーティーな方向に制御する。さらに、Mモデルにはもれなく付いてくる「セットアップ」ボタンを押すと、各部の細かいチューニングが可能となり、駆動システムに回生、ドライブロジック、シャシー、ステアリング、ブレーキ、Mドライブ、Mサウンドとその数は実に8項目にも及ぶ。それぞれにコンフォートやスポーツなど2~3段階の設定ができるので、その組み合わせの総数は途方もない。

0-100km/h加速のタイムは3.5秒。車重が400kg以上も増えているため、ピュアなV8エンジンだった先代の「M5コンペティション」(3.3秒)よりもちょっとだけ遅い。
0-100km/h加速のタイムは3.5秒。車重が400kg以上も増えているため、ピュアなV8エンジンだった先代の「M5コンペティション」(3.3秒)よりもちょっとだけ遅い。拡大
フロントに積まれる4.4リッターV8ツインターボのS68型ユニットは単体で585PSと750N・mを発生。「M3/M4」のようなタワーバーがないのは、居抜きで電気自動車にも対応する高剛性ボディーゆえだろうか。
フロントに積まれる4.4リッターV8ツインターボのS68型ユニットは単体で585PSと750N・mを発生。「M3/M4」のようなタワーバーがないのは、居抜きで電気自動車にも対応する高剛性ボディーゆえだろうか。拡大
タイヤサイズはフロントが285/40ZR20でリアが295/35ZR21。この試乗車は「ハンコック・ヴェンタスS1 evo Z」を履いていた。
タイヤサイズはフロントが285/40ZR20でリアが295/35ZR21。この試乗車は「ハンコック・ヴェンタスS1 evo Z」を履いていた。拡大
リアには巨大なディフューザーを装備。せり立ったフィンが物々しい。
リアには巨大なディフューザーを装備。せり立ったフィンが物々しい。拡大

「2WD」モードはしかるべきステージで

M5に搭載される4.4リッターV8ツインターボ+モーターのパワートレインはM社が独自開発したとされるプラグインハイブリッドユニットで、「M1」以来のM専用モデルとなった「XM」からの流用でもある。最高出力585PS/最大トルク750N・mというエンジン単体のパワースペックはこれだけでも十分手に余るのだけれど、197PSを発生するモーターと組み合わされることで、システム出力は727PS、システムトルクは1000N・mにまで上乗せされる。容量22.1kWhの駆動用バッテリーにより、EV走行換算距離(WLTCモード)は最大70kmと公表されているので、近距離ドライブであればV8サウンドを聞きながらもガソリンは一滴も使わずに済むかもしれない。

駆動形式はM xDriveの4WD。通常のxDriveとの決定的な違いは、「2WD」モードが選べる点だろう。デフォルトの設定はxDriveと同様に、状況に応じて前後の駆動力配分を随時可変させるものだが、「Mダイナミック」モードにするとDSCがオフになり、後輪への駆動力配分を増やす。そして2WDモードでは前輪の駆動力を断ち、DSCを含む挙動を制御するシステムのほとんどが休止状態となる。通常モードでは基本的にトラクションロスがほとんどなく、4輪がしっかりと路面を駆ってプラグインハイブリッドのパワーを圧倒的な加速感に変換する。Mダイナミックモードにすると、通常モードではなんともなかった局面で、後輪がズルッと滑ったりする。しかしドライバーにはその前兆から伝わってくるので備えることができるし、グリップを失ったあともスロットルペダルやステアリングで容易に立て直すことができる。2WDモードは極端に言えば、ドライバーの運転スキルがそっくりそのままクルマの挙動となって表れるわけで、万が一のことを考えると公道ではちょっと試しづらい。

総電力量22.1kWhもの駆動用リチウムイオンバッテリーを搭載し、WLTCモードのEV走行換算距離は70km。ただしハイブリッド燃料消費率は9.6km/リッター(WLTCモード)とだいぶ悲観的な数字だ。
総電力量22.1kWhもの駆動用リチウムイオンバッテリーを搭載し、WLTCモードのEV走行換算距離は70km。ただしハイブリッド燃料消費率は9.6km/リッター(WLTCモード)とだいぶ悲観的な数字だ。拡大
この試乗車はインテリアにブラックとレッドのコンビカラーをチョイス(オプション)。アンビエントライトはM専用カラーが選べる。
この試乗車はインテリアにブラックとレッドのコンビカラーをチョイス(オプション)。アンビエントライトはM専用カラーが選べる。拡大
日本独自の仕様としてメリノレザーのシート表皮やアルカンターラのルーフライナー、Bowers & Wilkinsダイヤモンドサラウンドサウンドシステムなどが標準装備となっている。自動車の内装でこんなにも鮮やかなレッドは珍しい。
日本独自の仕様としてメリノレザーのシート表皮やアルカンターラのルーフライナー、Bowers & Wilkinsダイヤモンドサラウンドサウンドシステムなどが標準装備となっている。自動車の内装でこんなにも鮮やかなレッドは珍しい。拡大
ボディーの全長が5095mmもあるため、後席の広さはご覧のとおり。フロントよりも赤いレザーの使用面積が広く、長時間見続けると目の疲れが顕著だ。
ボディーの全長が5095mmもあるため、後席の広さはご覧のとおり。フロントよりも赤いレザーの使用面積が広く、長時間見続けると目の疲れが顕著だ。拡大

すべては制御のたまもの

市街地でも高速道路でも、一般道を普通に走っているときのM5は平和である。同時に、人によっては「少し硬い」と感じるかもしれない減衰の早いダンパーの所作と、とにかくびくともしないボディーの剛性感が印象の多くを占める。それでもBEVのi5とプラットフォームを共有することで得た3mを超えるホイールベースは、乗り心地や直進安定性に有利に働いているし、EVモードならパワートレイン由来の音や振動もないので、快適性に優れた高級セダンとして成立している。

ワインディングロードなんかに入ってちょっとスポーティーな運転を試みようとすると、M5はスポーツカーに化ける。特に秀逸なのはボディーコントロールだ。コーナー手前でのブレーキング時に発生するピッチング方向の動きからすでにばね上のコントロールははじまっていて、前輪に荷重が偏らないよう平衡を保ちつつ、ターンインからわずかにロールしつつもほぼ同時にヨー方向の動きもあって、あっという間に旋回姿勢が整う。このときはほぼニュートラルステアに近い状況で安定感もあり、再加速へスムーズに移行できる。こうした一連の流れが、進入速度を上げていってもほとんど変わらないのである。自分は己の運転スキルをわきまえているつもりなので、こんなに上手に運転できるはずがないと疑心暗鬼になるほどだ。

実際には、後輪操舵がリアタイヤを動かし、eデフが左右輪の、M xDriveが前後輪の駆動力配分をそれぞれ最適化し、電子制御式ダンパーが減衰力を調整するという協調制御によってもたらされている挙動である。そして、その協調制御のプログラムを書いたのはAIではなく人であり、M社のエンジニアチームがこのクルマをどう動かしたいのかという気持ちが、じわじわと伝わってくるものでもあった。

(文=渡辺慎太郎/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝/車両協力=BMWジャパン)

新型にはステーションワゴンの「M5ツーリング」が設定されている(3代目と5代目にもあった)。ツーリングが日本に導入されるのは初めてだ(セダンと同価格)。
新型にはステーションワゴンの「M5ツーリング」が設定されている(3代目と5代目にもあった)。ツーリングが日本に導入されるのは初めてだ(セダンと同価格)。拡大
マットな質感の赤いスタート/ストップボタンが主張するセンターコンソール。「セットアップ」や「Mハイブリッド」などのスイッチは触覚フィードバック付きのタッチ式だ。
マットな質感の赤いスタート/ストップボタンが主張するセンターコンソール。「セットアップ」や「Mハイブリッド」などのスイッチは触覚フィードバック付きのタッチ式だ。拡大
ドライブモードのセットアップ画面。好きな組み合わせを登録しておけば、ステアリングホイールの「M1」「M2」ボタンで呼び出せる。
ドライブモードのセットアップ画面。好きな組み合わせを登録しておけば、ステアリングホイールの「M1」「M2」ボタンで呼び出せる。拡大
トランク容量は466リッターで、深さ、奥行きとも十分。これで足りなければ500~1630リッターの「M5ツーリング」がある。
トランク容量は466リッターで、深さ、奥行きとも十分。これで足りなければ500~1630リッターの「M5ツーリング」がある。拡大

テスト車のデータ

BMW M5

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5095×1970×1510mm
ホイールベース:3005mm
車重:2400kg
駆動方式:4WD
エンジン:4.4リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:585PS(430kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:750N・m(76.5kgf・m)/1800-5400pm
モーター最高出力:197PS(145kW)/6000rpm
モーター最大トルク:280N・m(28.6kgf・m)/1000-5000rpm
システム最高出力:727PS(535kW)
システム最大トルク:1000N・m(102.0kgf・m)
タイヤ:(前)HL285/40ZR20 111Y XL/(後)HL295/35ZR21 110Y XL(ハンコック・ヴェンタスS1 evo Z)
ハイブリッド燃料消費率:9.6km/リッター(WLTCモード)
EV走行換算距離:70km(WLTCモード)
充電電力使用時走行距離:75km(WLTCモード)
交流電力量消費率:310Wh/km(WLTCモード)
価格:1998万円/テスト車=2199万円(※取材した2025年2月時点での価格)
オプション装備:ボディーカラー<フローズンディープグレー>(44万7000円)/レザーメリノインテリア<バイカラー、レッド×ブラック>(6万4000円)/Mレーストラックパッケージ<Mドライバーズパッケージ、Mカーボンセラミックブレーキ、20/21インチMライトアロイホイール>(149万9000円)

テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:6438km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:459.5km
使用燃料:68.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.7km/リッター(満タン法)/6.9km/リッター(車載燃費計計測値)

BMW M5
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