第164回:危機一髪! 軍警察官が大矢アキオを包囲!? 大矢アキオ式パリサロン漫遊記(後編)
2010.10.16 マッキナ あらモーダ!第164回:危機一髪! 軍警察官が大矢アキオを包囲!?大矢アキオ式パリサロン漫遊記(後編)
駅から始まっていた
(前編からのつづき)
2010年パリモーターショー(パリサロン)の主催者が、あるウェブサイトの調査として紹介するところによれば、現在フランス国内を走る自動車のうち、購入1年未満のクルマはわずか7%という。いかにユーザーの財布のヒモを緩めさせるかに、各メーカーは知恵を絞らなければならない。
さて、流浪のコラムニスト大矢アキオは、今回もパリ式スイカ「ナビゴー」を駆使してバス・地下鉄を乗り継ぎ、会場の最寄り駅であるポルト・ド・ベルサイユに降り立った。
階段を見て、思わず「おぬし、なかなかやるのう」と独り言をつぶやいてしまった。近くで見るとなんだかわからないが、遠くから見るとジープの顔になっているのだ。思えば2年前も、同じクライスラーが「一見旅行ツアーや香水の広告にみえるが、よく読むとダッジの宣伝」という広告で、この駅をまるごとジャックしていた。今回はそれに続くものだ。気の早いボクなどは、2年後はどんな手で迎えてくれるのか、今から期待してしまうではないか。
報道のとおり、今回もニューモデルが百花繚乱(りょうらん)となったが、その傍らにもよく観察すると興味深いディスプレイが数々あった。
まずは「デ・トマゾ半世紀(1959年創業だから正確には51年)」のスタンドである。展示はフランスのクラブメンバー所有による1976年グループ4仕様「パンテーラ」とデ・トマゾ最後のクルマとなった「グアラ」のみ。したがって、悲しいかな一般公開日も立ち止まって観賞する人はほとんど見られなかった。
だが実はこれ、2011年3月のジュネーブモーターショーで、デ・トマゾが復活する「のろし」である。現在、デ・トマゾの商標を所有しているのは、トリノの実業家ジャンマリオ・ロシニョーロ氏だ。彼は経営危機にあったピニンファリーナから工場を買収していることもあり、今後この名門ブランドをどのように育ててゆくのか、展開が注目される。
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総革張りボディのクルマを展示するブースもあった。同様の試みは、近年他のフランスのカロスリでも行われているが、今回は「カーフェイス」という企業の「スマート・フォーツー」をベースにしたものだ。
こうしたクルマは、ご想像のとおり手洗いが原則で、同様にガレージ収納も必須だ。ただし、革張り部分について、カーフェイス社は「8年保証」という自信をみせる。秘密は、その技術の源だ。自動車以上に雨風にさらされるモーターヨットの革張り技術が応用されているのだという。なるほど、モンテカルロでビキニ美女が寝そべっているような豪華ヨット上に据えつけられている革張りソファの、あの手法か。
ミニチュアカー空箱にカッとなる
プロモーションについても、ちょっとひねったアイデアに出会った。
報道関係者公開日、ミニチュアカーの箱をお姉さんが配っていた。でも受け取ってみると、空箱でないか。思わず、足元に落ちているのではないかと見回してしまった。よく見ると、箱には「何か見つかりませんか? 16時45分、ロータスのスタンドであなたのコレクションは完結します」と記されている。
ということは、ロータスのスタンドに行けば、うわさの新型「エスプリ」か何かのミニカーがもらえるのか? ボクはお姉さんに詰め寄った。そばにいた外国人ジャーナリストも同様に詰め寄った。
ところが彼女の答えは、つれなくも「ないわヨ」だった。
ボクは思わずカッとなり、「JARO」に通報しようかと思った。でも、もう一度落ち着いて箱を読むと、縮尺のところに「1:1」と書いてあるではないか。つまり実車を見においでというジョークなのだ。己の浅はかさを恥じた。
報道関係といえば、こんな「改善」もあった。
2年前のパリサロンでボクは、収集した重い報道資料を提げて会場を歩き回った過労から、晩に突如めまいがして倒れ、安ホテルの従業員に迷惑をかけたという苦い経験がある。同様に、その重さに困っていたジャーナリストは多かったのだろう。捨てられた報道資料の外箱や袋で、プレスセンター内外のゴミ箱があふれかえっていた。環境技術を競うショーで、まったくエコじゃないと憤ったものだ。
ところが今年は、多くのメーカーで、報道資料のUSBフラッシュメモリ化を以前にも増して進めてくれた。それどころか、日産やオペルなどはフラッシュメモリを持参すれば、報道資料をコピーしてくれるサービスを行っていた。「マイはし」ならぬ、「マイフラッシュメモリ」化である。
この機会に一般公開日で配布するカタログも、データ配布を選べるようにしちゃったら? と思う。データ配布の場合は「ディーラーでのカー用品購入割引特典」なんてものを付加すると、より普及が加速し、かつお客さんも店に呼べる一石二鳥となるかもしれない。
愉快な軍警察
いっぽう、フランス国家警察とともに交通行政に携わっている軍警察「ジャンダルムリ」も出展していた。彼らの全任務のなかで交通管制は15%にとどまるが、管轄地域は総延長80万kmにも及ぶという。そうした日頃の活動を啓蒙(けいもう)するのが目的である。
警察車両のほかに移動式速度違反取り締まり機が展示してあったのでボクが見ていると、隊員のおじさんが近づいてきて「車両は400メートル離れたものを狙う。新型機種の取り替えインターバルは4、5年くらいかな」などと得意げに説明してくれた。
新車取材でみんな血眼になっているプレスデイに、こうした啓蒙展示に来て遊んでいる筆者が、それもガイジンであることが珍しかったのだろう。まもなく他の隊員たちも集まってきて、包囲されてしまった。そして、速度測定を実演してもらえることになった。
通路を勢いよく走るボクに、隊員が取り締まり機を向ける。そんなことをしていると、別の隊員が笛こそ吹かなかったものの「スピード超過!」とボクに向かって怒鳴った。(そんなはずないってば)
周囲のスタンドを見学していた人たちは、何が起きたかと振り返る。なんと好感のもてる、愉快な軍警察官よ。ボクは再来年の再会を誓って会場を後にした。路上では、彼らとなるべくお会いしたくないですからね。
(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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