アウディA3スポーツバック30 TFSI Sライン(FF/7AT)
不満は最小限 2025.08.25 試乗記 「アウディA3」の最新モデルでは、内外装がブラッシュアップされたのはもちろんのこと、なんとエンジンを1リッターから1.5リッターへと変更。排気量1.5倍の大盤振る舞いだ。ハッチバックボディーの「スポーツバック」を試す。内外装の質感がアップ
“大幅アップデート”をうたう最新のA3は、2024年12月に国内発売となり、年明けから本格的に上陸しはじめた。そういえば、A3と基本骨格の大半を共有する「フォルクスワーゲン・ゴルフ」の改良モデルも、同様に2025年初頭から国内での納車がはじまっている。
ちなみに本国発表は、ゴルフが2024年1月、A3が同年3月だった。いずれにしても、今回の改良は、本来であれば現行型のモデルライフ折り返し地点における最大規模のマイナーチェンジ……になるはずである。しかし、近い将来にエンジン搭載車を廃止すべく動いていた欧州メーカーの多くが、最近になってパワートレイン戦略の見直しを迫られている。それはアウディも例外ではなく、このA3も当初予定よりも延命されるかもしれない。
それはともかく、ゴルフの改良が、賛否両論だったインターフェイスの刷新を明らかな主眼としているのに対して、A3では内外装デザインがトータルでアップデートされた。
フロントセクションはボンネットやヘッドライトの基本形状を踏襲するいっぽうで、センターグリルが最新アウディらしい横長のフレームレスとなった。また、デイタイムランニングライトの点灯パターンが複数(A3は4種)選べるようになったのも、最新アウディならでは。インテリアも基本デザインはそのままだが、センター画面が少し大きく(10.1→10.25インチ)なったほか、シフトセレクターを含むセンターコンソール、空調の吹き出し口などが変わり、ドリンクホルダーにも間接照明がしこまれた。聞けば、市場では内装の質感に対する声が大きかったそうだ。
また、先進運転支援システムも後ろ方向のセンサーが全車標準化。アウディでいうサイドアシストやイグジットワーニング、そしてリアクロストラフィックアラートなどが、この通常のA3にも備わるようになった。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
さすが4気筒の騒音&振動
……と、新しいA3のアップデート内容は、良くも悪くも定石どおりといっていい。ただ、日本仕様のA3にかぎると、エンジンまでもがまったく新しくなった。従来の1リッター3気筒ガソリンターボから、1.5リッター4気筒ガソリンターボに置き換わったのだ。
もっとも、1.5リッターガソリンは本国には以前からあったので、グローバルでみると、今回はエンジンの“刷新”ではなく、ラインナップの“集約”と表現したほうが実態に近い。また、グレード名にある「30 TFSI」という記号に変更がないことからも想像できるように、ピーク性能は従来の3気筒のそれと大差ない。具体的には、116PSという最高出力は3気筒比で6PSアップ、220N・mという最大トルクは20N・mアップである。
新しいA3の運転席におさまると、なるほど以前より高級感は増した。改良前はゴルフと共通のツマミ式だったシフトセレクターは、独特のスライダー式となって“最新アウディ感”は確実に濃くなっている。ステアリングホイールもそうだが、こういう手が直接触れる部分が専用になると、ブランドの個性が感じ取りやすい。こんなことをいっては元も子もないが、規制でがんじがらめのこの時世、パワートレインやハンドリングの味つけを重箱のスミをつくようにイジるよりは、こうしてインターフェイスを専用化するほうが、一般ユーザーにはよほどわかりやすい。
改良前のA3でも、パワトレの音振(騒音・振動)は「3気筒とは思えない」と表現できるくらいには洗練されていた。しかし、さすがに源流から4気筒になると、その音振レベルも確実にグレードアップ(=静かで滑らか)している。実用域でのパンチ力は3気筒も4気筒も似たようなものだが、高回転域の最後のひと伸びは、ご想像のとおり4気筒に軍配が上がる。これもまた、改良前比で高級感を増す演出には効いている。
シャシーの所作はお見事
日本には2種類が用意される30 TFSIのうち、今回の試乗車はより高価でスポーツ志向の「Sライン」だった。Sラインはタイヤサイズが上級の「S3」と共通の225幅の18インチになることに加えて、サスペンションもS3同様に15mmローダウンする「スポーツサスペンション」となる。ただし、S3ではさらに電子制御可変ダンパーも加わるが、このA3のSラインは固定減衰ダンパーとなる。
というわけで、今回のA3の乗り心地は明確な引き締まり系となるが、しっかりと荷重移動させたときの接地感やステアリングの正確性は悪くなく、地にアシがついた低重心感は心地よい。また、直進性は高く、うねったような路面では目線の上下が少しあるものの、このクラスとしてはフラット感も十二分に高い。
まあ、ときおりリアがゴトつくのは、A3系では控えめなパワートレインとなる試乗車のリアサスペンションが、シンプルなトーションビームだからでもあろう。とはいえ、40偏平のネクセン製スポーツタイヤを無難に履きこなしている。すでに何度か試乗している改良版「ゴルフ8」と同様、そのシャシーの所作には熟成感がただよう。
エンジンが4気筒化されたことで、一部の好事家には「ノーズヘビーになったのでは?」と危惧する向きもあるかもしれない。車検証重量で比較すると、改良前の3気筒の同等グレードより前軸重で20kg(トータルの車両重量では30kg)ほど増えている。数値的に軸重20kgは小さくないが、もともとこの車格に1.5リッター4気筒の組み合わせは良くも悪くも定番的で、絶対的なバランスが悪かろうはずはない。実際、少なくとも単独で乗るかぎりはノーズヘビー感はまるでなく、むしろ、思った以上に軽快な身のこなしに感心したくらいだ。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
慣れればベストなレバー式ACC
試乗車には「Sラインプラスパッケージ」というセットオプションが追加されており、そこには「アウディドライブセレクト」も含まれる。モードによってパワトレやパワステのしつけが変わり、「ダイナミック」にすると操舵力はけっこう重くなる。ただ、それはお約束ではあるのだが、今どきの高級コンパクトならパワステはもう少し軽くても……と思わなくもない。
欧州メディアの試乗リポートなどを見ると、オプションで用意される「プログレッシブステアリング」が好評なのだが、日本仕様の30 TFSIでは手に入らない(日本でもS3には標準装備)のが残念だ。逆にいえば、2~3日の試乗で不満に思うのはそれくらいである。
近年の必須アイテムであるACC=アダプティブクルーズコントロール(A3ではオプション)の操作スイッチは、ゴルフのステアリングスイッチとは異なり、コラムツリー型をいまだに使う。ACC関連機能は充実するいっぽうで、このツリーの表面にも小さなスイッチが増え続けており、一見するだけではどれが何のスイッチかも判別しにくい。にわかオーナーの門外漢がいきなり使おうとすると、思わず「あ゛ー!!」という奇声を発したくなるのも否定しない。
ただ、ここ2カ月ほどはwebCGで試乗した「A5アバント」や「Q6 e-tron」、そして「ポルシェ・マカン」などに加えて、ベントレーに触れる機会も多く、このコラムツリー式ACCスイッチに慣れてきた。確かに個々のスイッチは小さくて煩雑なのだが、基本の操作ロジックを覚えてしまえば、使い勝手は意外と悪くない。今ではブラインドでの操作性は今どきのステアリングスイッチ式の多くより良好かも……と思えるくらいで、アウディ、ポルシェ、ベントレー、そして一部のランボルギーニが、これを使い続ける理由が少しわかった気がした。
また、エンジンの気筒増と排気量拡大がありながらも、17.9km/リッターというWLTCモード燃費は改良前の3気筒と変わらず、遠慮なくアクセルペダルを踏んでも、14~15km/リッターをしれっと維持する高度な実用燃費が健在なのはうれしい。
(文=佐野弘宗/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝/車両協力=アウディジャパン)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
アウディA3スポーツバック30 TFSI Sライン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4355×1815×1435mm
ホイールベース:2635mm
車重:1360kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:7段AT
エンジン最高出力:116PS(85kW)/5000-6000rpm
エンジン最大トルク:220N・m(22.4kgf・m)/1500-3000rpm
モーター最高出力:12PS(9kW)
モーター最大トルク:50N・m(5.1kgf・m)
タイヤ:(前)225/40R18 92Y XL/(後)225/40R18 92Y XL(ネクセン・エヌフィラ スポーツ)
燃費:17.9km/リッター(WLTCモード)
価格:427万円/テスト車=525万円
オプション装備:ボディーカラー<プログレッシブレッドメタリック>(7万円)/マトリクスLEDヘッドライト&ダイナミックターンインジケーター<前後>(11万円)/ナビゲーションパッケージ<MMIナビゲーションシステム、バーチャルコックピットプラス、アウディサウンドシステム>(27万円)/コンビニエンス&アシスタンスパッケージライト<フロントシート電動調整機能、アドバンストキーシステム、フロントシートヒーター、パークアシストプラス、サラウンドビューカメラ、アウディホールドアシスト、アダプティブクルーズアシスト&エマージェンシーアシスト、ハイビームアシスト、3ゾーンオートエアコン、3スポークマルチファンクションレザーステアリングホイール&パドルシフト>(40万円)/Sラインプラスパッケージ<パーシャルレザー、プライバシーガラス、アウディドライブセレクト>(13万円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:1046km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:378.8km
使用燃料:26.3リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:14.4km/リッター(満タン法)/14.6km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。