第158回:ドライブデートが最高ムードに変身? 驚異のスナック発見
2010.09.04 マッキナ あらモーダ!第158回:ドライブデートが最高ムードに変身?驚異のスナック発見
スパゲッティを履く女
フィアットのアメリカ再上陸計画が着々と進んでいる。それによると、米国版「フィアット500」は、「ファイブハンドレッド」ではなく「Cinquecento(チンクエチェント)」と、ユーザーにイタリア語読みしてもらうらしい。
これに限らず、イタリア語というのは、外国で大変イメージが良いようだ。
自動車メーカーで、そのあたりをいちばん心得ているのは、フェラーリだろう。「Modena」「Maranello」「Italia」という、ベタともいえるご当地名を用いている。思い出せば「Enzo」もあった。たとえればホンダが「ソウイチロー」というモデル出すようなものである。
マセラティもしかりで、「Quattroporte」は、イタリア語では単に4ドアを示す言葉である。逆にいえば、もしあなたが「日産ブルバードシルフィ」のオーナーでも、イタリアに来れぱ「クアトロポルテの持ち主」と呼んでもらえるのである。
そうしたイタリアンネームの魔力は、東京に住む義姉の靴に貼られたレッテル【写真1】を見て再確認した。
「Acqua calda(温水)」はまだしも、「Pasta」まであったのだ。Pastaにはさまざまな意味があるものの、やはり本場イタリア人が真っ先に思い浮かべるのは、スパゲッティであろう。イタリア語はもはや意味を超えて、一人歩きしているといってよい。
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Tシャツに辞世の句
今回は、そうした「面白言葉に関するアレコレ2010年晩夏」編である。
イタリア語のイメージの良さを最初に列記したが、こちらに住んでいると、「日本語も捨てたもんじゃないぜ」と思わせるアイテムにもたびたび遭遇する。まずは(比較的)正統派から。
先日ボクが住むシエナにいた、外国人観光客と思われる男性が着用していたTシャツである【写真2】。
「一睡の夢 一期の栄華 一杯の酒」
着ているおじさんは、上杉謙信の辞世の句だってこと、知らないんだろうな。もちろん川中島合戦も、武田信玄も、ましてや桔梗信玄餅も知らないんだろうな。だがこれも、日本語がカッコいいと思われている証左である。
次の【写真3】は、あるイベント会場で見かけた男性スタッフ。欧州各地で最もよく見かける日本製ビール「アサヒスーパードライ」のロゴが記されているTシャツを着ていた。こうした何気ないオフィシャルウエアも、こちらではリサイクルされ、クリエイティブ系の人々の間で珍重されている。
いっぽう【写真4】は、世界的ファッションチェーン「H&M」の手提げバッグに印刷されたリサイクル関連表示だ。日本にも進出している同店を象徴してか、日本語も書かれているのだが、そのニュアンスが楽しい。
「再生プラスチックでできてるの、私。繰り返し使うか、リサイクルに回してね」とつづられている。
他言語も1人称で書かれているので、そのまま訳したのであろう。ただし、こうしたものを「私」で書かれていることに慣れないボクなどは、語順やニュアンスがカジュアルであることも手伝って、なぜか「おネエ言葉」の声色で読んでしまう。
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おもしろ日本菓子
しかし、この夏ボクがいちばん仰天してしまったのは、隣国オーストリアのスーパーマーケットで販売されていたスナック菓子である【写真5・6】。
ひとつめは、その名も「Hi Tempura」。アルファベット表記だが、思わず「はい、天ぷら」と読んでしまう。
下にはドイツ語で「日本風」と書かれているうえ、背面には日本地図とともに天ぷらの説明がつづられている。にもかかわらずイラストの紳士は限りなく中国風だ。タイ製で、ドイツ・オーストリア・ベネルクス市場向けの輸入業者はオランダ。グローバルである。
さらなる驚きは、「おやつ」「ドライブのお供」「ビールのつまみ」のほか、「麺類に具として載せる」ことも勧めている!! 驚異のハイブリッドスナックだ。
そのスーパーでは、もっと強烈な日本菓子が販売されていた。商品名は「味噌の豆菓子」だ【写真7・8・9】。この段階でぎこちなさがにおったが、手にとって裏を見ると、さらに壮絶な説明文があふれていた。
「素材の新鮮な厳選」「好みの香は脆いです!!」(?)は序の口。「厳しい栽培はそしてなろ豆子ほ作出します。良心は作製すろ選擇したほラがいい」(??)「最も良いの下アフタヌーンティーの間食」(???)……。
いずれも自動翻訳機で処理したと思われるフレーズだ。今、Microsoft Wordで書き写している間にも、要修正を示すアンダーラインが次々と現れた。たとえば「脆いです」の原文はdelicateあたりだろう。
インターネットで製造元である中国メーカーのサイトを訪問してみると、日本企業とのジョイントベンチャーであるとのことだ。欧州に輸入しているのは「Hi Tempura」と同じオランダ企業である。前述の義姉の靴との共通点は、言語が「説明」ではなく、商品ムードを盛り上げるいわば「アイコン」として活用されていることだ。
ということで、この「Hi tempura」&「味噌の豆菓子」、ドライブデート中に気まずい雲行きになったとき、そっと助手席の彼女に差し出せば、かなりの確率で彼女の笑顔が取り戻せると信じてやまないボクである。
(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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