日産マ−チ12G(FF/CVT)【ブリーフテスト】
日産マ−チ12G(FF/CVT) 2010.09.01 試乗記 ……150万450円総合評価……★★★★
日産を代表する小さな大物「マーチ」。700kmを超える走行テストを行ったミスター・テスターは、そんなマーチに、どんな評価を下すのか?
確かな手応え
新しい「マーチ」がタイ生産の輸入車になったことに関して、プラスと感じるのはサスペンションなど足まわりの剛性がシッカリしていること。現地の道路事情を反映している。ちなみに日本生産のこのクラスのクルマは、路面からの入力を低く想定しているためか造りは華奢(きゃしゃ)になりがち。逆にマイナスと感じたのは、ドアの立て付けなど、生産技術としては目標の量産レベルにまだ達していない部分だ。
凝った技術を使って小排気量エンジンで走らせるのが現代流という考えもあるが、排気量を大きくするのがパワーアップの一番の近道である。それでも優秀なCVTをもってすれば、使用する回転数を低く抑えられる。単純な構造は耐久性の面でも有利だ。マーチの場合では、結果として低燃費も達成された。今後、どちらが生き残っていくのか興味深いところである。
一方、そんな背景を一切気にせず、単に安価なアシ車として使う場合を考えても、欧州製小型車に近い感覚が味わえ、なかなかの手応えと剛性感があるこのクルマを選ぶのは悪くない。壊れないだけが取りえと言われた過去の国産車とは違い、耐久強度を確保してあるだけにとどまらない、確かな走りの手応えがこのクルマの魅力だ。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
1982年に誕生した初代から数えて、4代目となる「日産マーチ」。そのコンセプトは、歴代モデルが受け継いできた「フレンドリー」な遺伝子に、「エコ」の要素が加えられて、「フレンドリー エコハッチバック」とされた。新開発の1.2リッター直3とCVTの組み合わせは、最大で26.0km/リッターという優れた燃費(10・15モード)をマーク。その低燃費性と、生産拠点が日本からタイに移されたことが、もっぱら話題となっている。
(グレード概要)
グレード展開は、FF車が「12S」「12X」「12G」の3モデルを中心に、関連会社のオーテックが手掛ける「ボレロ」を加えた4グレード構成。4WD車は「12X FOUR」と「12G FOUR」の2グレードが設定される。いずれもパワートレインは共通だが、4代目の自慢のひとつであるアイドリングストップ機構は、「12X」と「12G」のみに搭載される。カタログから読みとれるアイドリングストップの有無による燃費差は2.0km/リッター、FF車と4WD車の燃費差は6.0km/リッターだ。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★
構成はクラスなりに簡素ながら、異国情緒も盛り込まれ国際車としての雰囲気をもつ。エンジン回転計、速度計など基本的なものは数字も読みやすくレイアウトも適切。タイヤ切れ角の表示機能も親切だ。配置や操作性なども含めナビの待遇は良好。空調や音響装置もおおむね操作しやすく、基本装備のオプション化はやむなしか。純正採用されて質の低下をまねくよりは賢明かもしれない。
(前席)……★★★★
シートサイズはやや小振りながら、座り心地はまずまず。強いて言えば、座面後端をもう少し落としこんで後傾斜角を増すといい。そうすれば前後長の不足を補うことにもなるだろう。表皮は生産国らしさをうかがわせる。前方の眺めやサイドミラーの視野なども不都合は少ない。居住空間としては小型車ゆえの窮屈な感覚もなく、比較的高めに座るポジションとあいまってボディの四隅を把握でき、自在に操れる自信を持てる。
(後席)……★★★
旧型と比べ、ヘッドクリアランスは十分。ひざや足元の空間も一応不足ない寸法が確保されている。背面が寝過ぎていると腰が前に逃げやすくなるが、その角度も適切。シート寸法の絶対値はクラスの平均値的でやや小さめ。ドアの開閉角度や敷居の高さなど乗降性に関してはおおむね問題なし。プレスドアの閉まり方(フィッティング)など生産技術に関しては課題も残る。今後の量産効果に期待。
(荷室)……★★★
フロア面積の絶対値は、コンパクトなボディから想像される通りだが、目隠し棚までの天地方向の寸法は高い方か。サスペンションの張り出しは少ない方で、横方向も有効に使える。テールランプが高めの位置にくることから床スペースを犠牲にしていない。パンクへの備えには、応急修理剤ではなく、スペアタイヤが装備されている(FF車のみ)。内張りの処理は価格なりに質素。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★
時代的には、1.2リッターの排気量は960kgのボディ重量やサイズに対して大きめながら、高性能と経済性を両立。CVTの効率の高さもあって動力性能は活発だ。テスト距離714.6kmの総平均燃費は15.0km/リッターと優秀。渋滞区間を含む最悪値で12.5km/リッター、最良値で23.6km/リッターを記録。燃費だけを話題とするならばハイブリッド車と拮抗(きっこう)し、イニシャルコストの安さを考慮すればこちらが勝利する。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★
サスペンションの剛性感の高さは旧型をしのぐ。タイヤも現地調達で、さしてユニフォーミティ(均一性)は高くないものの、ハンドリングは優秀。電動パワーステアリングの操舵(そうだ)感はよろしくないが、(ホイールオフセット値を変えるなどして)スクラブ値をゼロ設定からポジ側、すなわちトレッドを広げる方向にすれば、路面反力は改善されるだろう。足まわりの感触は、総じて欧州製小型車に近づきつつある。かといって乗り心地は、ゆったりとしたストロークで衝撃を緩和するタイプではない。姿勢変化が少なめで、ダンパーの抑えは強い方。ゆえにGを伴う衝撃が強めに感じられることもあるが、ボディ剛性が高いため不快な印象は少ない。
(写真=峰昌宏)
【テストデータ】
報告者:笹目二朗
テスト日:2010年8月19日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2010年型
テスト車の走行距離:4953km
オプション装備:特別塗装色=3万1500円
タイヤ:(前)165/70R14(後)同じ(いずれも、FALKEN SINCERA SN831)
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(8):高速道路(2)
テスト距離:714.6km
使用燃料:47.62リッター
参考燃費:15.0km/リッター
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笹目 二朗
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