マセラティGT2ストラダーレ(MR/8AT)
速さのなかにも華やぎを 2026.04.08 試乗記 「マセラティGT2ストラダーレ」は公道走行が可能なレーシングカーだ。ただし、いつでもどこでも路面からの突き上げにおびえながら、恐る恐るドライブするのとはちょっと違う。速さだけならほかへどうぞというマセラティの哲学が見え隠れしているのが面白い。機能優先のエクステリア
日本ではブランドの認知度が高いとされるマセラティだが、1914年の創業を皮切りに、その出発から黎明(れいめい)期にかけての歴史がレーシングエンジニアリングで彩られることを知る方々はそうは多くないと思う。例えば1957年にはF1史に語り継がれる名機「250F」でファンジオの世界タイトルを支え実質のコンストラクターズタイトルもものにした。無論それから約70年の時がたつわけだが、節目ごとにマセラティはトラックでのパフォーマンスにこだわった活動を続けている。記憶に新しいのはFIA-GT選手権において、「フェラーリ・エンツォ」に代わりイタリア勢として挑んだ「MC12コルサ」の活躍だ。そして直近では「MC20」をベースとした「マセラティGT2」をジェントルマンドライバー向けに投入。GT3カテゴリーよりも上位にあたるGT2選手権で車両別トップの戦績を収めるなど、高い戦闘力を発揮している。
GT2ストラダーレはその名のとおり、マセラティGT2のロードゴーイングモデルという位置づけで、MC20から「MCプーラ」へと至るビッグマイナーチェンジに合わせて開発された。創業年にちなんで914台の限定販売となる。
と、そんなコンセプトゆえ、エクステリアの仕立てはレーシングモデル譲りの機能優先的な形状が端々に見てとれる。ブレーキまわりのクーリングチャンネルを持つロアグリルやホイールハウスの空気だまりを抜くフロントフェンダー、リアフェンダーの積極的な形状のエアインレットなどもさておき、冷却風を抜く大きなダクトを備えたボンネットフードや仰角が3段階にアジャストできるスワンネックのリアウイングなどは一目瞭然でそれと分かるディテールだ。これによってフロントフード下のいわゆるフランクはほぼつぶされるかたちになっているが、リア側のトランクはウイングの影響を受けずに済んでいる。好戦的なナリでありながら、大人2人のツーリングをカバーできる独立したストレージを備えているあたりは、市販車の軸足を一貫してGTに置くマセラティらしい。ただしトランクはエンジンルームに近いため、熱には気を配る必要がある。
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美人は何をやっても美人
らしいといえば内装もしかり。ものものしいシェル形状のサベルト製フルバケットシートは乗り降りこそ窮屈ながら、収まってしまえばパッドの弾性やストロークもそこそこ盛られていて、掛け心地は想像するほどハードコアなものではない。目に入る加飾材はカーボン&アルカンターラだらけといったところだが、サイドシルや床面にもきちんとトリムが回されているところにもストリートカーとしての配慮がうかがえる。シートクッションやトリム材の色味はもちろんコンフィギュレーションが可能だし、その気になればフォーリセリエのプログラムを用いてとことん自分仕様に仕上げることもできる。
それにしても、だ。ハチみたいな色に塗られた大羽根を背負う穴ボコだらけのクルマだというのに、そのたたずまいの妖艶さに目を奪われるのはなぜだろう。MCプーラ(と、その元ネタのMC20)は、今世紀のミドシップカーでは白眉のエレガンスを保っていると思うが、結局のところ美人は何をやらせても美人ということなのか。
GT2ストラダーレのエンジンは「ネットゥーノ」と名づけられた3リッターV6ツインターボで、プレチャンバーイグニッションを備えるのが特徴だ。瞬発力のある火流を副燃焼室で形成し主燃焼室の燃焼時間と効率を高めるそれは、かつてホンダがマスキー法をクリアしたCVCCエンジンで採用したリーンバーンの原理だが、現在はF1由来のレーシングテクノロジーとして広く認知されている。が、現時点で市販車へのフィードバックはネットゥーノの他にはない。
拍子抜けするほど穏やかな乗り心地
GT2ストラダーレはそのネットゥーノのなかでも、完成検査の際にバランスのよさが認められたものをピックアップして搭載。それにより額面上の最高出力はMCプーラより10PS大きい640PSとしている。が、むしろこの域になればパワーの上乗せというよりもフィーリングの差異のほうがユーザーの体感値としては大きいのかもしれない。そこに加えてMCプーラに対する約60kgの減量、とりわけホイールとブレーキによる35kgのバネ下重量低減がもたらすフィーリングの変化もポイントとなる。
果たして、その乗り味には車名からくる抜き身の刀のような緊迫感はみじんもない。最も穏やかな「GT」モードで走り始めてみると、その動きは拍子抜けするほど穏やかだ。微振動や細かな突き上げもしっかりチェックされているし、凹凸が連続する場面でも軽いバネ下がしっかり追従していて弾むような動きも抑えられている。ロードノイズはやや大きく感じるも、小石のはね上げなどの不快音が筒抜けということはない。そういう手当てが怠りないこともあり、総じて日常的な速度域での快適性はMCプーラと大差ないのでは……というのが正直な印象だった。
GT2ストラダーレのドライブモードは「GT」「スポーツ」「コルサ」の3段階に加えて、「コルサEvo」(オプション)という専用モードが加えられている。これはTRCやABS、eLSDなどの電子制御デバイスの介入を4段階で設定できるものだが、さすがに場所をわきまえて扱うべき機能だ。
速さのなかに見え隠れするマセラティらしさ
ということで、ワインディングロードではスポーツを中心にGTとコルサも試すかたちでドライブしたが、印象的なのはちょっと異様なスタビリティーだ。特にリア側の据わりのよさは強烈で、直線だろうがコーナーだろうがくさびを打ち込んだようにガチッと安定している。
公道レベルのちょっとやそっとでは微動だにしない後軸があれば、そのぶん前軸側のゲインをうんと高めてパキパキに曲がるようなセッティングにもできるだろうが、GT2ストラダーレの旋回性はそういう方向にはしつけられていない。タイヤのつぶれやサスやシャシーのしなりをじわじわとドライバーに伝えつつ、操作量に応じてググッとにじり寄るように曲げていく、そのナリの割には味わい深い動きをみせてくれる。ともあれGT2ストラダーレの場合、何にも勝るデバイスは空力ということになるのだろう。ちなみにMCプーラに比べると、最高速付近ではおよそ4倍近くのダウンフォース量を得ているという。
カーボンモノコックのクルマといえば音・振動の減衰特性が他と違って硬質で、市販車の志す総合的な質感とは相いれないところがある。それもあってのスポーツカーへの採用ということになるわけだが、GT2ストラダーレは軸足が鉄火場のような趣旨にみえて、そこにあぐらをかくようなものとは一線を画している。たとえそうであっても行間をいかに豊かなものにするかにむしろ腐心したような跡さえ感じさせてくれる。そういえばこれも70年近く昔の話、史上初の女性F1ドライバーとなったマリア・テレーザ・デ・フィリッピスが駆ったのは、先述の250Fだった。サーキットのエピソードでさえ華あるものにしてしまえるのがマセラティというブランドの妙なのだろう。
(文=渡辺敏史/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝/車両協力=マセラティ ジャパン)
テスト車のデータ
マセラティGT2ストラダーレ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4670×1965×1220mm
ホイールベース:2700mm
車重:1620kg
駆動方式:MR
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:640PS(470kW)/7500rpm
最大トルク:720N・m(73.4kgf・m)/3000-5500rpm
タイヤ:(前)245/35ZR20 95Y XL/(後)305/30ZR20 103Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2)
燃費:--km/リッター
価格:4394万円/テスト車=6357万円
オプション装備:スペシャル3コートペイント<ジャッロジェニオ>(120万円)/ルーフ<マットカーボン仕上げ>(75万円)/リアフェンダーエアインテーク<マットカーボン仕上げ>(147万円)/リアスポイラー<マットカーボン仕上げ>(129万円)/ダクト付きフェンダー<マットカーボン仕上げ>(110万円)/ボンネット<マットカーボン仕上げ>(74万円)/トラックマット<リア>(2万円)/サーキット走行専用4点式シートベルト<ブルー>(28万円)/衝突被害軽減ブレーキ(23万円)/Sonus Faberハイプレミアムサウンドシステム<12スピーカー>(46万円)/サスペンションリフター(39万円)/セキュリティーアラームシステム(34万円)/ブレーキキャリパー<アナダイズドブルー>(26万円)/インテリアカーボンファイバーパック<クラスター、シフトパドル、ドアシル、センタートンネル>(138万円)/ドライバーアシステンスパック<サラウンドビューカメラ、ブラインドスポットアシスト、エクステリアミラーオートディミング、トラフィックサインインフォメーション>(61万円)/エクステアリアマットカーボンファイバーパック<ドア&フェンダーシル、フロントスプリッター、リアディフューザー>(661万円)/パフォーマンスパックプラス<ミシュラン製セミスリックタイヤ、専用設定e-LSD、レーシングカーボンセラミックブレーキ、ハーネスバー、消火器、「コルサEvo」ドライブモード>(250万円)
テスト車の年式:2026年型
テスト開始時の走行距離:2529km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:271.4km
使用燃料:39.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.8km/リッター(満タン法)/6.3km/リッター(車載燃費計計測値)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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