ホンダCR-V e:HEV RS(FF)
ベストセラーの底力 2026.05.16 試乗記 「ホンダCR-V」のエントリーモデルとして位置づけられる「e:HEV RS」のFWD車に試乗。ライバルとして北米市場で激しい販売競争を繰り広げる「トヨタRAV4」との比較を交えながら、世界規模でホンダの屋台骨を支えるグローバルベストセラーSUVの実力に迫る。国内販売の予定はなかった
われわれが取材車で走りだすときに、最初におこなう儀式が、ETC車載器に自身のETCカードを差し込むことだ。新型CR-Vのそれは、助手席前のグローブボックスを開けた内側に張りつけられている。某輸入車を普段使いする筆者には、これもまったく違和感はないが、日本車のETC車載器はダッシュボードにきれいにおさまるのが本来の姿だろう。
2026年2月末に国内で新発売となった6代目CR-Vは、もともと2022年秋に北米で最初にデビューしている。グローバル車のフルモデルチェンジは全市場に行き渡るまでに年単位の時間がかかるものだが、それにしても、北米導入からのタイムラグが3年以上はさすがに長い。その理由はすでに多くのメディアで語られているように、この世代のCR-Vはもともと日本発売の予定がなかったからだ。
先代CR-Vの国内販売終了後は、その事実上の後継商品には「ZR-V」が位置づけられた。しかし、ZR-VはグローバルではCR-Vのひとつ下のクラスであり、既存のCR-Vユーザーのなかには“格下”のクルマへの乗りかえをうれしく思わない人も少なくなかった(当然だ)。結局、CR-Vはあらためて国内販売されることになった。先代までは国内生産だったが、今回はタイ工場からの輸入となる。
これと少し似た例に「スズキ・フロンクス」がある。最初からインド生産が決まっていたフロンクスも、企画段階では日本での販売は未定だったそうだ。しかし、以前のインタビュー記事(参照)にもあるように、フロンクスの日本発売のチャンスをうかがっていた開発チームは、「日本独自のETC車載器は最初のレイアウト段階からスペースを確保しておかないと、きれいにおさめることは難しい」と、元からひそかにETC車載器がおさまる設計にしていた。こうしたことを考えると、今回のCR-Vは本当に国内で売るつもりがなかったのだと理解できる。
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ボタン式シフトセレクターは日本仕様だけ
CR-Vの永遠のライバルといえば、トヨタのRAV4である。グローバルで年間約100万台を売り上げるRAV4は、世界でもっとも多く売れるトヨタ車であり、世界ベストセラーの常連でもある。対するCR-Vも世界最量販のホンダ車で、グローバル年間販売は約70万台。RAV4よりは少ないが、そのうち40万台のCR-Vを売り上げる北米市場にかぎると、RAV4とガチンコで売れまくっている。ちなみに、CR-Vにとって北米に続く大市場は中国で、年間約20万台。残る10万台が、日本を含めたアジアや欧州、その他の地域だとか。
北米でのCR-VとRAV4は価格も競合するが、ご承知のように、日本でのCR-VはRAV4を含む日本ブランドのライバル車より高めの値づけとなっている。ZR-Vとの差別化に加えて、今回から輸入車になったことで、少ない台数で利益を上げられるように、上級グレードに特化する戦略をとっているからだ。
実際、日本仕様の基本となるRSは、北米や中国にもない高級スポーツグレードである。これ以外には、そのRSに上級オプションをまとめてトッピングした「RSブラックエディション」があるだけ。取材車のRS(のFWD車)は国内エントリーモデルだが、それでも512万2700円という本体価格は、ハイブリッドで4WDのRAV4よりだいぶ高い。
価格が高めでも、クルマの内容を吟味すれば割高というわけではないのも、近年の国内向けホンダ車に共通するところだ。今回の素のRSでも、先進運転支援システムの「ホンダセンシング」に19インチの「ノイズリデューシングアルミホイール」、電動レザーシート、減速セレクターパドル、「BOSEプレミアムサウンドシステム」などがすべて標準装備される充実ぶりである。また、ボタン式シフトセレクターなどは、世界のCR-Vでも現時点では日本仕様だけの装備だそうで、内外装はぱっと見からRAV4より高級感がある。
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けん引用に低速用の直結ギアを追加
パワートレインも、日本仕様は現行CR-Vとしては(燃料電池を除けば)もっとも高度なハイブリッドのe:HEVである。核となるエンジンはいうまでもなく2リッターで、ライバルの主流である2.5リッター級ハイブリッドと比較すると、動力性能に特筆すべき不足はないが、ことさらパワフルでもない。それもあってか、今回のFWD車は以前に乗った4WD車より、だれもがすぐに気づくくらいに軽やかで小気味いい。控えめのパワーもあって、4WD車より50~80kg軽い車重が効いている。
基本的にエンジンが発電に専念するシリーズハイブリッドとして走りながら、高速低負荷時に専用ギアをロックアップしたエンジン直結駆動となるのがe:HEVの特徴である。そのロックアップ領域は、世代が新しくなるほど、目に見えて拡大している。今回のCR-Vでも、車内のハイブリッド表示を観察していると、高速道路や自動車専用道でアクセルペダルに軽く足を乗せるようなクルージング状態になると、それこそ車速が60km/hだろうが、特別区間の120km/hだろうが、頻繁にエンジン直結を示す小さな歯車のマークが点灯する。
今回のCR-Vでは、そのe:HEVに低速用の直結ギアが追加されたのが新しい。低速ロックアップギアの効能は、国内向け資料には「市街地の緩加速と登坂などの負荷が高まる状況で……走りと燃費の向上に貢献」とある。
ただ、開発陣によると、CR-Vに低速ロックアップギアを追加した最大の理由は、欧米で盛んなキャンピングカーなどの“けん引”に対応するためだという。従来モデルではそもそもキャンピングカーなどのけん引に対応していなかった。実際、今回も30~40km/hでも歯車マークがときおり点灯したが、なにもけん引せずに普通に走るかぎり、現実的な効能は良くも悪くも体感しづらい。
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静粛性にも最大限の配慮
それにしても、2リッターハイブリッド程度(?)では、CR-Vのシャシーは余裕しゃくしゃくだ。しかも、今回の日本仕様の開発に向けては事実上のマイナーチェンジが実施されており、クルマそのものの完成度は高い。ちなみに、ホンダのRSはシャシーも専用仕立てがお約束だが、CR-Vにかぎっては、RSでもシャシーにほかのグレードと差はないという。
いずれにしても、そのフットワークには熟成感がただよっており、少なくとも乗り心地や接地感については、最新RAV4に対するCR-Vの美点と申し上げておきたい。高速での挙動もフラットそのもので、荷重移動や操舵をすると、安定姿勢はそのままに、豊かな接地感を伝えてくるのには感心する。
舗装路でもトルクを積極配分する4WD車ほど盤石な安定感はないが、路面が荒れるほどフトコロが深く、しなやかに粘ってくれるコントロール性も評価に値する。さらに、FWD車のほうが動力性能も小気味いいのも先述のとおりで、雪道や凍結路でもなければ、「4WDは不要かも!?」と思ったのが正直なところだ。ただし、同じRSでも、FWD車ではステアリングヒーターとリアシートヒーター、はっ水フロントドアガラスが省略される。すっかり末端冷え性になった中高年の筆者としては、ステアリングヒーターだけはほしい。
北米や中国仕様よりも高級な仕立てとなる日本のCR-Vでは、静粛性にも最大限の配慮がなされている。アルミホイールもノイズリデューシング=騒音低減タイプだし、車体も穴という穴をていねいにふさいで、遮音・吸音材も増量している。また、フロントサイドドアの遮音ガラスは北米でも上級グレードだけの装備だ。実際、走行中の車内は明らかに静かだ。
約3年半前にデビューしたCR-Vに、技術的な新味は少ないが、世界的ベストセラーだけに、コストと時間をかけて丹念につくられているのは事実。月間400台という国内計画台数はあっという間にクリアして、今は事実上の受注停止状態という。それはそれでめでたいことではある。ただ、本来なら(3年前といわずとも)あと2年早く、できればライバルと大差ない価格で出ていたら、もっと盛り上がって……とは結果論だが、そう思わずにはいられない。
(文=佐野弘宗/写真=郡大二郎/編集=櫻井健一/車両協力=本田技研工業)
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テスト車のデータ
ホンダCR-V e:HEV RS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4700×1865×1680mm
ホイールベース:2700mm
車重:1750kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:148PS(109kW)/6100rpm
エンジン最大トルク:183N・m(18.7kgf・m)/4500rpm
モーター最高出力:184PS(135kW)/5000-8000rpm
モーター最大トルク:335N・m(34.2kgf・m)/0-2000rpm
タイヤ:(前)235/55R19 101Y XL/(後)235/55R19 101Y XL(ミシュラン・ラティチュード スポーツ3)
燃費:19.8km/リッター(WLTCモード)
価格:512万2700円/テスト車=532万0700円
オプション装備:ボディーカラー<ブレイジングレッドパール>(4万4000円) ※以下、販売店オプション フロアマットカーペット<プレミアム>(5万9400円)/ドライブレコーダー2カメラ(5万9400円)/発話型ETC2.0車載器(3万0800円)/取り付けアタッチメント(4400円)
テスト車の年式:2026年型
テスト開始時の走行距離:3063km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:275.2km
使用燃料:18.8リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:14.6km/リッター(満タン法)/15.1km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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