16年ぶりのフルモデルチェンジ 新型「日産エルグランド」の価格は妥当か?
2026.08.05 デイリーコラム厳選の2グレードで販売スタート
2026年に発売される新型車のなかで、特に注目度の高い車種がLサイズミニバンの「日産エルグランド」だ。初代モデルは1997年に発売され、「トヨタ・グランビア」などを寄せつけないヒット作になった。しかし2002年に発売された2代目以降は、ライバル車の「トヨタ・アルファード」、追加された姉妹車の「トヨタ・ヴェルファイア」に販売面で差をつけられた。
そして2010年に3代目を発売して以降、エルグランドはフルモデルチェンジを行っていなかった。それが16年ぶりに刷新された。法人が重役の送迎用にLサイズミニバンを使うなど、市場環境も変わってきたからだ。
新型エルグランドのパワーユニットは、1.5リッター直列3気筒ターボエンジンを使うハイブリッドの第3世代「e-POWER」のみで、ノーマルのガソリンエンジンは選べない。駆動方式も後輪を前輪とは別のモーターで駆動する4WDの「e-4ORCE」のみで、前輪駆動の2WDは設定されていない。
足まわりに使われるショックアブソーバーの減衰力を、走行状態に応じて4輪独立して変化させる「インテリジェントダイナミックサスペンション」も、全車に標準装着した。スピーカーから音を出してノイズを打ち消すアクティブノイズコントロールも同様だ。
装備は運転支援機能の「プロパイロット」、緊急時に救援を要請できるSOSコール、日産コネクトインフォテインメントシステムなどは全車に標準装着した。装備は全般的に充実しており、グレードは「X e-4ORCE」(689万7000円)と、上級の「G e-4ORCE」(757万9000円)のみだ。それ以外は日産モータースポーツ&カスタマイズが手がけた派生タイプになる。
グレード間で装備を比較
X e-4ORCEには装着されず、上級のG e-4ORCEに加わる装備は、車間距離を適度に保つように制御する「インテリジェントディスタンスコントロール」と1列目/2列目シートのベンチレーション機能、100V・1500Wの電源コンセント、前後両方向のドライブレコーダーなどだ。
さらに日産コネクトのディスプレイは、X e-4ORCEは12.3インチだが、G e-4ORCEでは14.3インチに拡大される。シート表皮も合成皮革からテーラーフィットに上級化され、オートエアコンにはプラズマクラスター機能も加わる。プロパイロットには、高速道路上の渋滞時にステアリングホイールから手を離しても、運転支援が続く機能も備わる。
以上の機能が加わることで、G e-4ORCEの価格は、X e-4ORCEよりも68万2000円高い。この価格アップは、加わる装備や機能を考えると少し割高で、55万円前後に抑えるのが妥当だ。したがって買い得な推奨グレードはX e-4ORCEになる。
そこで注目したいのがX e-4ORCEに用意されるセットオプションだ。G e-4ORCEに加わる装備のうち、ニーズの高い日産コネクトの14.3インチディスプレイ、前後両方向のドライブレコーダー、インテリジェントディスタンスコントロール、プロパイロットの渋滞時におけるハンズオフ機能などを24万9700円で装着できる。このセットオプション価格は妥当だから、ベースの装備に不満を感るならば装着したい。
100V・1500Wの電源コンセントは、このセットオプションに含まれず、X e-4ORCEに9万9000円の単品オプションとして用意した。電子レンジなども使えて災害時に役立つ装備だから、トヨタではコンパクトカーの「アクア」でも全車に標準装着している。エルグランドX e-4ORCEは、価格が600万円を軽く超えるLサイズミニバンだから、標準装着すべきだ。
インテリジェントディスタンスコントロールも、トヨタは同様の機能を「シエンタ」やアクアの全車にプロアクティブドライビングアシストとして標準装着した。安全性も向上させる装備だから、これも全車に標準装着すべきだろう。
走りのよさに価値を見いだせるか
ライバル車のアルファードとも比べたい。多くのユーザーが選択に迷うのは、ハイブリッドの「アルファードZ E-Four」(4WD/661万9800円)とエルグランドX e-4ORCE(689万7000円)だろう。価格はアルファードが27万7200円安い。
アルファードZ E-Fourは、価格が安く、なおかつ100V・1500Wの電源コンセント、プロアクティブドライビングアシスト、1列目/2列目シートのベンチレーション機能を備えている。
さらにアルファードZ E-Fourの2列目には、固定式アームレストを備えた立派なエグゼクティブパワーシートも装備される。天井にはスイッチなどを装着するダウンライト付きオーバーヘッドコンソールも備わり、豪華な雰囲気を盛り上げる。
これらを価格に換算すると、約30万円の価値がある。したがって前述の27万7200円の価格差と合計すると、内外装の関連では、アルファードZ E-FourはエルグランドX e-4ORCEよりも約60万円は割安だ。
その代わりエルグランドの第3世代e-POWERは、アルファードのハイブリッドよりも動力性能が高く、なおかつノイズが小さい。ショックアブソーバーの減衰力を4輪独立式で制御するインテリジェントダイナミックサスペンションの効果もあり、走行安定性にも優れている。この2車種は全高が1900mmを超える高重心のミニバンだが、エルグランドの運転感覚は、エクストレイルのような全高を1700mm前後に設定したSUVに近い。
損得勘定の結論をいえば、先に挙げた居住空間や装備の価格換算額をベースに考えると、アルファードが約60万円割安だ。その代わりエルグランドは動力性能と走行安定性に優れている。エルグランドを試乗して、その走りに、アルファードと比べて60万円以上の価値があると判断したならエルグランドが買い得だ。
将来的には、「エルグランドNISMO」の設定も予想される。エルグランドはLサイズミニバンでありながら、走りのよさに重点を置くからだ。
外観にも新たなバリエーションを用意する。開発者は「威圧感の強い外観は避けたかった」と言うが、威圧感や強い存在感を嫌うユーザーは、もともとエルグランドやアルファードを選ばない。「エルグランドAUTECH」のフロントマスクをさらに強調したような迫力のある仕様も加えるだろう。エルグランドは今後の展開が楽しみな車種で、シンプルな2グレードの構成も、それを示している。今後、グレードを増やす余地を残しているわけだ。
(文=渡辺陽一郎/写真=日産自動車/編集=藤沢 勝)

渡辺 陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向した。「読者の皆さまにけがを負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人の視点から、問題提起のある執筆を心がけている。特にクルマには、交通事故を発生させる甚大な欠点がある。今はボディーが大きく、後方視界の悪い車種も増えており、必ずしも安全性が向上したとは限らない。常にメーカーや行政と対峙(たいじ)する心を忘れず、お客さまの不利益になることは、迅速かつ正確に報道せねばならない。 従って執筆の対象も、試乗記をはじめとする車両の紹介、メカニズムや装備の解説、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、取り締まりなど、カーライフに関する全般の事柄に及ぶ。 1985年に出版社に入社して、担当した雑誌が自動車の購入ガイド誌であった。そのために、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、車買取、カーリースなどの取材・編集経験は、約40年間に及ぶ。また編集長を約10年間務めた自動車雑誌も、購入ガイド誌であった。その過程では新車販売店、中古車販売店などの取材も行っており、新車、中古車を問わず、自動車販売に関する沿革も把握している。 クルマ好きの視点から、ヒストリー関連の執筆も手がけている。
-
いま軽自動車を選ぶなら、エンジン車とEVのどちらが得か? リアルな数値でコスパを比較・検証する 2026.11.2 海外ブランドまで参入するなど、近年活況をみせる軽EV。従来型の軽自動車と比べた場合の、コスト面の良しあしは? ホンダの2車種を例にとり、そのコストパフォーマンスを考えよう。
-
「BYDラッコ」がアジアにはばたく!? ニッポンの軽自動車規格が海外勢に奪われる日 2026.10.30 中国のBYDが、軽BEVの「ラッコ」を日本以外でも販売すると発表! 日本独自のスモールカー規格は、はたして海外でも受け入れられるのか? 本家・日本のメーカーが、海外展開に及び腰だった理由とは? BYDが食指を動かす、軽自動車の秘めた可能性を探る。
-
メルセデスのトップからのまさかの転身 BMW日本法人の上野金太郎社長にインタビュー 2026.10.29 メルセデス・ベンツ日本からビー・エム・ダブリューのトップへ。いわば巨人の四番から阪神の四番のような異例の転身を遂げた上野金太郎社長。両ブランドの文化や製品の違い、今後の販売戦略などについて話を聞いた。
-
「ミッションS」だけではない? 2035年に向けたポルシェの新戦略を探る 2026.10.28 ポルシェは2026年10月7日、新中期戦略「Sportwagenschmiede'35」を発表した。新型パワーユニット搭載の「ミッションS」をはじめとするニューモデルで、経営状態の立て直しを目指す。その注目すべき内容を詳しく解説する。
-
ホンダが次世代ハイブリッドの名称を「Honda Hybrid」に決定 命名の理由とその背景を探る 2026.10.26 本田技研工業が2027年からグローバルで用いる次世代ハイブリッドシステムの名称を発表した。その名は「Honda Hybrid」である。「i-MMD」から「e:HEV」へと変更されて6年。慣れ親しんできた名称が変更される理由と、その背景を探る。
-
NEW
いま軽自動車を選ぶなら、エンジン車とEVのどちらが得か? リアルな数値でコスパを比較・検証する
2026.11.2デイリーコラム海外ブランドまで参入するなど、近年活況をみせる軽EV。従来型の軽自動車と比べた場合の、コスト面の良しあしは? ホンダの2車種を例にとり、そのコストパフォーマンスを考えよう。 -
NEW
トヨタ・アクアGRスポーツ(FF/CVT)【試乗記】
2026.11.2試乗記「アクア」のビッグマイナーチェンジに遅れること10カ月。“最新のトヨタ顔”に変身したスポーツコンバージョンモデル「アクアGRスポーツ」が登場した。専用チューニングが施されたボディーや足まわりの仕上がりを、ワインディングロードに連れ出して確かめた。 -
ホンダ・スーパーONE(前編)
2026.11.1ミスター・スバル 辰己英治の目利き辰己英治さんが今回試すのは、ヤンチャないでたちの「ホンダ・スーパーONE」。軽規格の電気自動車(EV)「N-ONE e:」をベースに走りを鍛えた、電気で走るスポーツコンパクトだ。見た目にも楽しさがあふれる一台の魅力に、“ミスター・スバル”が迫る。 -
思わずなでたくなってくる 丸いデザインのクルマ特集
2026.11.1日刊!名車列伝最近のクルマのデザインは、シャープなラインが特徴だったり、造形そのものが複雑だったり……。今月は、つるりと丸い、シンプルなエクステリアが印象的な世界の名車を日替わりで紹介します。 -
ベントレー・コンチネンタルGT S(4WD/8AT)【試乗記】
2026.10.31試乗記ベントレーのラグジュアリークーペ「コンチネンタルGT」にハイパフォーマンスバージョンの「S」が登場。すでにトップパフォーマンスモデルの「スピード」が存在するなかで、果たしてSはどんなポジションを担うのだろうか。試乗を通じて検証した。 -
「BYDラッコ」がアジアにはばたく!? ニッポンの軽自動車規格が海外勢に奪われる日
2026.10.30デイリーコラム中国のBYDが、軽BEVの「ラッコ」を日本以外でも販売すると発表! 日本独自のスモールカー規格は、はたして海外でも受け入れられるのか? 本家・日本のメーカーが、海外展開に及び腰だった理由とは? BYDが食指を動かす、軽自動車の秘めた可能性を探る。







































