メルセデスのトップからのまさかの転身 BMW日本法人の上野金太郎社長にインタビュー
2026.10.29 デイリーコラム新入社員の気持ちで勉強中
上野金太郎氏がビー・エム・ダブリュー株式会社の代表取締役に就任したのは2026年の4月1日付だった。われわれ業界人は「よくできたエイプリルフールのネタだな」と、当初は半信半疑でもあった。彼はメルセデス・ベンツ日本の代表取締役社長、そして会長を歴任してきた人物だからだ。いわば“ライバルメーカー”への転身を果たして約半年、インタビューの機会をいただいた。以下、一人語りのかたちでお届けする。
メルセデス・ベンツ日本のあと、しばらくマルチブランドを手がける販売店で仕事をしていました。いろんなブランドのクルマに触れることができたのは楽しかったし、とても勉強にもなりました。そんなとき、ビー・エム・ダブリューからお声がけいただいたんです。実は、ほかにも数社からオファーがあったんですが、BMWは販売店でも扱っていて全体の状況は分かっていたし、直接熱心にお話をいただいて、何より「ずいぶん大きな賭けに出たな」と思って(笑)。それがちょっと面白かったので、お引き受けすることにしました。まだ、自分を必要としてくれる場所があるなんて、うれしいことですよね。
ドイツの友達なんかには、「お前はもう何社かの顧問でもやって楽しく生きろよ」って言われていました。今回は、一応家族にも相談したんです。妻はちょっと引いていましたけど(笑)、子供たちは「いいじゃん、すげえいいじゃん」と喜んでくれました。彼らはメルセデスしか知らないんですよね。だからきっとほかのクルマにも乗れることが楽しみだったのかもしれない。妻も結局は「それがお父さんのやりたいことなら応援します」と言ってくれました。家にずっと居たり、ゴルフばっかり行って帰ってきてメシだメシだとうるさく言われるよりはいいと思ったりしたのかもしれませんけれど(笑)。
この半年間は、「BMWって何?」というところから、新入社員のような気持ちで、まだいろいろと勉強している最中です。僕がこれまで体験してきたものとは真逆のものもあるし、それなりに同じようにやっているものもあって、なんかすごく複雑な心境です。こうやるもんだろうと思ったら、違いますよ、それはこうですよって言われてしまったり。そういうことが連鎖するとちょっと頭を抱えてしまう時もあります。自分のなかで、コンパスがすごい勢いでクルクルクルクル回っているような感覚はありますね。
いまの会社にきて、商品そのものがいいとか悪いとかで悩むことはまったくなかったんですけれど、会社によってやっぱり特性というか、業務プロセスとか社内の決まりごととかが違うじゃないですか。僕ももう60歳を超えていますから、人の顔はなかなか覚えられないし、名前も覚えられない(笑)。そのうえホットデスキング(=フリーアドレス)だから、誰かどこに座っているのかも分からないので、最初のうちはそういうことにも苦労しました。でも、徐々に慣れていって、ようやくみんなの前でやりたいことをひとつずつお願いというか、共有していっているところです。当然、まだ伝えきれていないこともあるし、今までのビー・エム・ダブリューのやり方を壊したいわけではないので、これを継承しながらよりよくクルマを売れるようにできないかと考えています。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
冷やかし来店も大歓迎です
(BMWとメルセデスがそれぞれ拠点を置く)ミュンヘンとシュトゥットガルトは、距離にして200kmぐらいしか離れていないんですが、やっぱり人が違うし、人が違うとクルマも違う。クルマのつくり方はまったく異なります。いまの会社に入ってすぐに「M3」を試乗したんです。体ではまだメルセデスAMGの「C63」とかを覚えているから、どんな感じなのかなと思って。そしたらまったく違う。M3はなんかその走りがまるで水面を滑るような感じなんです。C63はガリガリと路面を削っていくかのような走り。ガーッといくC63に対してスーッといくM3。ハンドリングもブレーキの感覚も加速感もとにかく全部違った。ここまで違うんだって驚きました。以前なら、ここはウチが勝っているとかここはウチよりダメだとか、そういう目線で見ていたBMWを、いまではいいところを探そうとしていて、すると次から次へ見つかるんです。これはちょっと面白い感覚だなって思いました。BMWって「大好き!」っていうファンの方がたくさんいらっしゃいますよね。その気持ちが分かるようになりました。最初は好きになろうとしていたのに、いつのまにか努力をしなくても好きになることに慣れてきて、いまでは自然にどんどん好きになっています。もうすっかりBMW推しです。結構切り替え早いんです。こんなこと言ったら、前の日本法人のみんなに怒られるかもしれないけれど(笑)。
正直、いまの日本のマーケットにおける輸入車の立場は厳しい。そんななかでわれわれはどうするのか。これはもう地道に、BMWのお客さんをこれまで以上に大事にしていくしかないんじゃないかと考えています。すごい数字が取れるかもしれないなんて妄想は捨てて、安定した台数でそれに見合った身の丈のことをちゃんとやっていく。そうすれば、お客さまはきっとBMWから離れていかないだろうと思っています。ミュンヘンで新しいクルマが発表されたら、適切なタイミングでそれを日本へ持ってきて、販売店で丁寧にちゃんと説明できる準備をして、納得して買っていただいて、納車後もお客さまとの関係をきちんと築いていく。そういう、いわば当たり前のことを着実にやっていくことが重要です。今日、たまたま過去にBMWをお乗りいただいていたお客さまとか、疎遠になられたお客さまに向けてお手紙を1万通以上出しました。今後はオーナーマガジンなんかも用意して、定期的にお客さまとつながる工夫を試してみようかと考えています。とにかく、もっとBMWのことを理解していただきたいんです。
弊社は東京のお台場にBMWグループ トーキョーベイという立派な(ブランド体験)施設がありますので、そこをもっと活用するのもひとつの手段でしょう。輸入車はどこか敷居が高くて、冷やかしお断りみたいな雰囲気があるんですよね。僕は冷やかし大歓迎っていうタイプなんです。それに、やっぱりクルマは乗ってみないと分からない。だからそういう機会をもっと提供して、啓蒙活動みたいなことをやっていきたい。実は来年くらいには、お台場のようなお客さまとのミーティングポイントを都内に新たに開こうかと考えているところです。とりあえずは地味にコツコツやっていきます。で、ある程度のレベルで安定期に入ったら、飛び道具も使おうかと思っています。来年にはいよいよ新型「3シリーズ」も導入しますので、今後のBMWグループにぜひご期待ください。
(インタビューとまとめ=渡辺慎太郎/写真=北畠主税<Chikara Kitabatake>/編集=藤沢 勝)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |

渡辺 慎太郎
-
「ミッションS」だけではない? 2035年に向けたポルシェの新戦略を探る 2026.10.28 ポルシェは2026年10月7日、新中期戦略「Sportwagenschmiede'35」を発表した。新型パワーユニット搭載の「ミッションS」をはじめとするニューモデルで、経営状態の立て直しを目指す。その注目すべき内容を詳しく解説する。
-
ホンダが次世代ハイブリッドの名称を「Honda Hybrid」に決定 命名の理由とその背景を探る 2026.10.26 本田技研工業が2027年からグローバルで用いる次世代ハイブリッドシステムの名称を発表した。その名は「Honda Hybrid」である。「i-MMD」から「e:HEV」へと変更されて6年。慣れ親しんできた名称が変更される理由と、その背景を探る。
-
「マツダRX-7」の復刻部品を生産!? ミクニの挑戦は旧車オーナーの福音となるか? 2026.10.23 ミクニが「マツダRX-7」向け復刻部品の開発検討を開始した。古い自動車部品の供給は、なぜここまで困難を極めるのか? ミクニの挑戦は世のロータリーオーナーにとって福音となるか? 日本の自動車文化に潜む課題と、その解決に挑む企業と人をリポートする。
-
2028年までに復活! 名車「シトロエン2CV」の現代版はその名に値する一台か? 2026.10.22 パリモーターショー2026の会場で大注目を集めた「シトロエン2CVコンセプト」。あの「2CV」の復活とあって多くのファンが目を輝かせるが、それは名車の名を継ぐに足る一台なのか? オリジナルの2CVに乗る今尾直樹が魅力に迫る。
-
電動化時代も軸足は“スポーツ”に CEOに聞いた「アルピーヌブランドのこれから」 2026.10.21 富士6時間レースに合わせて来日したアルピーヌのフィリップ・クリーフCEOにインタビュー。レースカーから市販車にフィードバックされたポイントや、「A110」を含めた今後の商品展開などを聞いてみた。
-
NEW
写真で解説する「メルセデス・ベンツ・エレクトリックGLC」
2026.10.28画像・写真メルセデス・ベンツの新たなフル電動SUV「エレクトリックGLC」がデビュー。2026年10月28日に国内での注文受け付けがスタートした。一体どんなクルマなのか、その見どころを写真とともに解説する。 -
NEW
「ミッションS」だけではない? 2035年に向けたポルシェの新戦略を探る
2026.10.28デイリーコラムポルシェは2026年10月7日、新中期戦略「Sportwagenschmiede'35」を発表した。新型パワーユニット搭載の「ミッションS」をはじめとするニューモデルで、経営状態の立て直しを目指す。その注目すべき内容を詳しく解説する。 -
NEW
日産フェアレディZ NISMO(FR/9AT)【試乗記】
2026.10.28試乗記「日産フェアレディZ」のマイナーチェンジモデルが登場。改良の主眼はZが受け継いできたヘリテージのさらなる深化と性能の強化だという。もはやお値段1000万円(!)に迫らんとする「NISMO」の9段ATモデルを試す。 -
NEW
第134回:アウディデザイン水掛け論 ―これが未来のアウディか? 「ヌヴォラーリ」と他のモデルに見る不整合―
2026.10.28カーデザイン曼荼羅微妙に迷いが見えていたアウディのデザインに、新しい潮流が? これまでとは異なるモチーフが取り入れられた「ヌヴォラーリ」の造形は、次世代のフォーシルバーリングスを指し示すものなのか? カーデザインの識者と、アウディデザインの未来について考えた。 -
第879回:メルセデスがうたう「想像以上」は本当か? フル電動の新型「メルセデス・ベンツCLA」に1000km乗ってわかったこと
2026.10.27エディターから一言フルモデルチェンジした「メルセデス・ベンツCLA」の中でも本命とされるのが「CLA with EQテクノロジー」。新世代EVをアピールするメーカーのうたい文句は本当なのか、北海道で1000km乗って確かめた。 -
ダイハツ・ミラ イースtuned by D-SPORT Racing(FF/5MT)【試乗記】
2026.10.27試乗記ダイハツのベーシックな軽乗用車をもとに、ラリーやレース向けの競技車両に仕立てた「ミラ イースtuned by D-SPORT Racing」。軽量ボディーをロールバーで固め、力強いターボエンジンを搭載した一台は、クルマの楽しさを学べる教科書のような一台となっていた。




































