「ミッションS」だけではない? 2035年に向けたポルシェの新戦略を探る
2026.10.28 デイリーコラムスポーツカーづくりに精魂を傾ける意思の表れ
2026年10月7日、ポルシェは「Sportwagenschmiede'35」と題した中期戦略を発表した。大まかにいえば、「経営状態がよろしくないので立て直しを図る。ついては、どのようにして立て直していくか、その手段を説明する」内容だ。
欧州ブランドのご多分に漏れず、ポルシェもフル電動化に舵を切った。2022年の段階では、2025年に新規販売台数の半数をフル電動車(電気自動車=BEV)もしくはプラグインハイブリッド車(PHEV)とし、2030年には80%以上をフル電動車にする目標を掲げていた。日本では2021年にポルシェ初のフル電動スポーツカー「タイカン」のデリバリーが始まり、2024年7月には「マカン エレクトリック」の予約注文受け付けを開始。2025年11月には「カイエン エレクトリック」の予約注文受け付けを開始している。
一方で、政府補助金の終了や縮小、景気の減退、中古車市場における残価率の低下などの要因が重なり、世界的に見ればBEVのセールスは勢いを失っている。この流れを受け、ポルシェは2025年9月に中長期戦略の見直しを発表。フル電動化に完全に傾いていた軸足を内燃エンジン(ICE)側に引き戻した。これについてポルシェは、「電気自動車の需要が大幅に鈍化していることに対する対応」だと説明した。しかし、「タイカン、マカン、カイエン、そして将来の(フル電動)2ドアスポーツカーが「718」セグメントに加えられ、魅力的なBEVラインアップが提供される」とも付け加えた。
2026年1月1日、オリバー・ブルーメCEOが退任し、ミヒャエル・ライタース氏がポルシェの新CEOに就任。彼が主導する新しいマネジメントチームがポルシェの現状を分析し、打開策をまとめたのが「Sportwagenschmiede'35」ということになる。ドイツ語の「Sportwagenschmied(シュポルトヴァーゲンシュミーデ)」は「スポーツカー工房」というような意味になる。ブランドの原点に立ち返り、SUVではなくスポーツカーづくりに精魂を傾ける意思の表れと捉えていいだろう。
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「911」を軸にスポーツカーのラインナップを拡充
新しい中期戦略の発表から2日後、10月9日にポルシェは「2026年の最初の9カ月間(つまり1月~9月)に、世界中の顧客に17万8532台をデリバリーした」とするプレスリリースを発表した。前年の同時期は21万2509台をデリバリーしているので前年比-16%ということになる。「911」は前年比+12%と堅調に推移した一方、「718ボクスター」と「718ケイマン」は2025年10月に生産を終了した影響から前年比-79%。「パナメーラ」は-35%、タイカンは-31%である。
地域別に見ると中国の落ち込みが激しく、前年比-33%となった。「(中国の)市場環境は依然として厳しい。ポルシェは中国において価値志向の販売戦略を引き続き適用し、短期的な販売台数よりもブランドの長期的な発展を優先する」と発表している。
中期的な目標に焦点を当てた「Sportwagenschmiede'35」では、「スポーツラグジュアリーおよびハイエンドプレミアムセグメントにおいて他社とは一線を画す製品ラインナップを展開することで、独自のポジションをさらに強固にする」としている。すなわち「Value over Volume(数量より価値)」だと。
これまで「売れる」からといって(とくに中国市場で)SUVに力を入れて開発・販売してきたが、これからは911を軸にスポーツカーのラインナップを拡充し、ブランドの価値を高め、利益率を改善し、健全な経営に戻していく。筆者はポルシェの新戦略をこのように理解した。ポルシェはSUV偏重の中国市場を見ながら横目で911に絶対的な価値がある日本を「理想のマーケット」だとしてきた。中国市場での減速を機に彼の地での戦略をリセットし、ポルシェが理想とする「スポーツカーが売れる市場」に転換していく考えなのだろう。
2028年に通年生産を開始する次期718ボクスターと718ケイマンがフル電動車になるのは、動き出した計画を中止したり、大幅に軌道修正したりするにはすでに手遅れだからだろう。フル電動の718シリーズが登場する2028年にポルシェは、内燃エンジンおよびプラグインハイブリッドシステムを搭載するBセグメントの新型SUVを発表する。ポルシェが示すBセグメントは一般的にイメージするBセグメントよりも大型でマカンクラスだ。
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2030年まで毎年1モデルの発表を宣言
主軸となる911(はDセグメント)のラインナップは派生モデルの追加によって強化。さらに、カイエンより上位に位置するDセグメントSUVを投入する可能性について検討するという。そう聞くと、「スポーツカーのラインナップを拡充すると言っておきながらSUVを増やしていくの?」と皮肉りたくなるが、ポルシェは「すべてのモデルラインにおいて911のDNAをこれまで以上に強く打ち出す」と宣言しているので、どのような回答を示してくれるのか、楽しみに待つことにしよう。
ポルシェはさらに、「2030年までに毎年少なくとも1つの、ブランドを象徴する新製品を発表する計画」と発表。既存のモデルラインの製品改良と合わせ、「ポルシェならではのスポーツカー体験を体現するラインナップの基盤」を築くとしている。
「911の上位に位置する、ミドシップエンジン搭載スポーツカープラットフォーム」の発表をSportwagenschmiede'35に盛り込んだポルシェは10月15日、「スポーツカーの本質を再解釈」したとする「ミッションS」を発表した。かつての「カレラGT」や「918スパイダー」のような単発モデルではなく、常設モデルとしてポルシェのスポーツカーのラインナップ、それも頂点に加えるという。
ミドシップであること以外パワートレインの詳細は発表されていないが、公開されたキーフォブ案のスケッチにはシリンダー配列と呼応したデザインが施されており、そのスケッチを信じればミッションSは水平対向8気筒エンジンを搭載していることになる。だとすれば当然新開発であり、ポルシェの量産車としては初採用になる。
ポルシェはミッションSをスポーツカーラインナップの頂点に据えつつ911の魅力を高め、SUVモデルには911のDNAを色濃く反映させていく。そうしてスポーツカー工房としての矜持を前面に打ち出し、セールスの面でも利益率の面でも、かつての強いポルシェを取り戻そうと決意した。Sportwagenschmiede'35からはそのような意図を読み取ることができる。
(文=世良耕太/写真=ポルシェ/編集=櫻井健一)
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世良 耕太
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