「シフトパドル」に代わる、より優れたCVTやATの変速デバイスはありうるか?

2026.08.18 あの多田哲哉のクルマQ&A 多田 哲哉
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AT車の手動変速装置では、かつてはシーケンシャルタイプのレバーがありましたが、今ではシフトパドルがメジャーです。これに代わる変速デバイスは、今後も出てこないのでしょうか? 

電動化がどんどん進んでいくと、エンジンの時代とは違って、そもそも「変速する」ということ自体の必然性・必要性がどんどん減ってくるんですよね。

最近話題になったホンダの新型「プレリュード」や「スーパーONE」などもそうですが、あえて変速感を出すための制御を採用して、パドルなどの操作で「変速という操作自体を楽しむ」という時代になっています。

昔は変速操作というのは運転のテクニックにおいて非常に重要なテーマであり、上手に変速できるかどうかで運転のうまさにもかなりの差がつきました。ですが、今はクルマの側が非常にうまくコントロールしてくれます。昔ながらのMT(マニュアルトランスミッション)であっても、減速時に回転数を自動で合わせてくれる「シンクロレブ」といった機能が使われている時代です。

変速デバイスについては、極端な話をすれば、操作をより簡単にする方向であれば「音声操作で上げ下げする」といったことも技術的には可能ですが、そんなことをして楽しいのかという話になります(笑)。

ドライバーのイメージとしては、F1をはじめとするモータースポーツのトップカテゴリーのマシンがパドルなどのスイッチ類で操作しているから「かっこいい」「あれがいい」ということで、そうした流れになっているのだと思います。それで、そんな操作は必要ない構造のクルマであっても、「操作すること自体を楽しむ目的」でパドルなどの装置が付いている、というのが今の状況です。昔とは位置づけが変わってきています。

そもそも論になりますが、今後は「パドルで任意に変速したい」というニーズ自体がだんだんなくなっていくと思います。変速操作は楽しいじゃないかと言われると、私自身はそうしたこだわりが全くないのです。変速の操作をしなくていいものをわざわざそうするのが楽しいかというと、疑問に感じますね。

運転には「ハンドルを切る」「ブレーキを踏む」「アクセルを調整する」といったさまざまな要素があります。変速の操作という要素がひとつ減れば、そのぶんだけほかの操作に意識を向けることができ、よりうまくクルマを走らせることに集中できます。そのほうが結果として、思いどおりにクルマを操れるようになり楽しいはずです。

昔は変速しなければクルマがまともに走らなかったので、コラムシフトやフロアシフトなど、技術やスキルを求められる操作が必要でした。そこから扱いやすいパドルへと進化してきたわけですが、電動化が進むこれからの時代、マニュアル的な変速操作自体の必要がなくなっていく方向に進んでいます。

あるいは、従来の変速操作が不要になって余った「手」のぶん、操作系の分担が変わっていくかもしれません。人間が操れるのは基本的に両手・両足だけで、手のほうが足よりも繊細な操作ができますから、アクセルやブレーキの操作を手の側に持ってくるような新しい操作系(インターフェイス)は考えられます。急に変えたらユーザーはびっくりしてしまうでしょうが、長い目で見れば「そっちのほうがやりやすい」という未来がくるかもしれません。

それに、手でアクセルやブレーキを操作できるようになれば、ハンディキャップをお持ちの方もそうでない人と同じような気軽さで車種を選びクルマを運転できるようになるなど、さまざまなメリットが生まれます。変速という概念がなくなることで、クルマ全体の操作系を見直すというテーマは非常に興味深く、自動車メーカー各社もいろいろと考えているはずですよ。

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多田 哲哉

多田 哲哉

1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。