アウディA5カブリオレ 3.2 FSI クワトロ(4WD/7AT)【試乗記】
厳しく乗り手を選ぶ 2009.12.01 試乗記 アウディA5カブリオレ 3.2 FSI クワトロ(4WD/7AT)……859.0万円
スタイリッシュなクーペ「アウディA5」に、さらなるハレを加える、オープンモデルの「カブリオレ」。肝心の走りは? 乗り心地は?
馬車がかぼちゃにならないように
「アウディA5」のカブリオレを試乗するにあたって、実に困った問題が持ち上がった。着ていく服がない!! こんなステキなカブリオレ、幌を開けたらきっとみんなが見るだろう。自分が通行人の立場だとして、「どんな優雅な人が乗っているのだろう?」と興味津々でのぞき込むことは間違いない。また、お借りした広報車両の色が、いかにもセンスがよさそうな茶色のメタリックにベージュのインテリアというのも困りモノ(?)。このエレガントな内外装に合う服がない。
40を過ぎて初めて、お城の舞踊会に行く前のシンデレラの気持ちがわかった気がする。このクルマにはきっと、重さなんてないぐらい軽くて、フワフワ柔らかくて、薄っぺらいのに暖かい、天女の羽衣みたいな洋服が似合うはずだ。もちろん、そんな洋服は持ってない。仕方がないので、ごわごわしたリーバイスのGジャンで馬車がかぼちゃに戻らないように祈りながら乗り込む。
気恥ずかしいので屋根を閉めて出発。この状態で走る限り、タウンスピードから高速走行まで、カブリオレだとは思えないくらい静かだ。それはなぜかと言いますと、本国ではオプションとなるアコースティックトップが日本仕様では標準装備されているから。これは厚手のクロス地の内部にポリウレタンフォームを充填した幌で、遮音性と気密性が高まるという。その効果はてきめん。
個人的にはソフトトップのカブリオレは少しぐらいうるさくても気にしないつもりだったけれど、静かだとやっぱり嬉しい。人間、一度ぜいたくすると元に戻れないものですね。静かなので、オプションのバング&オルフセンのカーオーディオを試したくなる。あいにくCDを持っていなかったのでいつもの通り文化放送の『くにまるワイド ごぜんさま〜』にラジオをセット、野村邦丸さんの笑い声がいつもよりよく通って嬉しい。
スポーティカーであり、高級車でもあり
見た目だけでなく、走らせても「A5カブリオレ」は優雅だ。乗り心地がしっとりとしていて、しずしずと走る。その理由は、オープン化に伴うボディの補強でクーペより200kg以上重くなっているからだろう。これだけ重量が増えると確実に燃費が悪くなっているはずだけれど、一方で高級車っぽい重厚感を獲得していることも確か。補強は行き届いている模様で、ボディのガッチリ感は大したものだ。幌を閉めて前を向いて運転している限り、屋根がやわらかいことを忘れてしまう。
日本仕様のA5カブリオレのグレードは、「3.2 FSI クワトロ」のみ。パワートレインは、3.2リッターの直噴V6エンジンとツインクラッチ式7段Sトロニックの組み合わせで、駆動方式はクワトロとなる。ちなみにクーペ版の「A5 3.2 FSI クワトロ」にはトルコン式6段ATが組み合わされるけれど、変速のもたつきがないことや、エンジンとダイレクトに繋がっているフィーリングなど、新しいSトロニックのほうが好ましいと思った。クルマ全体がすっきりした印象になる。
低回転域からトルキーな3.2リッターエンジンは、1.9トンを超える重量級ボディを苦もなく動かす。出来のいいSトロニックを操作すれば、高回転域まで引っ張ってスポーティに走らせることも、エンジン回転を低く抑えてお上品に乗ることも自由自在。人間に向かって「あなたは八方美人だ」と言ったらムッとされるけれど、このエンジンには八方美人だと言いたい。で、足まわりも八方美人。低速でひたひた走ってもいい感じだし、山道でちょっとヤル気を出してもついてくる。
ドレスコードあり!?
特に試乗車には、オプションのアウディドライブセレクトが装着されていたので、このクルマの万能性がさらに強調される。これはダンパーの減衰力、エンジン特性、ステアリングフィールまでをトータルで調整するメカニズムで、たとえば「ダイナミックモード」を選べば一気に戦闘モードになるし、「コンフォートモード」では温厚な高級車にスイッチする。
ここで幌を開けてみる。資料には50km/hまでフルオートで開閉できるとあるけれど、その速度はさすがに怖い。幌がぶっ壊れそうな気がするので、20km/hぐらいで走りながら開けてみる。はたして、幌は20秒弱で見事に収納された。自分で運転しながらも、幌を開けた状態がすごくカッコいいことがわかる。なぜなら、周囲の人がじろじろ見るから。このクルマの購入を検討している方は、ものすごく注目を集めることを肝に銘じておいたほうがいい。
乗り心地も動力性能もハンドリングもハイレベルだし、クワトロだからタイヤさえ換えればゲレンデ行き超特急としても使える。荷室には思ったよりちゃんと荷物が積めるし、トランクスルー機構を利用して長尺物を積むこともできる。後席は大人が座るには狭いけれど、子ども2人のファミリーだったら家族旅行にも使える。もしそういう使い方をしたら、世界でも有数の優雅なファミリーカーでしょう。
飛ばしてよし、使ってまずまずの万能カブリオレ。かなり風を巻き込む後席に座ったAカメラマンの帽子が飛ばされて大騒ぎになった以外は、実に平和だ。欠点が見当たらないので、可愛い気がなく思えるほど。ま、これはクルマの欠点ではないけれど、A5カブリオレは厳しく乗る人を選ぶと思いました。Gジャン姿で運転する自分を見た多くの人が、がっかりした表情だったので。
(文=サトータケシ/写真=荒川正幸)
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サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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