BMW M135i(FR/8AT)【試乗記】
色気さえ感じさせる 2012.11.11 試乗記 BMW M135i(FR/8AT)……611万円
BMW M社チューンの3リッター直6ターボエンジンを搭載。新型「1シリーズ」の最強モデル「M135i」に試乗した。
高級スーツのよう
BMW M社の新シリーズ、Mパフォーマンス・オートモビルズの初品ぞろえが「M135i」である。
BMWの高性能モデルと、「M3」に代表される“M”製品の中間に位置するのがMパフォーマンスのコンセプトだという。レーシングライクなMよりエモーショナル。「毎日使えるM」というのが新しいサブブランドのテーマらしい。2012年で誕生からまる40年を迎えたM社の、将来を見据えた新プロジェクトである。
2012年春のジュネーブショーでお披露目されたラインナップのなかには、世界初のトリプルターボ直6ディーゼルを載せる「5シリーズ」や「X5」などもあるが、日本向けの初荷がこのM135i。M社チューンの3リッター直6ターボを載せ、やはり専用チューンのアダプティブMサスペンションを備えた最強の新型「1シリーズ」である。
走り出したのは、BMWジャパンの地下駐車場。スタートボタンを押して始動したエンジンは、Mの面々ほど派手ではなかった。だが、ハンドルを右一杯にきって動き出し、BMWの大型バイクがたまっている区画をすり抜け、車寄せから上りのスロープに曲がったあたりで、ワタシはトロけた。まだウオーキングスピードでしかないのに、なんなんだ、このよさは!
頭に浮かんだのは、アルマーニのスーツである。といっても、触ったことすらないのだが、うわさに聞く高級スーツの着心地が、たぶんこんな感じかなと思ったのだ。洗練を極めると、機械も色気を発する。と言いたくなるようなよさである。
いつでもすばらしい
ボンネットを開けると、エンジンカバーに誇らしく“M PERFORMANCE”と記された直6ユニットは、パワーとエコの両方に効くツインパワーターボを1基備え、ベースとなった「135iクーペ」用3リッターユニットからは14psアップの320psを発生する。
0-100km/hは4.9秒。この科目を「M3」や「M5」と同じ4秒台でこなす、それひとつとっても、Mパフォーマンスの性能的ポジションがわかろうというものだが、M135iの特徴は、サーキットのニオイがまったくしないことである。どこでもすばらしく、そして気持ちよく速いが、いつでも高級。それでいて、1シリーズのコンパクト感は健在。磨きに磨いた高級スポーツハッチである。
変速機は新型1シリーズですでにおなじみの8段AT。時速100kmでのエンジン回転数は8速トップでわずか1700rpm。パドルシフトを引いて4速(4500rpm)まで落としたところで、やっとエンジンらしき微(かす)かなウナリが届く、それほど静かだ。
アイドリングでもまったくボーボーいわない。というか、他の1シリーズ同様、アイドリング・ストップ機構付きだ。エンジン再始動も速いから、キャンセルスイッチに手を伸ばしたくなる気づかいはない。
都心から山梨県の小淵沢を往復する高速道路8割のワンデイツーリングで、燃費は10.3km/リッターを記録。たまたま同道した「アウディA6ハイブリッド」をわずかにしのいだ。A6ハイブリッドも気持ちよく速いクルマだが、それから乗り換えても、M135iはまた別格に気持ちよく速い。それを考えれば、満足すべき燃費である。
FRのアドバンテージ
足まわりは、M社が専用チューニングを加えたアダプティブMサスペンション。対向ピストンキャリパーを備えるなど、ブレーキも強化されている。
車検証によると、前/後軸重は840Kg/700Kg。6気筒エンジンを載せたために、BMWの“車是”ともいえる50:50の前後重量配分は守れなかったが、ワインディングロードでもやはり、気持ちよく、速い。
コーナーの脱出加速もすばらしいが、コーナーへ進入する際の振る舞いも特筆ものだ。シフトダウンしてゆくと、8段ならではの細かなステップでエンジン回転が上がり、爪先で階段を下りるように減速する。
大入力になればなるほど、まるでストロークが出てくるように感じるサスペンションは、乗り心地もすばらしい。ラインナップ上、このM135iが旧型の「130i」に取って代わるモデルと考えると、大きく進化した点のひとつが乗り心地の快適性だと思う。
1シリーズのコンパクトボディーに、大きな6気筒エンジンを詰め込みました、というヤケクソな高性能化の痕跡は微塵(みじん)もない。それがM社の仕事だろうが、さしものM社でも、まさかFFのコンパクトカーで320psをこんなふうに手なずけることはできないだろう。そう考えると、BMWがこだわってきたFRのアドバンテージをあらためてみる思いだ。
価格は549万円。ポルシェ・ボクスターが射程に入るお値段だが、色気さえ感じさせる高級高性能ぶりに「M135i貯金」のしがいはあると思う。少し早いが、2012勝手にマイ・カー・オブ・ザ・イヤーに決めさせていただきました。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=高橋信宏)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
ホンダ・ヴェゼルe:HEV RS(4WD)【試乗記】 2025.11.15 ホンダのコンパクトSUV「ヴェゼル」にスポーティーな新グレード「RS」が追加設定された。ベースとなった4WDのハイブリッドモデル「e:HEV Z」との比較試乗を行い、デザインとダイナミクスを強化したとうたわれるその仕上がりを確かめた。
-
MINIジョンクーパーワークス エースマンE(FWD)【試乗記】 2025.11.12 レーシングスピリットあふれる内外装デザインと装備、そして最高出力258PSの電動パワーユニットの搭載を特徴とする電気自動車「MINIジョンクーパーワークス エースマン」に試乗。Miniのレジェンド、ジョン・クーパーの名を冠した高性能モデルの走りやいかに。
-
ボルボEX30クロスカントリー ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】 2025.11.11 ボルボの小型電気自動車(BEV)「EX30」にファン待望の「クロスカントリー」が登場。車高を上げてSUVっぽいデザインにという手法自体はおなじみながら、小さなボディーに大パワーを秘めているのがBEVならではのポイントといえるだろう。果たしてその乗り味は?
-
メルセデス・ベンツGLB200d 4MATICアーバンスターズ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.10 2020年に上陸したメルセデス・ベンツの3列シート7人乗りSUV「GLB」も、いよいよモデルライフの最終章に。ディーゼル車の「GLB200d 4MATIC」に追加設定された新グレード「アーバンスターズ」に試乗し、その仕上がりと熟成の走りを確かめた。
-
アウディSQ5スポーツバック(4WD/7AT)【試乗記】 2025.11.8 新型「アウディSQ5スポーツバック」に試乗。最高出力367PSのアウディの「S」と聞くと思わず身構えてしまうものだが、この新たなSUVクーペにその心配は無用だ。時に速く、時に優しく。ドライバーの意思に忠実に反応するその様子は、まるで長年連れ添ってきた相棒かのように感じられた。
-
NEW
第323回:タダほど安いものはない
2025.11.17カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。夜の首都高に新型「シトロエンC3ハイブリッド」で出撃した。同じ1.2リッター直3ターボを積むかつての愛車「シトロエンDS3」は気持ちのいい走りを楽しめたが、マイルドハイブリッド化された最新モデルの走りやいかに。 -
NEW
スズキ・クロスビー ハイブリッドMZ(FF/CVT)【試乗記】
2025.11.17試乗記スズキがコンパクトクロスオーバー「クロスビー」をマイナーチェンジ。内外装がガラリと変わり、エンジンもトランスミッションも刷新されているのだから、その内容はフルモデルチェンジに近い。最上級グレード「ハイブリッドMZ」の仕上がりをリポートする。 -
NEW
長く継続販売されてきたクルマは“買いの車種”だといえるのか?
2025.11.17デイリーコラム日本車でも欧州車並みにモデルライフが長いクルマは存在する。それらは、熟成を重ねた完成度の高いプロダクトといえるのか? それとも、ただの延命商品なのか? ずばり“買い”か否か――クルマのプロはこう考える。 -
アルファ・ロメオ・ジュニア(前編)
2025.11.16思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「アルファ・ロメオ・ジュニア」に試乗。カテゴリーとしてはコンパクトSUVながら、アルファらしい個性あふれるスタイリングが目を引く新世代モデルだ。山野のジャッジやいかに!? -
ホンダ・ヴェゼルe:HEV RS(4WD)【試乗記】
2025.11.15試乗記ホンダのコンパクトSUV「ヴェゼル」にスポーティーな新グレード「RS」が追加設定された。ベースとなった4WDのハイブリッドモデル「e:HEV Z」との比較試乗を行い、デザインとダイナミクスを強化したとうたわれるその仕上がりを確かめた。 -
谷口信輝の新車試乗――ポルシェ・マカン4編
2025.11.14webCG Moviesポルシェの売れ筋SUV「マカン」が、世代交代を機にフル電動モデルへと生まれ変わった。ポルシェをよく知り、EVに関心の高いレーシングドライバー谷口信輝は、その走りをどう評価する?

































