アストンマーティンDBX S(4WD/9AT)
深化するアイデンティティー 2026.05.13 試乗記 英国の老舗、アストンマーティンのハイパフォーマンスSUV「DBX」がさらに進化。名前も新たに「DBX S」となって登場した。シャシーを煮詰め、最高出力を727PSに高めるなどの手が加えられたその走りを、クローズドコースで確かめた。最高出力は727PSへ
登場から満6年、DBXはアストンマーティンを支える文字どおりの大黒柱に成長した。今や5000台超の年間販売台数をコンスタントにかせぐアストンの成長ぶりには目を見張るものがあるが、その半分前後を占めるのはこのモデルだ。
なんだかんだでSUVなのね……と、スーパーカー世代はしらけ気味になってしまうかもしれないが、DBXは一概にそういうものとして大括(ぐく)りにできないところもある。21世紀に入ってからのアストンマーティンといえば、代々の主たるスポーツカーに軽量・高剛性で小ロットにも効く「VHプラットフォーム」を用いてきたが、DBXもエアサスペンションを標準装備とするSUVでありながら、この技術を活用した専用設計のアルミ製プラットフォームを開発、採用している。
DBXが搭載するエンジンはメルセデスAMGから供給を受ける「M177」系の4リッターV8ツインターボだ。当初は最高出力550PS、最大トルク700N・mだったそれは、後に追加されたグレード「707」で707PS、900N・mへと強化された。そして今回刷新されたSでは、ソフトウエアの変更のみならず、「ヴァルハラ」向けに開発された大径ツインスクロールターボの採用で、さらに20PSが上乗せされ、727PSと900N・mを発生するに至っている。数値的には、純然たる内燃機のSUVとしては最強のアウトプットとなるが、0-100km/h加速は3.3秒、最高速は310km/hという数値は707に準じている。従来型との違いは、200km/h前後の超高速域における動力性能の差として表れるようだ。
2ペダルのトランスミッションは同じくメルセデスAMGから供給を受ける9段で、ベースモデルはトルコンATだったが、707以降は湿式多板クラッチを用いた「スピードシフトMCT」と同じ仕組みを用いており、よりダイレクトにパワーをつないでいる。トランスファーは0:100~47:53の範囲で前後駆動力配分をリニアにコントロールする電子制御4WDで、リアアクスルにはeLSDのほか、48Vのアンチロール制御システムを搭載する。加えてSは、707に対してステアリングギアレシオを4%クイックに振っている。
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控えめな変更にみるブランドの流儀
707からSへのマイナーチェンジに伴って、エクステリアにも手が加えられているが、その違いは微細で、フロントまわりではグリルのメッシュパターンやウイングレット状のリップスポイラーなどにみてとれる。むしろ、フロントフェンダーに小さく添えられるSのエンブレムや、縦積みとなった4本出しのエキゾーストのほうが識別という意味では明確だ。そういうところは相変わらずで、「わかる人に伝わりさえすればいい」という英国流儀がくみ取れなくはない。
内装は707のモデルライフ後半で、意匠やインフォテインメントが最新のスポーツモデルと同様のものにアップデートされていたこともあり、Sはそれを継承している。操作系は頻用するファンクションを物理スイッチでカバーするなど、機能性にも配慮されたものだ。
試乗は先にリポートした「ヴァンテージS」と同じく、コーンズが運営する「THE MAGARIGAWA CLUB」のコースで行われた。内容もまったく同じ、プロドライバーの駆る先導の「ヴァンキッシュ」を、ヴァンテージSとともに追走する段取りだ。ほかの2台は片や835PSのフラッグシップ、こなたブランドきっての運動性能自慢である。さすがにSUVでそれを追っかけるのは荷が重い。
……とは思いつつも、まあ話にならないほど置いていかれることはないだろうということも予想はできた。過去の試乗で、DBXの一番の美点は抜群のフットワークにあることを知っていたからだ。
数値には表れない魅力がある
決して小さく軽いものではない。なんならホイールベースは3000mmを突破するその車体が、走り始めるとギュッと圧(お)されたかのようにコンパクトに感じられる。サスセットはドイツ系のようにロールをきっちり抑え込んで、横Gとバチバチに戦い抜くような味つけではない。アンチロール制御も使ってはいるが、むしろ脚をよく動かして横Gをうまくいなしながら、アクセル操作でスーッとノーズをインに動かしていくタイプだ。小さく感じさせるし、ストレスなくきれいに曲がるということで、初見の峠道でも巨体に臆せずスラスラと走ることができる。現在はアストンマーティンを離れてしまったが、DBXの味つけを担当したのはロータス出身の名エンジニア、マット・ベッカーだ。その手だれぶりが存分に伝わってくる、DBXはそんなキャラクターだった。
そしてSの振る舞いも見事にその延長線上にある。足まわりはドライブモードを「スポーツ」の側に設定しても、クローズドコースのスピードレンジでは「気持ち柔らかいかな」と思わせるところにあるが、ロール姿勢でも車両情報を豊かに伝えながら、タイヤのグリップ力をきっちり使って曲がり抜く。その所作に、アストンマーティンのクルマづくりの軸足である「GT」の安心感を垣間見られるだろう。ヴァンテージSを上まわるパワーが与えられているとはいえ、さすがにストレートでの瞬発力はかなわないが、その加速の質には野太いサウンドとは裏腹の洗練されたキメの細かさも感じられる。
Sという名に突出したスポーティネスを期待してしまうのは当然のこと。が、DBXのそれは動力性能というアスリート的な価値観だけでは語れない。速いだけではなく、そこに至るまでの行間が深い。そんなDBXの個性や美点がきれいに拡張されているというのが、DBX Sの印象だった。
(文=渡辺敏史/写真=アストンマーティン、webCG/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
アストンマーティンDBX S
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5039×1998×1680mm
ホイールベース:3060mm
車重:2245kg(DIN空車重量)
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:727PS(535kW)/6250rpm
最大トルク:900N・m(91.8kgf・m)/3000-5250rpm
タイヤ:(前)285/35ZR23 107Y XL/(後)325/30ZR23 109Y XL(ピレリPゼロ)
燃費:14.3リッター/100km(約7.0km/リッター、WLTPモード)
価格:3590万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2026年型
テスト開始時の走行距離:485km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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