マセラーティ・クアトロポルテS(FR/6AT)【海外試乗記】
大人になった 2008.10.17 試乗記 マセラーティ・クアトロポルテS(FR/6AT)……1595.0万円
2009年初旬に日本導入予定の「マセラティ・クアトロポルテ」。海外試乗会で、4.7リッターのハイパフォーマンスモデル「S」に試乗したリポーターは、これは単純な高性能バージョンではないと語る。
『CG』2008年9月号から転載。
依然ユニークな存在
マセラーティ・クアトロポルテにオートマチック・モデルが追加された効果は劇的だった。昨年はじめにZFと共同開発した待望の6段AT仕様が追加されてから、その前の年は5500台程度だった全体のセールスが2007年には一気に7000台以上に急伸したのである。しかも現在はクアトロポルテの95%ほどがATモデルで占められているというから、扱いやすいマセラーティがいかに望まれていたかが分かろうというものだ。
ご承知のように原油高の影響で特にアメリカ市場での販売の急減速に悩むメーカーが多いなか、マセラーティは今年も上半期だけで前年比約40%増の4600台強を記録しており、このまま順調に推移すれば9000台を超えると見込んでいる。そのクアトロポルテに4.7リッターエンジンを積んだ「クアトロポルテS」が追加された。といっても単純な高性能バージョンではない。新型はより一層の洗練と余裕を身につけた真のラクシュリー・サルーンと言える。
つい5年ほど前まで、つまりはマセラーティ・クアトロポルテが登場するまで、サルーンの現実的なトップレンジというか、大型ラクシュリー・サルーンのマーケットは非常に限られた保守的な世界だった。選択肢は事実上メルセデス・ベンツSクラスかBMW7シリーズ、そしてアウディA8というドイツ御三家に限られ、付け加えるとしてもジャガーXJぐらいしか候補がなかったと言っていいだろう。
そこに颯爽とデビューしたクアトロポルテは実に斬新だった。フェラーリ譲りの野性味あふれるスポーティなV8エンジンと、ピニンファリーナのエレガントで贅沢なスタイル、そして5m級の大型セダンとは信じられないほど切れ味鋭いハンドリングなどの独特の個性で旋風を巻き起こし、「当たり前」の高級セダンに飽き足らなかった世の中の潜在的カスタマーの心をわしづかみにしてマセラーティ復権の立役者となったのである。
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扱いやすさと個性の両立
とは言っても弱点がないわけではなかった。とりわけ、シャープでパワフルな4.2リッタードライサンプV8ユニットに組み合わされたギアボックス、すなわちマセラーティがデュオセレクト(MDS)と称するセミATは、低速域でどうしてもギクシャクしがちで日常的な実用性にやや難があり、信頼性や耐久性の面でも不安なしとは言えなかった。
それに対する回答が6段ATモデルだったわけだが、その際にイージードライブを求めるあまりにクアトロポルテ特有の美点を失っては元も子もないことを彼らは充分に理解していた。たとえば、オートマチック採用によってトランスアクスル方式を諦めても、パワートレーンをできるだけ低く後方に寄せて搭載することによって、最大の長所のひとつである優れた重量配分にこだわった。新しいクアトロポルテSも49:51と従来どおりの前後重量配分を維持しているという。
日常の使用においてまったく気を遣わずにすむ扱いやすさを要求しながら、同時にあまりに普通になって、他のライバルと比べて選ぶところがなくなってしまうと今度はそれに文句を言う。お客様はいつも欲張りで自分勝手である。市場の要求に応える形で、大男が窮屈な思いをしないで済むリアシートと大きなラゲッジスペースを得た現行のジャガーXJが成功したかといえば、そうとも言えない。扱いやすいに越したことはないけれど、あくまで優先順位はマセラーティらしいゾクゾクするような切れ味にあることを、今回も彼らは忘れてはいないようだ。
角を矯めすぎない
新しいクアトロポルテの概観上の主な特徴は、伝統の縦バーに一新されたグリルとLEDインジケーターを内蔵したヘッドランプユニット、同じくLEDを多用したリアコンビネーションランプなど。今回、ラインナップはノーマルのクアトロポルテ(4.2リッターV8)と4.7リッターV8を積むクアトロポルテSの2車種というシンプルなものに改められた。トランスミッションはどちらも6段ATのみ、ちなみにノーマルでもSでもエクステリアに差はないという。
先に登場したグランツーリスモSと同じく、ボアとストロークの両方をわずかに拡大して4244ccから4691ccへ排気量を増し、従来の4.2リッターバージョンに比べて+30psの430ps(317kW)/7000rpmと490Nm(50.0mkg)/4750rpmを生み出すV8ユニットは、そのパワフルさよりも静かさと豊かな低速トルクによる扱いやすさがまず印象的だった。
もちろん、踏めば7200rpmのリミットまでスムーズかつシャープに吹け上がるスポーティさは従来どおり、メーカー発表の0-100km/h加速も5.4秒とこれまでより若干短縮されているほどだが、おそらくは全体的に分厚くなったトルクの余裕のおかげで、スロットルペダルを深く踏み込む頻度が減ったこと、さらには一段と建つけが良くなったように思えるボディのしっかり感などによって洗練度が強調されているのだろう。クアトロポルテSは新デザインのホイールに前245/40ZR19、後285/35ZR19のピレリPゼロを履くが、以前は時々看取された粗野なハーシュネスはまったく見られなかった。
2009年の初旬ごろには日本市場へ導入されるというクアトロポルテSは、現代的な洗練度とマセラーティらしい野性味を上手にバランスさせたラクシュリー・サルーンだった。分別や社会性を身につけたという意味で一気に大人になったが、むろん八方美人を目指しているわけではないので苦手もある。5mあまりの大型セダンとしては驚くほど小さなトランクなどは最たる例だが、だからこそプライオリティがはっきりと目に見える、ユニークで贅沢なセダンであり続けているのだ。
(文=高平高輝/写真=マセラーティ)

高平 高輝
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