ランドローバー・ディフェンダー 110 XS SW(4WD/6MT)【試乗記】
走るタイムマシン 2008.08.04 試乗記 ランドローバー・ディフェンダー 110 XS SW(4WD/6MT)……880.0万円
ディフェンダーは、いまなお新車で生産される“生きる伝説”。ステアリングホイールからは、デビュー以来60年の歴史がひしひしと伝わってきた。
眺めるだけで“歴史散歩”
ランドローバーのディフェンダーが新車で輸入されると聞いてびっくり。ディフェンダーは生産中止になったものだとすっかり勘違いしていました。
ホントのところは、日本での販売が2005年で終了していただけで、本国イギリスでは今でも生産しているとのこと。
ディフェンダーの日本への輸入を開始したのはPCIという会社で、VTホールディングスの100%子会社。ちなみに、ロータスを輸入するLCIもVTホールディングス配下の組織だ。
乗り込む前に、周囲をぐるっと回っていろんな角度からディフェンダーを眺める。1948年(!)に登場した時から、造形に劇的な変化はない。
ボディがパキパキに角張っているのはアルミ製パネルを用いているから。アルミを使ったのには、第2次大戦後のイギリスでは鉄が不足していてアルミが余っていたという事情がある。そういえば、ディフェンダーは第2次大戦で大活躍した米国のジープを目標に開発されたんだっけ。
なんていう具合に、このクルマは外から眺めるだけで歴史散歩ができる。ステップに足をかけて、高い位置にある運転席によじ登る。よじ登りながら、ディフェンダーの愛用者だったチャーチルやエリザベス女王や白洲次郎も「よっこらしょ」なんてかけ声をかけたのか、てなことに想いを馳せる。やはり歴史散歩だ。
市街地は苦手、クルージングはまずまず
運転席に腰掛けて正面を向いて、もう一度びっくり。外観は昔のままだけど、インテリアはイマ風なのだ。
つやつやした黒い樹脂パネルに銀色に縁取られたメーターが収まっている。クールだな〜と思いながら資料にあたると、現行の「ランドローバー・ディスカバリー3」と共通なのだという。なんというか、おじいちゃんが孫の洋服を借りたような風情がほほえましい。
ネットリと重く、かつストローク量の多いクラッチを踏み込んでキーをひねると、フォード製2.4リッター直4ディーゼルターボがブロロンと目覚めた。これまたストローク量の多いゲトラク製6MTを1速に入れてクラッチを繋ぐ。
このディーゼルユニットは、低回転域からトルクがモリモリ湧いて出るタイプで、発進時に当てずっぽうでクラッチを繋いでもエンストする気配はない。ただし、騒音と振動はそれなり。
1速で「ガラガラ、ゴロゴロ」という音と振動が我慢できる限界である4500rpmまで回すと30km/h、2速だと60km/h。エンジンパワーは2トンを超す車重に充分とは言えないようで、加速は鈍重。都内の一般道の流れに乗るのに気を遣う。6速での100km/h巡航時、タコメーターは2000rpm付近を指している。これぐらいでクルージングしている限り、音や振動は気にならない。
![]() |
おじいちゃんの昔話を聞きながら
音や振動は気にならない一方で、乗り心地は気になる。鋭いショックは遮断されているけれど、上下に体が揺さぶられる。不快というのともちょっと違って、なんだか落ち着かない感じ。以前に比べれば飛躍的に改善されたものの、直進安定性も不足気味。特に高速道路で、横風を受けた時やトラックを追い越す瞬間などにグラッと進路が乱されて、かなりコワい思いをする。
![]() |
用賀インターから東名高速に乗って厚木を過ぎるあたりで肩がぱんぱんに張っていることに気付いた。運転中、直進に気を使ってムダな力が入っていたんでしょう。直進安定性のほかにも、モワーッと頼りないフィーリングのブレーキだとか、極端にスローなステアリングだとか、「むむ?」と思えるところがいくつもある。
でも、モダンなフィーリングが欲しければ最新SUVを買えばいいわけで、ディフェンダーはプリミティブな感触を積極的に味わいたいと考える人のためのマニア案件だ。
歴史散歩をするためのクルマだと思えば、やや古臭い印象のエンジンを労りながら回すことも、全体にモヤーっとしたステアリングやブレーキを丁寧に操作することも楽しめる。そうすると、おじいちゃんの昔話を聞きながら散歩しているような穏やかな心持ちになる。
![]() |
1950年代、このクルマのキャッチコピーは「The "Go anywhere" Vehicle」で、オフロードや泥濘地を越えてどこへでも行けることがウリだった。そしていま、このクルマに乗ると時間を超えてどこへでも行ける。ちょっとしたタイムマシンのようだ。
(文=サトータケシ/写真=郡大二郎)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
-
ホンダ・アコードe:HEV Honda SENSING 360+(FF)【試乗記】 2025.10.10 今や貴重な4ドアセダン「ホンダ・アコード」に、より高度な運転支援機能を備えた「Honda SENSING 360+」の搭載車が登場。注目のハンズオフ走行機能や車線変更支援機能の使用感はどのようなものか? 実際に公道で使って確かめた。
-
ホンダ・プレリュード(FF)【試乗記】 2025.10.9 24年ぶりに復活したホンダの2ドアクーペ「プレリュード」。6代目となる新型のターゲットは、ズバリ1980年代にプレリュードが巻き起こしたデートカーブームをリアルタイムで体験し、記憶している世代である。そんな筆者が公道での走りを報告する。
-
日産リーフB7 X(FWD)/リーフB7 G(FWD)【試乗記】 2025.10.8 量産電気自動車(BEV)のパイオニアである「日産リーフ」がついにフルモデルチェンジ。3代目となる新型は、従来モデルとはなにが違い、BEVとしてどうすごいのか? 「BEVにまつわるユーザーの懸念を徹底的に払拭した」という、新型リーフの実力に触れた。
-
アストンマーティン・ヴァンキッシュ クーペ(FR/8AT)【試乗記】 2025.10.7 アストンマーティンが世に問うた、V12エンジンを搭載したグランドツアラー/スポーツカー「ヴァンキッシュ」。クルマを取り巻く環境が厳しくなるなかにあってなお、美と走りを追求したフラッグシップクーペが至った高みを垣間見た。
-
ルノー・カングー(FF/7AT)【試乗記】 2025.10.6 「ルノー・カングー」のマイナーチェンジモデルが日本に上陸。最も象徴的なのはラインナップの整理によって無塗装の黒いバンパーが選べなくなったことだ。これを喪失とみるか、あるいは洗練とみるか。カングーの立ち位置も時代とともに移り変わっていく。
-
NEW
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】
2025.10.11試乗記新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。 -
航続距離は702km! 新型「日産リーフ」はBYDやテスラに追いついたと言えるのか?
2025.10.10デイリーコラム満を持して登場した新型「日産リーフ」。3代目となるこの電気自動車(BEV)は、BYDやテスラに追いつき、追い越す存在となったと言えるのか? 電費や航続距離といった性能や、投入されている技術を参考に、競争厳しいBEVマーケットでの新型リーフの競争力を考えた。 -
ホンダ・アコードe:HEV Honda SENSING 360+(FF)【試乗記】
2025.10.10試乗記今や貴重な4ドアセダン「ホンダ・アコード」に、より高度な運転支援機能を備えた「Honda SENSING 360+」の搭載車が登場。注目のハンズオフ走行機能や車線変更支援機能の使用感はどのようなものか? 実際に公道で使って確かめた。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の半額以下で楽しめる2ドアクーペ5選
2025.10.9デイリーコラム24年ぶりに登場した新型「ホンダ・プレリュード」に興味はあるが、さすがに600万円を超える新車価格とくれば、おいそれと手は出せない。そこで注目したいのがプレリュードの半額で楽しめる中古車。手ごろな2ドアクーペを5モデル紹介する。 -
BMW M2(前編)
2025.10.9谷口信輝の新車試乗縦置きの6気筒エンジンに、FRの駆動方式。運転好きならグッとくる高性能クーペ「BMW M2」にさらなる改良が加えられた。その走りを、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? -
ホンダ・プレリュード(FF)【試乗記】
2025.10.9試乗記24年ぶりに復活したホンダの2ドアクーペ「プレリュード」。6代目となる新型のターゲットは、ズバリ1980年代にプレリュードが巻き起こしたデートカーブームをリアルタイムで体験し、記憶している世代である。そんな筆者が公道での走りを報告する。